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ヘキサクロス5

 間もなく二分が過ぎ、試合が開始されようとしている。

 予想に反し、エルフェイル側は初期の配置からほとんどポジションを動かさなかった。相変わらず最前線にラウルが残っており、ラスティの攻撃範囲に捉えたままだ。


 ラウルたちの陣形は、前から三・二・一と逆三角形に並んだ比較的オーソドックスなフォーメーションだ。

 前衛にラウル、エルフェイル、ソフィア。中衛にシルヴィア、タチアナの新入生組。最後方、フルバックの位置にアカネといった布陣である。前衛にクラウンであるラウルを置いていることと、近接戦が得意なアカネがフルバックにいることが如何にも奇妙だ。

 対してリーゼロッテたちの陣形は、前から一・二・二・一と鋒矢状に並んだ攻撃的なフォーメーションだ。

 ワントップにラスティ。二列目にスピードのあるセリーナと、斧槍(ハルバード)を用いた中距離戦が得意なジャネット。三列目に盾や鎧を纏った重装歩兵タイプのティナと、ショットガンを装備したミラ。フルバックにリーゼロッテといった布陣である。

 狙いは言うまでもなく敵前衛のラウル。

 仮にラスティが失敗したとしても、すぐに二列目のセリーナたちが追撃に移れるようになっている。


「まずは最初にこちらの先制攻撃を凌げるか――お手並み拝見といきましょうか!」


 リーゼロッテの呟きに呼応するかのように、審判のホイッスルが吹かれ試合が始まった。直後、トップの位置にいるラスティが風の精霊を操り、渦巻状の風を槍に纏わせ大きく薙ぎ払った。


「『風牙斬(エアカッター)』!」


 扇状に放たれる不可視の風の刃が、フレスベルグを構えたラウルに正面から叩きこまれる。

 防御態勢を取ったラウルだがその全てを受けきることはできず、制服に幾つかの裂け目が生じ、袖の部分が弾け飛ぶ。


 風属性の精霊契約者はヘキサクロスと相性が良い。

 風による広範囲かつ不可視の攻撃は命中率が高く、ダメージ自体は少ないものの、安全性のためダメージ許容量の低い競技ルールではかなり有効である。今回防御に徹したラウルでも、ライフがおよそ二割減といったところだろう。

 また、選手の総数が互いに同じ場合、局所的に数的有利の状況を作り出せることが望ましい。風を操っての高速移動が可能であれば、多対一の状況や前後からの挟み撃ちなどの有利な形を生み出しやすくなる。

 競技的に不利な光属性のシルヴィアと違い、ラスティは新入生の中でもトップクラスの有望株なのである。リーゼロッテが、妹だからという理由だけで今回のメンバーに入れたわけでは決してない。


「汚らわしい賊徒め! 覚悟しなさい!」


 このまま遠距離攻撃を続ければラスティが一方的に有利だが、彼女にそんな気はさらさらない。

 多人数同士の戦いでは途中で妨害が入るものだし、そもそも先ほどの攻撃はラウルの体勢を崩すことと、空気を前方に押し出すことで気圧を下げて空気抵抗を弱めるのが目的である。

 槍を構えたラスティは全身に風を纏い、前方に向かって空中を突き進む。

 自らの手で汚名を雪ぐ絶好の機会。手加減抜きの最高速でラウルの元へ突撃する。

 しかし――


「っ!?」


 後方から戦闘を眺めていたリーゼロッテにはよくわかった。体勢が崩れたはずのラウルが地面を蹴り、凄まじい速度で後方へと跳躍していくのを――


「あの脚力――まさか身体強化!?」


 驚愕するリーゼロッテが見詰める中、ラスティがラウルに向けて槍を繰り出す。

 高速移動による運動エネルギーを乗せた超高速の突き。だが、その速度故にラウルが後ろに跳んだことに気付けなかった。


「水天流剣技・霧幻!」


 ラウルは高速で迫る槍とフレスベルグの剣先をぶつけた瞬間、その点を軸に剣を反時計回りに回転させる。それと同時に、身体を大きく捻ってラスティの槍の軌道上からその身を逸らした。


 想定していた衝突タイミングと若干ずらされ、ラスティの攻撃の威力が十全ではなかったこと。

 身体強化を施したラウルが後ろに跳んだことで、ラスティとの相対速度が大きく減衰されたこと。

 エルフェイルがこの展開を事前に読んでラウルに伝えていたこと。

 これらの要素が重なり、本来ならかなりシビアになるはずの剣技のタイミングを、一度切りしかない機会で見事に成功させた。

 この『霧幻』は水天流の中でも、攻撃の回避にのみ重点を置いた防御系の技である。カウンター技を繰り出す『流天』と比べて難易度が低いが、その分成功率が高い。

 退場が即敗北に繋がるクラウンを務める以上、絶対に被弾するわけにはいかないからこその選択だ。

 ――そして囮役であるラウルは、初撃の回避にさえ成功すればそれで十分だった。


「チィッ!」


 自分でも制御しきれないほどの凄まじいスピード。そして刺突という隙の大きな一撃であることが災いし、ラスティは敵陣の中程まで単独で突っ込んでしまった。

 ラスティはすぐに風を操って方向転換しようとするが、それよりも前に正面から突っ込んでくる存在がいた。

 フルバックの位置にいたアカネである。


「――そこだ!」

「なっ!?」


 意識が仇敵であるラウルに集中していたラスティは、居合抜きの要領で刀を振るったアカネに対応することはできなかった。

 アカネの狙いすました一撃を浴び、腹部に致命的なダメージを受けたラスティ。着ていた制服を全損させ、さらには下に着用していたアンダーウェアまでも被害が及び、ほとんど裸同然の格好になってしまう。


「いやぁぁぁぁぁ!? また私がこんな目にぃぃぃぃぃっ!」


 涙目で悲鳴を上げるラスティは光に包まれ、フィールドに施された魔法陣の機能により場外へと転送される。

 これはダメージを受けて戦闘不能判定された選手が不要な追撃を受けたり、フィールドに残って他の選手を妨害することを防ぐための措置である。


「っ、二人とも追撃を!」

「了解です!」


 あまりに呆気ないラスティの退場劇に、リーゼロッテは衝撃を受ける。が、この事態を想定していなかったわけではない。

 すぐに頭を切り替え、二列目にいたセリーナとジャネットに追撃を命じつつ、準備していた雷の精霊魔法をラウルに向けて放射する。


「『弧状の稲妻(アーク・ライトニング)』!」


 リーゼロッテが持つ杖から紫電が迸り、上空から放物線を描いてラウルに迫り来る。

 ラスティの攻撃を躱したものの、体勢を崩した状態のラウルに対応するすべはない――かに思われた。


「ハァッ!」


 動いたのは、中衛の位置にいたシルヴィアだった。投擲用の短剣を構えると、急迫する紫電の軌道上へと素早く投げつける。

 魔力を帯びた金属製の短剣と衝突した紫電は、バチバチと周囲に放電するとその威力を著しく減衰させた。

 その隙にラウルは後退し、アカネのいたフルバックの位置へと移動する。追撃に向かったセリーナとジャネットだが、二人の前にはそれぞれアカネとソフィアが立ち塞がる。


「悪いが、ラウルには近づかせんぞ!」

「あんたたちの相手はウチらや」


 敵の素早い対応にセリーナが舌打ちする。


「小賢しい。異国の留学生風情が!」

「おやおや。これはどうやら一本取られたみたいだね~」


 斧槍を携えるジャネットが、ちらりと敵陣の様子を眺めて呟く。

 リーゼロッテも同様に気付き、思わず歯噛みする。


「チッ……この動き、フリッカーね!」


 試合開始前と現在のエルフェイルたちの位置を見比べれば、ラウルとアカネのポジションが入れ替わっていることがわかる。

 刀を持つアカネが前線で敵を押しとどめ、クラウンであるラウルはフルバックの位置で守りに入る――要するに、極めてオーソドックスな選手の配置となる。

 一般的に横方向のポジションチェンジをスイッチ、縦方向をフリッカーと呼ぶ。

 前者の場合、横目に互いの位置を確認しながら動けるため、難易度は低くアドリブでも対応しやすい。後者の場合、前にいる人間が一々後ろを振り返りながら動くわけにはいかないため、事前に実行するタイミングを取り決めておく必要がある。

 実際、ここまでラウルたちの動きに迷いは見られなかった。最初からデザインされていたのは明白だ。

 ラスティはファーストコンタクトで撃破され、リーゼロッテやセリーナたちの追撃は防がれた。

 リーゼロッテたちにしてみればまんまと一杯食わされた格好だ。戦力外に近いと思われていたシルヴィアにしても、精霊の属性による相性の良さを上手く活かした形である。

 リーゼロッテの雷とシルヴィアの光は、属性的な親和性が高く互いにダメージが入りづらい。攻撃役としては不適当だが、抑え役としてなら十分な働きが期待できる。


「やってくれたわね、エルフェイル! 急造のチームでこれだけの戦術を用意するなんて……けど、まだまだ勝負はこれからよ!」


 気合を入れ直したリーゼロッテは、後方の位置から戦場全体を見渡しながらすぐさま突破口を探し始めるのだった。


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