ヘキサクロス3
「――それでは、これよりヘキサクロス形式での模擬試合を行う」
試合の主審を務める学院の教師の宣言を聞き、物思いに耽っていたラウルの意識が覚醒する。
舞台となるピストの上で各チームが一列になり、互いに向かい合う形で試合の開始を待っている。
リーゼロッテの側のメンバーには余裕綽綽といった態度のものが多い。相手チームに、ラウルやシルヴィアといった明確なウィークポイントがいるのが理由だろう。
対照的に、ラウルやシルヴィア、タチアナといった面々は表情が硬く、緊張しているのが伝わってくるようだ。その代わりに、エルフェイルたち残りのメンバーは泰然とした様子であったが。
「互いに正々堂々、学院の生徒としての自覚を持って戦うように! 双方、礼!」
「「「よろしくお願いします!」」」
主審の合図と共に挨拶が交わされ、両チームがそれぞれの陣地に散っていく。
ヘキサクロスでは、最初の合図から試合開始までに二分間の猶予が与えられる。その間、敵メンバーやそのポジションを見ながら、自分たちの作戦や陣容などを適宜変更していくことになる。
ワルプルギスにおいてメインとなるヘキサクロス形式は、ソロ、デュオと比べてルールが大きく異なる。ソロ、デュオは単純に相手全員を一定以上のダメージを与えて退場させるか、フィールドの外に押し出せば勝利となるが、ヘキサクロスではそれ以外にクラウン、キューブといった特殊な要素が存在する。
クラウンとは要するに総大将のことで、これに任命された選手が倒されると即座にそのチームの負けとなる。またキューブは本陣のようなもので、各チームの自陣最後方に存在し、これを破壊されると同じく負けとなる。
通常、クラウンとなった選手は最後方でキューブを守るポジションに就くことがセオリーである。あるいは、チームで一番の実力者をクラウンに任命することが多い。
実際、リーゼロッテのチームのクラウンはリーゼロッテ自身であり、キューブの手前、自陣の最奥に陣取っている。
しかし、ラウルたちが採った戦術はそのどちらでもなかった。
「あいつら、一体何を考えてるの……?」
リーゼロッテの困惑も致し方ないだろう。
クラウンの選手は視覚的に分かりやすいよう目立つ腕章を付けているのだが、それを付けているのがあろうことか、唯一の男性選手であるラウルだったのだ。
しかも、真っ先に接敵する最前線に配置されている。これはヘキサクロスのセオリーを悉く無視していた。
「お姉様!」
ラスティが戦意に昂揚した目付きでリーゼロッテに訴えかけた。
「私があの男の正面に行きます。今度こそ、私の槍で瞬殺してみせますわ!」
「っ、待ちなさい! 勝手に持ち場を離れないで!」
リーゼロッテが制止するが、ラスティには聞こえなかったのか、あるいは意図的に無視したのか、そのままラウルの正面――ニュートラルゾーンと呼ばれる、中央の境界線を挟んだ進入禁止区域の手前――に移動した。
「クッ、仕方ないわね……!」
リーゼロッテは妹の暴走に舌打ちをしつつ、敵陣にいる人物に目を向ける。
敵陣でメンバーの位置を細かく指示しているのは、高名な魔女の弟子であるエルフェイル・アイアネッタ。間違いなくワルプルギスの見識や実力は上位に入る。その彼女が、このような無謀な行動を伊達や酔狂で許容するとは思えない。
そうした点を鑑みれば、この奇妙な配置も作戦の一部ということだろう。
事実、本来なら中衛の位置に回るはずのラスティが、ラウルの真正面にあたる前衛の位置へと釣り出されてしまった。
過去にラスティが戦った際、カウンター攻撃を食らってラウルに敗北している。おそらくこれはラスティに対する挑発だ。
ただ、そのときの模擬戦では精霊魔法が禁止されていたようだが、今回そういった制限はない。相手が男だからという油断はもうないし、ラスティとしても今度は負けるわけにはいかないと思っているだろう。
相手の手に乗るのは癪だが、上手くいけば初手で試合の決着がつく大チャンスである。無理矢理ラスティを下げる手もあるが、このまま任せるのも選択肢としては大いにありえる。
リーゼロッテは、エルフェイルが率いる敵チームを改めて確認した。
六人のうち半数が、新入生と男という明らかな格下のメンバーで構成されている。であれば、多少リスクのある行動に出ても挽回は十分可能だろう。
(総合力の差を活かして、正面から徐々に押し込んでいくというのも手だけど……ううん。もう決めたわ)
しばし黙考したリーゼロッテは、後方から味方に指示を出す。
ラスティの位置はそのままに、攻撃力のあるメンバーをその後方の左右に控えさせ、二の矢、三の矢とする攻撃的なシフトだ。
こうなると普通、敵はクラウンのラウルの位置を後方に下げるものだが、果たしてどうなるか――
「フン、誰がこんなリスキーな策を考えたのか知らないけど、必ず後悔させてあげるわ!」




