表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/59

決戦前3

 王都の一角に位置する公爵家の屋敷、その一室において。

 天蓋付きのベッドに腰掛けるリーゼロッテは嫣然と微笑んだ。


「華麗に優雅に悠然と勝利を掴む。それがこの私――リーゼロッテ・アーレンスマイヤ。ウフフ……さすが私、デキる女だわ」


 うっとりと自画自賛する彼女に称賛の声が掛けられる。


「流石お嬢様。素晴らしい手腕でございます」


 メイド服に身を包んだ女性の名はセリーナ。幼少の頃からリーゼロッテに従者として仕えている下級貴族の娘だ。

 彼女もまた精霊契約者であり、リーゼロッテと同じ精霊学院に通っている。さらには同じ学年で、去年は同じチームだった。公私ともにリーゼロッテを支えていると言っても過言ではない。


「多少挑発に乗った感はあるけど、結果的には悪くない状況だわ。メンバーの招集やチームの構築も滞りなく進み、戦術や連携を向上させるための時間的な余裕もある。それに対し、相手側はメンバー集めにすら四苦八苦しているそうじゃない。ウフフ、これはもう勝ったも同然よね」


 現状、メンバー集めに奔走するエルフェイルたちとは対照的に、リーゼロッテの元にはメンバーへの応募が殺到していた。

 これはリーゼロッテの今までの実績のほか、今度行われる決闘に勝てば有望株のエルフェイルがチームに加わるという点が非常に大きい。順調に事が進めば、今シーズンのワルプルギスでの活躍は間違いないというのが衆目の一致するところだ。

 現在はメンバーの選定が終わり、これからチームとしての完成度を高めていくところであり、まさに順調そのものだった。

 と、そのとき部屋のドアが大きな音を立てて乱暴に開かれた。


「お姉様!」

「……はしたないわよ。ラスティ」


 姉であるリーゼロッテからの小言を無視し、ラスティが部屋に飛び込んでくる。ラスティの瞳は血走っていた。


「例のラウルという男とワルプルギスで決闘すると聞きましたわ! どうしてすぐ私に知らせてくれなかったんですの!?」

「別に黙っていたつもりはないわ。自室に引き籠っていた貴女が悪いのよ」


 リーゼロッテの言葉通り、あの敗北からラスティは学院を欠席して自分の部屋に籠っていた。身体強化も使えない男に負けたことが、それだけ彼女にとって屈辱だったのだ。

 ラスティは小さく舌打ちすると、姉の元に詰め寄った。


「このまま彼奴に負けたままにしておくことなどできません。今度の戦い、是非私にも参加させてくださいまし! どうか私に汚辱を雪ぐ機会を!」

「ええ、構わないわ」


 呆気なく了承するリーゼロッテ。ラスティが喜色を露にした。


「! ありがとうございます、お姉様。絶対に試合では華麗なる活躍をご覧に入れますわ!」


 気合を入れつつ鼻息荒く退室していくラスティを見やり、それまで黙っていたセリーナが静かに口を開いた。


「……よろしいのですか?」

「勿論よ」


 澄まし顔でリーゼロッテはひらひらと手を振った。


「確かにラスティは入学したてで経験が浅いけど、個人の実力的には確かなものを持ってるわ。汚名を自らの手で雪げるのだから、この上なくモチベーションも上がるでしょうしね。何より、可愛い妹の頼みだもの。姉として可能な限り応えてあげたいと思うのは当然のことでしょ? ――それより、例の件は順調かしら?」

「はい。向こうも乗り気のようです。交渉は滞りなく進むかと」

「結構」


 リーゼロッテは思わずほくそ笑む。


「ウフフ、細工は流々。あとは仕上げだけね。このまま首尾よく決闘に勝利できれば、ようやくあのエルフェイルをメンバーに加えることができる。これで、今まで辛酸を舐めさせられ続けたあの女(・・・)にようやくリベンジできるというものよ!」


 来るべき栄光に向けて気炎を吐くリーゼロッテ。そんな主をセリーナは無表情に見つめつつ、密かに決意を新たにしていた。


**


「まいどおおきに――てなわけで、新メンバーとなったソフィア・グリードや。契約期間内だけの短い関係やけど、よろしゅう頼むわ」


 揉み手をしながら朗らかに挨拶をするソフィア。その目はニマニマとにやついている。

 六人揃ったメンバーの顔合わせのため、放課後の校舎の一室にラウルたちが全員集合していた。


「クッ、金の亡者め!」

「ええ。本当、高くついたわ。結婚資金を一部取り崩すことになったじゃない(ぼそっ)」

「なんや負け惜しみか? そういった台詞はウチにとって褒め言葉にしかならへんな」


 高い契約金を払う羽目になったアカネとエルフェイルが愚痴を溢すのを見て、ソフィアの笑みが一層深くなる。


「……流石はグリード商会の直系ね。大した面の皮の厚さだわ」

「グリード商会?」


 ラウルが首を傾げる。


「『強欲の魔女』と呼ばれる魔女が会頭を務める、大陸一の商会よ。独自の通貨――確かグリード紙幣とかいうのを発行しているわ。国や王侯貴族に金を貸し付けているから社会的な影響力も強いし、ある意味世界を裏で牛耳っている黒幕とも言えるわね」

「ほう。年の割に色々と世間の事情に詳しいようやな」

「これでもシャーロット様に帯同して、命懸けの実戦を潜り抜けたことは一度や二度じゃないの。人の生き死にも経験してるし、後ろ暗い情報に触れ機会も何度もあったわ。あまり私を舐めないことね」

「そんなつもりはあらへんけどな。取り敢えず、貰うた金の分の働きは約束するで」

「そう願いたいわね。結局のところ、肝心の私たちは貴女以外のメンバーを集めることができなかったのだから。それだってラウルが切っ掛けだしね……」


 自嘲気味に呟いたエルフェイルが溜息を吐く。アカネもどこかバツが悪そうだ。


「お姉さま! 私たちを忘れないでください!」

「……ああ、ごめんなさい。あなたたちがいたわね」

「い、いえ、いいんです。本当、私なんか、人数合わせくらいにしかなりませんから……」


 シルヴィアが抗議の声を上げ、彼女が無理を言って連れてきたタチアナが、やや俯き気味に告げる。

 姉を尊敬するシルヴィアはともかく、タチアナは己の実力不足を理解しているためか、逆に申し訳ない気分になっているようだ。

 シルヴィアがタチアナの手を両手で握る。


「人数合わせなんて、そんなこと言わないで! 私も不安はあるけど、一緒に頑張っていこう! それに、足手纏いの筆頭候補ならラウルがいるわ。身体強化も精霊魔法も使えないあいつより役に立たないはずなんてないんだから、気が楽ってもんでしょ?」

「シルヴィちゃん……」

「おい、そこでオレを引き合いに出すのかよ」


 ラウルが小声でぶつくさと文句を言う。


「ところでエルフェイルはん。今度の試合、勝算はあるんかいな?」

「そんなの十二分にあるに決まってるでしょ? じゃなきゃ決闘なんか吹っ掛けたりしないわ。戦いの方針自体は既に考えてあるけど、このメンバーに最適化する必要があるから少し時間が掛かるわね。それが出来上がるまでは個別に訓練をしてもらうわ」

「そうだったのか? わたしはてっきりただの勢いで、何も考えていないのかと思ったぞ」

「……あんたは私を何だと思ってるのよ?」


 アカネをジト目で見詰めるエルフェイル。


「戦いの方針、ね」

「端的に言えば……いえ、今言うことでもないわね。当日を楽しみに待ってなさい」


 エルフェイルは自信ありげに笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ