決戦前2
学院内にあるエミリアに指示された場所へと向かうラウル。
正直嫌な予感しかしないが、曲がりなりにも年上の精霊契約者から頂いた提言を無視するというのも後が怖い。取り敢えず行くだけ行ってみるか、という心持ちで歩を進める。
廊下の角を曲がり、目的地の近くに差し掛かったところ――
「ちょっ、どかんかいそこのボンクラ!」
「え?」
ドン、とラウルは、突然廊下の先から現れた、大きな荷物を抱えて走ってきた一人の女子生徒と衝突してしまった。
「いつつ……」
「あたたた……」
箱に入っていた荷物は中身をぶちまけて転がり、その生徒はぶつかった拍子に、仰向けに倒れたラウルの腹に跨るような格好になっていた。
痛みに呻いていた生徒が眦を吊り上げる。
「ここはウチの大事な店の前や。ボケッと歩いとるんやないで、このアホンダラ!」
「な!? 元はと言えば、そっちがいきなりぶつかってきたんだろうが!」
「ああ? ウチが悪いっちゅうんか? コラ」
「違うのかよ!?」
「あんた、見ない顔やし新入生やろ? ウチは出るとこ出てもええんやけどな?」
「っ、出るとこって……」
「そらワルプルギスやろ。ウチらの他に目撃者はおらず、互いの意見が食い違てるんなら、戦って白黒付けるのがここの流儀や。賭ける条件は、そやな……ウチが勝ったら、あんたがぶちまけた商品を全部購入してもらうで。あんたが勝った場合は――」
「待ってくれ。オレはそんな大事にするつもりはない」
「ほんなら、慰謝料と土下座で勘弁したるわ。ここに正座して額を床に――ん?」
ラウルの身体に跨った状態から立ち上がろうとした生徒は、手を動かしたときに何かに気付いたのか、急に怪訝な顔をした。
「……あんさん、名前は?」
「……ラウルだ」
「ウチはソフィア・グリードっちゅう者や。ふむふむ、そか。ラウルはんか。成る程な」
ソフィアは何やら得心すると、ラウルの手を取って引き起こした。
「? いきなりどういうつもりだ……?」
「いやなに。今回は特別に勘弁したろ思っただけや。……で? わざわざこんな辺鄙なところまで来たんや。ウチに何か用があったんとちゃうか?」
突然態度を軟化させたソフィアに面食らうが、ここに来た用事を思い出したラウルは不承不承話を切り出した。
「ソフィアに用というか、エミリア……さんに、ここに来ればメンバーが見つかるかもしれないと聞いたものでな」
「なんや副会長の紹介か。ほんでメンバーってのは?」
「ワルプルギスのチームメンバーだよ。今度模擬戦をするんだが、どうしても人数が足りなくてな」
「あ~成る程成る程。食堂での一件のことやな」
事情を聞いて再び得心した様子のソフィアは、したり顔で頷いた。
「ラウルはん、確かに期間限定で一時的にメンバーを雇用することは可能や。ウチの店は、金次第で大抵のモンは揃えられる。あんさんの甲斐性がどないかまでは知らんがのう」
「甲斐性か……と言っても、オレは平民なんで懐具合に余裕はないんだが」
「ンなもん、ラウルはん個人やのうて、チームの他の面子や、あんさんの後ろ盾から金銭を引き出せばええ話やろ。少しは頭を使いや」
ソフィアの提案に、ラウルは眉を顰める。
「他のメンバーにしたって、エルフィたちはオレと同じ平民だし、アカネさんは留学生。おそらく金銭的な事情はそう変わらない。それにオレには後ろ盾なんて――」
「何言うとんのや。男の身で精霊学院に入学するなんざ、強力なコネがないとできひん相談やろ? ウチとしては、そっちのほうに渡りが付けられれば万々歳なんやがな」
そう言って、ニヤリと口の端を吊り上げるソフィア。対するラウルは警戒心を露にした。
「ソフィア……あんた、オレのことをどこまで知ってる」
「少なくとも、ラウルはんが考えてるよりも多くのこと知ってるのは確かやで。あんさんのことは事情通の間ではそこそこ有名でな。なんや男の身でありながら、『剣の魔女』に師事した輩がいるっちゅう話やないか。流石に顔や容姿までは知らんかったけど、見た目より筋肉質な身体とラウルって名前を聞いてピンときたわ。近隣の騎士学校に入学したって聞いとったが、いきなりこっちの学院に転入したのは、もしかしてそっちの師匠絡みかいな?」
「……答える義理はないな」
あからさまに態度を硬化させたラウルを見やり、ソフィアは肩をすくめた。
実のところラウル自身、校長の口車に乗せられただけであまりよくその辺の事情を知らないのだが、わざわざそうだと知らせる必要はないだろう。何より彼女は色々と胡散臭い。
「ま、ええわ。そっちについては後回しや。――ほな荷物を片付けたら早速行こか」
「っ、待て。どこに行くつもりだ!?」
「そら勿論、あんさんのケツ持ちのとこに決まっとるやろ。『炎銃姫』――エルフェイルの嬢ちゃんと幼馴染なんやろ? 決闘の話ならもう耳に入っとるし、直接出向いて交渉させてもらうわ」
「それはつまり、ソフィアがメンバー探しを仲介してくれるってことか?」
「仲介も何もあらへん。ウチがそっちのチームに参加するに際し、どれだけ銭を出せるかっちゅう簡単な話や」
廊下に散らばった荷物を手早く回収しつつ、ソフィアは不敵な笑みを浮かべた。




