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再会3

 昼食の時間、学院内に設けられた食堂で、ラウルはテーブル席に一人で座っていた。

 食堂はビュッフェ形式で全ての品が無料とのことで、ここぞとばかりに取ってきたラウルの目の前には幾つもの料理が並んでいる。食事のマナーに関して詳しくないラウルは、周りの生徒たちに顔を顰められるのを気に留めず、豪快に口を開けて食事を頬張る。


「ああ、やっぱり勝利の後のメシは格別だな!」


 元々の素材や料理が一級品というのもあるが、やはり精神的に余裕があると、じっくり料理を味わうだけのゆとりが生まれる。

 模擬戦で敗北したラスティは、体調不良を理由に王都の自宅に帰ってしまっていた。

 あれは言うなれば初見を利用した勝ち方であり、もう一度戦えば勝つのは難しいとラウルは自覚している。なので、早退するほどまで気に病まれると、ラウルとしては若干申し訳ない気持ちになってしまう。


「それにしても――なんか食堂全体が騒がしいな?」


 現在食堂に空席はほぼなく、多くの生徒たちが盛んに会話に花を咲かせていた。

 漏れ聞こえてくる内容から、一部の者は、今日入学したばかりで闘技場で勝利を収めたラウルのことを噂しているようである。が、大部分の者はそうではなかった。


「……この感じ、皆、ワルプルギスのメンバーを探しているのか」


 前にも述べたが、ワルプルギスのメインは六対六のヘキサクロスであり、二名の控えを合わせて一チーム八名まで登録することができる。それだけの人数、当然メンバー集めは容易な作業ではなく、成績上位を狙うチームともなれば実力者の選抜やメンバー構成にも相応の手間暇が掛かる。

 それに加え、メンバー集めに許された期間はおよそ二週間ほどしかない。

 登録締め切りまで残り一週間を切ったこの時期は、この食堂のみならず様々な場所で募集や勧誘が行われており、放課後にもなれば訓練する生徒たちで闘技場はごった返す。


(大変そうだな……ま、精霊契約者じゃないオレには関係のない話か)


 ラウルが他人事だとばかりに皿の上の料理を摘まんでいると、不意に食堂の喧騒が一気に静かになった。何が起こったのかと訝しむ間もなく、食堂の人だかりが左右に割れていく。

 その間の道を通って現れたのは、豪奢なブロンドの髪を縦ロールに巻いたお嬢様然とした少女だった。体格や容貌からして上級生であるのは間違いない。

 ブロンドの少女は、食堂の一角で複数の生徒に囲まれていた人物の元へと向かっていった。囲んでいた生徒たちはそれに気付くと、悔しさや諦念を宿した顔でそそくさとスペースを空ける。

 人垣が無くなりスペースができたことで見えるようになったのは、赤い髪をした少女の姿。その見覚えのある風貌に、ラウルは思わずぎょっとした。


(あいつ、こんなところにいたのか。しかも熱心に勧誘まで受けて……一度挨拶しておかないとまずいか? けど、このタイミングじゃ無理だよな)


「光栄に思いなさい、エルフェイル・アイアネッタさん。この私――リーゼロッテ・アーレンスマイヤが直々に勧誘に来てあげたわよ」


 リーゼロッテは豪奢な金髪をかき上げながら、憮然とした表情で紅茶を啜る少女に話しかけた。


 リーゼロッテ・アーレンスマイヤ。

 去年のワルプルギスにおいて学院最高の成績を上げ、グランプリファイナルにも出場を果たした才媛である。今年のファイナル進出有力候補だが、去年のメンバーの半数近くが卒業してしまい、また一からチームを構築する必要に迫られている状況だった。

 また、実家のアーレンスマイヤ公爵家は過去に魔女を輩出したこともある由緒正しい家柄。トップクラスの実力に加え上流貴族としての権威も持ち合わせており、学院の生徒たちも一目置く存在である。


「ウフフ、気後れする必要はないわ。まだ二年生とはいえ、超有望株(トッププロスペクト)であり、かの高名な『殲滅の魔女』の弟子に選ばれた貴女だもの。私のチームに入る資格としては十分よ。私の輝かしい歴史の一ページに共に名を連ねる栄誉、感涙に咽び泣いてくれてもよくってよ?」

「――そう。悪いけどそのお誘い、謹んで辞退させて頂くわ」


 自信満々に口上を述べたリーゼロッテからの勧誘を、素っ気ない態度で断るエルフェイル。

 アイアネッタの名が示す通り、シルヴィアの姉である彼女は、例によってラウルの幼馴染であり婚約者という親密な間柄である。ただ、精霊学院という女の園に放り込まれた現状では、誤解や嫉妬を与えないよう、事情説明などにも非常に神経を使う相手でも会った。もし彼女の機嫌を損ねでもしたら、正直な話、命に関わるからだ。


「…………は?」


 即答で拒否されたリーゼロッテ。状況を認識できなかったのか、しばし石像のように固まった後、余裕だった表情を一変させて騒ぎ出した。


「り、理解できないわ! この学院でトップと言っても過言ではない、私の誘いを断るなんて……まさか、既に別のチームに参加することが決まってたっていうの!?」

「厳密には違うわね。単に今年入学したばかりの妹と、私の大事な人(・・・・・・)と一緒にチームを組もうと思っているだけよ」

(げっ! もしかしてオレが精霊学院にいるってこと、既にバレてる!?)


 エルフェイルの説明を聞き、リーゼロッテは胸を撫で下ろした。


「なんだ、そういうこと。だったら問題ないわね。妹さんと、その大事な人とやらも私のチームに入ればいいわ」


 するとエルフェイルは大袈裟に且つ、どこかわざとらしく驚いた表情をする。


「あら本当? ちなみに妹のシルヴィは光精霊と契約していて、もう一人は男なんだけど――大丈夫?」

「っ!」


 試すように告げるエルフェイルに対し、何かに思い至ったリーゼロッテは一度言葉を詰まらせた。


「……思い出したわ。そのシルヴィ、いえシルヴィアが今年の首席入学者で、私の妹のラスティが次席だったわね。それに一部で話題になっている、最近特例で学院に来たという男……ラスティが帰り際、その男に辱められたと口にしてたけど――まさか!」

「気付くのが遅いわね。お生憎様、貴女の大事な妹は入試の際のシルヴィに続いて、私のラウルに惨めにも敗れ去ったわけだけど――ねえ、リーゼロッテ先輩。貴女に、この状況で私とその二人を自分のチームに加入させる器量ってあるのかしら? さっきは一度断ったけど、貴女が泣いて懇願するんだったら本当に入ってあげてもいいわよ?」

「――それは……」


 挑発染みたその言葉に、リーゼロッテは内心で激しく迷った。

 正直、エルフェイルがチームに入るのは大きい。掛け値なしに、超有望株である彼女一人で一般生徒二人分くらいの仕事はやってのけるだろう。

 しかし、もしこの状況でエルフェイルを加入させたら、彼女とリーゼロッテの序列は決定的なものになってしまう。下級生相手にマウントを取られるのは確実だ。それをリーゼロッテの矜持は許せるのかどうか。

 いや、そもそも……


「バカにしないでくれる? もしそれで本当に私のチームが強化されるのなら、泣いて懇願するのは勿論、土下座でもなんでもやってやるわよ! けど、首席とはいえワルプルギスにおいては味噌っかすの貴女の妹と、精霊契約者でもない男の加入なんか絶対に願い下げよ! そんな雑魚を入れるくらいなら、その辺の生徒を適当にメンバーに選んだほうが百倍マシだわ!」

「ハ? いまアンタなんて言った? 私の大切な妹と婚約者をクソ雑魚とか抜かしたの? 私の目の前で?」


 キレ気味に返すエルフェイルに対し、リーゼロッテも不敵に見つめ返す。


「あら、わざわざ聞き返さなくてもそう言っ――え? 待って、婚約者?」

「こ、婚約?」

「エルフェイル様が?」


 エルフェイルの問題発言に、周囲で見守っていた生徒たちもざわざわと騒ぎ出す。


(おい、エルフィ! 公衆の面前で何口走ったりなんかしちゃってんの!?)


 別に二人の関係は秘密というわけではないが、エルフェイルの注目度や今のラウルの立場を考えると、余計な波風や要らぬ騒動を巻き起こすだけとしか思えない。

 と――


「ようやく見つけたぞ、ラウル」


 ブッ!


 いきなり名を呼ばれ、思わずラウルは口の中のものを噴き出してしまった。

 エルフェイルに自分の存在が見つかったかと思ったのだ。が、すぐにその声色が彼女のものとは違うことに気付いた。

 慌てて振り返ったラウルが目にしたのは、ポニーテールをした見覚えのある上級生――


「ア、アカネさん!?」

「おいおい、さん付けなど水臭い。アカネと呼び捨てにして構わんぞ。昨日同じ湯を浴びた仲ではないか」


 揶揄い半分に、アカネは軽く手を挙げて挨拶する。

 最初に会ったときは袴姿だったが、現在は学院の制服を着用している。周囲の生徒たちと同じ格好だが、それでも頭一つ高い身長と凛とした立ち姿は一際目立つ。

 ラウルは周りの様子を窺いながら息を潜めるように、


「すみません。その手の話は、下手すると冗談では済まない事態になるかもしれないので……」

「ふむ。まあ確かに、このような大勢の人間の集まる場でする話ではないかもしれんな」


 アカネも釣られて声量を落とす。


「それで、何か御用ですか?」

「うむ。昨日、最後はバタバタして碌な挨拶もできなかったからな。改めてもう一度話をしたいと思い、こうして探していたわけだ。べ、別にあの時見た光景が忘れられずにムラムラしたとか、自分で処理しようとしても上手くいかなかったとか、そういう話ではない。うむ、絶対にないぞ!」

「はあ……(ムラムラ?)」


 ラウルが胡乱な視線を向けてくるのに気付き、アカネはわざとらしく咳払いした。


「それより聞いたぞ。学院の生徒に模擬戦で勝ったらしいな。相手がまだ入学したての一年とはいえ、身体強化もできない男の身で、純粋な剣技だけで精霊契約者に勝つとはな。大したものだ」

「あはは。正直、相手の油断にも助けられたと思います。今回のでオレの得意戦法は明らかになったし、もう一度同じことができるとは思えないですけどね」

「だとしても、だ。この国の精霊契約者は、武器の習熟よりも精霊魔法を重視する傾向にあるからな。わたしとしては、お主のような剣術に只管打ち込む者は非常に好ましく思うぞ。――そうだ。良ければ今度、わたしと手合わせをしてみないか? 精霊魔法も身体強化も使わない、純然たる剣技だけを用いた戦いだ。ラウルの実力が如何ほどのものか大変興味がある」

「へえ、それは悪くないお誘いですね」


 ラウルとアカネがそんな遣り取りを交わしていると、不意に背後から呼びかけられた。


「ラ~ウ~ル~く~ん?」

「ひぃっ!?」


 猫なで声の中に殺気のようなものを感じたラウルは、恐る恐る後ろを振り返った。

 するとそこには、先ほどまで離れた位置でリーゼロッテと話をしていたはずのエルフェイルが、いつの間にかラウルのすぐ後ろに笑顔で佇んでいた。


「な~に、貴方。折角ルベイエールに入学したっていうのに、自分の婚約者を放ってそんな剣術バカと楽しそうに乳繰り合ってるなんて……本当――いい度胸してるじゃない。私のところに挨拶にも来ないから、周りに女性ばかりの環境で委縮して亀のように首を縮めているかと思えば、逆に別の亀の首を伸ばしてよろしくやってたってわけね? ご苦労なことだわ」


 下品かつ棘がある物言い。ラウルにとっては馴染みのものだが、こんな口調のときは大抵頗る機嫌が悪いと相場が決まっている。


「いや、これはその、アカネさんとは昨日学院で道に迷った際、色々と助けてもらってだな……」

「剣術バカとは随分な言い草だな、エルフェイル殿。彼とはちょっとした世間話をしていただけではないか」

「フン、ひとの婚約者に色目を使う不調法者には相応しい呼び名よ」

「……あれ? 二人は知り合いなのか?」


 ラウルの問いかけに、エルフェイルは渋い表情になる。


「ええ。不本意ながらね。ワルプルギスのソロで何度も戦ううちに、少しばかり話すようになっただけよ」

「エルフェイル殿とは同学年でもあるし、お互い孤高というかボッチ気質で、一人でいる機会も多く――というか、婚約者!? なんと羨ま――いや、見損なったぞエルフェイル殿! わたしと同じ武辺者として生涯独身を貫くと思っていたのに!」

「勝手に私の生き方を決めてんじゃないわよ。それに、こいつとはただの腐れ縁。私がいなければ一生結婚できないと思ったから、仕方なく婚約してやってるだけよ。か、勘違いしないでちょうだい」

「クッ、これが勝ち組の余裕か……あれほどの大太刀の持ち主を手中に収めたのだから、それも当然か」


 頬を赤くしてプイッと顔を背けるエルフェイルを見て、アカネがラウルの下半身を横目に捉えながら歯噛みした。

 エルフェイルが小さく咳払いする。


「ところでアカネはラウルと知り合いのようだけど、道に迷ったときに助けてもらったって、それだけ?」

「ああ。別に大したことはしていない。わたしの領域に迷い込んだ際、ラウルの下半身がずぶ濡れになったので風呂に入れてやった程度だ」

「は? 下半身? ずぶ濡れ? 風呂?」


 断片的な単語を拾ったエルフェイルの表情が見る見る怒りに歪んでいく。ラウルが慌てて言い繕う。


「エルフィ、何か誤解してないか? 言っておくが、オレはやましいことなんて何もしてないぞ!?」

「うむ。精々、股間の大太刀を自慢げに見せつけられたくらいだ」

「お前はちょっと黙ってろ! というか、自慢げには見せつけてねえ!」

「はあ? ぜ、全然そんなの大したことないし? 私もラウルと風呂に入ったことくらいあるし、隣で寝ていたときにラウルがおねしょして下半身が――」

「ワーーーッ!!」


 ラウルが、言葉を遮るためエルフェイルの口を物理的に手で塞いだ。


「なに考えてやがる! それって子供の頃の話だろ!? 少なくとも今この場で話すことじゃないだろうが!」

「そ、そんな怒鳴らなくたって……」


 少し拗ねた様子のエルフェイル。半笑いのアカネを、射殺すような目で睨みつける。

 ふとラウルが周囲を窺うと、かなりの人数の生徒がラウルたちの騒ぎに注目しているようだった。先ほどからエルフェイルが自分の婚約者だと言い放っているからか、ラウルに対して刺すような視線が集まっている。

 ラウルが居心地の悪さを感じ、ここから逃げ出すべきか逡巡していると、


「――ちょっと! そこのエルフェイル!」


 ラウルたちに――というよりエルフェイルに向け、憤った様子のリーゼロッテが詰め寄ってきた。


「いきなり会話を中断してどこかに行ったと思ったら、私を無視して他の生徒とくっちゃべってんじゃないわよ! さっきからこの私、リーゼロッテ・アーレンスマイヤに対して失礼じゃないかしら!?」

「あら、リーゼロッテ先輩。まだ居たの? 見逃してあげるから、さっさと尻尾を巻いて立ち去ったらどうかしら」


 これ見よがしに嘆息するエルフェイルに、リーゼロッテの眦が吊り上がる。


「あ、あんた、公爵家の長子であるこの私に向かって!」

「ピーピー五月蠅いわね。まるで羽虫だわ。愛しの婚約者との逢瀬を邪魔するなんて、馬に蹴られた後に眉間を銃で撃ち抜かれても知らないわよ?」

「……この、あったまきた! こうなったら、身の程って奴を直接教えてやらないと気が済まないんだから!」


 怒り過ぎて若干涙目になったリーゼロッテは、やおら別の人間――ラウルに向き直った。


「そこのあんた!」

「え? お、オレ?」


 いきなりリーゼロッテに指を突き付けられ、ラウルは困惑した。


「ラウルとか言ったわね? 名前もラスティが言ってた特徴も一致してるし、女みたいな顔してるけど、エルフェイルの婚約者って話だから男……でいいのよね?」

「いや、今更そんな確認をされても……って、ラスティ? まさかあいつと姉妹なのか?」

「リーゼロッテ先輩。貴女、私のパートナーに言い掛かりを付ける気?」

「フン。こっちの失礼な女もそうだけど、私の妹を衆人環視の中で辱めた蛮行、姉として看過できないわ。汚辱を雪ぐため、あんたにこの場で決闘を申し込みます!」


 エルフェイルの横槍を無視し、リーゼロッテは力強く宣言する。


「はあ!? 決闘って、なんで急にそんな話になる! 学年も違うし、色々と条件が違い過ぎるだろ!?」

「心配しなくても、男であるあんた一人をどうこうするつもりはないわ。そこにいる生意気なエルフェイルも一緒よ! 二人纏めて――いえ、あそこで呆けている留学生も絡んでるなら、三対三の決闘で白黒つけてやるわ!」

「いきなり決闘を申し込むとか、脳筋過ぎて正直笑えてくるんだけど……まあ、戦って決着をつけるってのはいい考えね。私も、自分の婚約者と妹をバカにされて気が立っていたから。――けど、そうね。どうせなら妹のシルヴィアや他の生徒も加えて、六対六のヘキサクロスで決着をつけるってのはどう? もうすぐシーズンも始まるし、そのほうがお互いにとって都合がいいんじゃないかしら」

「あら。それだと実績が上の私に有利に働くけど、いいの?」

「先輩が雑魚と扱き下ろした二人を加えたチームで、完膚なきまでに叩き潰してあげるわ。そうすれば、貴女の安いプライドも地に落ちるでしょ?」


 エルフェイルは余裕の表情で煽り立てる。


「っ、相変わらず減らず口を……!」

「おいおい。勝手にわたしを巻き込まないでくれるか」

「見た目によらず薄情なのね。別にいいけど、その場合ラウルには今後一切近付かないでちょうだい」

「む……わかった。あの大太刀は捨てがたいし協力しよう」


 渋々アカネが納得する。


「だったら、私が勝ったらあんたは私のチームに入りなさい! 一年間徹底的にこき使ってヒイヒイ言わせてあげるから!」

「あら。なら私も条件を付けるわね。そうね……先輩が負けたら、ラウルの肉奴隷になるってのはどう?」

「は?」


 エルフェイルが口にしたとんでもない条件に、リーゼロッテだけでなく周りの生徒たちもポカンと口を開ける。


「エルフィ!? 突然なにを……」

「私のチームに入って献身的に働くだけでなく、夜はラウルの昂ぶりを抑えるために自身の肉体を使って奉仕するの。どう? 素敵な役目でしょ?」

「なんと羨ま――いや、なんと悍ましい条件だ。夜の魔王を抑える役割、わたしも微力ながら協力しようではないか!」

「な、な、な、なに考えてるのよ! そんな条件、受けるわけないじゃない!」


 顔を真っ赤にしながらリーゼロッテは強く拒絶する。


「あらそう、残念ね。なら貴女と同じ条件でいいわ。そっちが負けたら、私たちのチームに入ってタダ働きね。――妹のラスティも一緒に」

「クッ、それは……仕方ないわね。それでいいわよ」


 肉奴隷などという得体の知れないものになりたくないリーゼロッテは、若干不公平だと思いながらも不承不承頷く。エルフェイルの口の端がニヤリと吊り上がった。

 最初に受け入れ不可能な条件を突き付け、その後本命の要求を飲ませるという、交渉事における常套手段だ。


「決まりね。試合は……そうね、ワルプルギスの登録締め切りの前日にしましょうか」

「ん? 夜の魔王の話はどうしたのだ? わたしはいつでもウェルカムだぞ?」

「アカネさん、あんたはちょっと黙っててくれ」

「ハッ、精々首を洗って待ってることね! 絶対に吠え面かかせてやるわ!」

「清々しいくらいテンプレな捨て台詞と咬ませ犬ムーブね。いいわ。貴女のチンケなプライドごと粉砕してあげるから、覚悟しなさい」

「それはこっちの台詞よ!」


 ――急転直下、こうしてラウルたちとリーゼロッテの決闘が決まったのだった。


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