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求眠堂の夢食さん  作者: 和吉
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新たな日常

4月が過ぎ夏の暑さが近づいて来たことによって、街を行き交う人々は4月の初々しさは無くなり緊張で強張っていた新社会人の顔は緊張が消え、毎日の忙しさに疲れを見せ、新入生は新たな友達と交友を深めながら通学路を進んで行く。そんな中求眠堂にも新たな変化が訪れていた。


「こんにちはー!」

「また来たのか、毎日毎日飽きないもんだな」


 勢いよく戸を開き入ってきたのは、この求眠堂の店主の秘密を知り妖怪が関わる世界への好奇心を胸にあの日から毎日この店に訪れている学生、朧月覚。


「そりゃ飽きないですよ」

「何度来たってバイトは雇わないからな」

「え~お願いしますよ~」


 この店で働いたら絶対おもしろいことや知らない事を体験できるとアルバイトとして雇って欲しいと頼み込んだのだが断るの一言で拒否されてしまった。それでも俺はめげず毎日のようにこの店に通い店主さんに頼んでいるのだが今日も断れてしまった。


「あのな~ここは妖怪の店じゃなくて眠りを提供する店なんだよ。妖怪にしか興味ない奴を雇う訳が無いだろ」

「勿論仕事はしっかりしますよ!」

「駄目だ」

「残念です・・・・今日はオレンジの匂いなんですね」

「いきなりだな。おう、今日はオレンジの気分だったからな」

「本当に毎日匂い違いますよね~どれくらいあるんですか?」


 バイトの話は断られてばっかだから偶には違う話をしようと話題を振ってみると夢食さんは作業している手を止めて俺の元まで来ると棚まで案内してくれた。アルバイトの話は毎回拒否するけれど、日常会話や仕事のことに関しては毎回律儀かつ丁寧に答えてくれる夢食さん。アルバイトは雇う気は無いみたいだけど、俺のことを嫌っている訳では無さそう。少し安心した。


「ここに置いてあるのは100種類ぐらいだな」

 

 そう言って棚を開けるとそこにはずらっと、オイルが入った瓶が仕舞われておりその光景は壮観だ。


「100って・・・・多すぎません?」

「客に合わせた匂いを見つけるにはこれぐらいないと駄目なんだよ。本当はもっと揃えたいんだがこれ以上増やすと管理がめんどうだし期限もあるからな」

「へ~期限なんてあるんですね」

「開封した後はどんどん劣化していくからな、大体一年ぐらい持つが半年で駄目になるものもある。だから、このぐらいの量にしておかないと使い切れないんだよ」

「なるほど~」


 夢食いさんの説明を聞き棚に入っている瓶を一つ一つ見てみると


「あれ?なんか同じ匂いの瓶があるんですけど、間違えて買ったとかですか?」

「な訳ないだろ・・・・収穫地や季節、オイルを取った植物の品種によって匂いも変わるんだよ。そうだな・・・・」


 そう言って棚からローズと書かれた瓶を空け、扇ぐように嗅いでみろと俺に渡してきた。


「まずは左からな」


 俺は素直に瓶を受け取り、理科の授業で薬品を嗅ぐように扇ぎ匂いを確かめてみると普段嗅いでいる馴染み深い甘くまったりとした濃厚なバラの匂いを感じられた。


「よく嗅ぐやつですね」

「だな。じゃあこっちも」


 そう言って右手を差し出してきたのでまた嗅いでみると、バラの匂いだと言う事は分かるがさっきとは違い蜂蜜のような甘さと絡みつくようなバラの匂い。さっきの匂いがさっぱりしていると勘違いするような濃い匂いに俺は鼻を離し


「なんすかこれ、すっごい濃いんですけど」

「一応言っとくが同じ量しか垂らしてないからな」

「同じバラの匂いだってことは分かるんですけど雰囲気が違うって言うか濃厚って言うか」

「同じバラだけど、全然違うだろ?」

「はい」

「こういう風に違った物もあるから同じ商品名だけど複数揃えてるんだよ」

「へ~凄いっすね」


 匂いの違いなんて全然意識してなかったけど、同じ種類でも違う匂いがするんだな~


 少しアロマに興味が湧いて来た俺は他の匂いはどんなのがあるかと聞こうとしたら、後ろから戸が開く音がした。夢食いさんはその音に素早く反応し振り返り


「いらっしゃい」

「あの・・・・ここって求眠堂であってますか?」


俺も遅れて振り返ると、そこには離れていても目の下にある隈がはっきりと分かるほど疲れ切っている顔をしているスーツを着た若い女性が立っていた。髪も艶を失い、相当疲れているなと分かる女性はか細い声で訪ねてきたので夢食いさんは優しく落ち着いた声で


「合ってますよ。ここは求眠堂、睡眠に関する悩みを解決する場所です。求眠堂に御用ですか?」

「はい・・・・」

「それでは、こちらにどうぞ」


 夢食いさんの案内でいつもの場所に行った二人は案内書を見せ


「それではご説明をさせて頂きます。ここは、安眠を提供する場でありお客様に合わせた最適な睡眠を提供させて頂いております。まず手順としては、お客様の睡眠の悩みを聞かせて頂きます。そして、悩みに合わせて手法を執らせて頂きますのでよろしければお悩みを聞かせて下さい。勿論必ずお話しいただくことはありません。悩みとはとてもプライベートなもの、無理に聞き出すことは決してありません」


 普段店に居る時は結構ダラけてるけど、仕事になると人が変わったように真面目な顔になるよな~


 俺が来た時にも同じ説明をされたな~と思いながら聞いていると、夢食さんは俺の方を見ると


「朧月」

「はい!」

「中の好きな部屋使って良いから、少し中に入ってろ。んで使った部屋は掛札を入室中にしておけ」

「は~い」


 俺は言われた通り中に入って一番近い和室の中に入って掛札を掛けておく。夢食さんが仕事してる所を見れないの残念だけど、個人的な事を従業員じゃない俺に聞かせる訳にもいかないもんな~俺は急に暇になったので、和室の中を探索してみる事にした。


 畳って珍しいよな。友達の家とかにも無いし爺ちゃんの家ぐらいにしかないんだよな。畳特有の草のような匂いを感じながら、押し入れや棚の中を見ていくけど俺が寝た部屋のように寝具が中に入っているだけだった。


「なんか特別違う物は無い感じなのか~」


 部屋が和室になっているだけで設備は備品の違いは無さそうだな~部屋の中央に座り携帯を弄って時間を潰していると30分ほど経ったぐらいで


「朧月、もう戻ってきて良いぞ」

「は~い」


 声を掛けられたので、夢食さんの所に戻ると部屋の中には甘いが軽い匂いが漂っている。この匂いは俺でも分かるな!


「ラベンダーですか?」

「お、正解だ」

「よっしゃ」


 日常でもよく嗅ぐ匂いだし、母さんがラベンダーの柔軟剤を使っている時期があったから分かったのだ。


「ラベンダーは鎮静作用に優れ最も汎用性に優れたアロマだと言われてる。嗅ぐのも良しマッサージも良し入浴も良しと万能なアロマなんだ」

「へ~アロマって入浴も出来るんですか?」

「おう、風呂にアロマオイルと蜂蜜や塩を入れれば出来るぞ。だが、アロマいオイルの中には刺激が強いものや肌につけるのは良くないもの、妊娠中や子供には使ってはいけないものがあるから専門家に聞いてから使うようにな」

「そうなんすか~じゃあ、今度聞いても良いですか?」

「構わないぞ、バスソルトも売ってるしな」

「え、そうなんですか!?」

「おう、アロマグッズの販売もしてるからな」


 このお店そんな事もしてたんだ。俺が来ている時はお客さんも来ないから、てっきりこのお店大丈夫なのかなって不安になってたんだけど色々なグッズを売ってたりして儲けをだしているのかな。


「おい、なんだその顔は」

「いや別に~そういえばこのお店本当にお客さん来るんですね」

「おうおう、働きたいって言ってたやつが喧嘩売ってるのか?」


 夢食さんは、笑いながら俺にアイアンクローを掛けてきたのは俺は急いで弁明するために手を振りながら


「いやいや、そういう訳じゃなくて俺が来てる時はお客さんいないじゃないですか!」

「お客さんは社会人が多いんだよ、夕方の4時や5時に来る訳ないだろ」

「あ~働いてるから!」

「そういうこと、夜中になればある程度は来るんだよ。それにこの店は睡眠の悩みを解決するためにあるんだぞ?悩みが解消されればもう来なくなるんだ。お前みたいに何度も来る方が珍しい」

「へ~・・・・それ儲かるんですか?」


 夢食さんは溜息を付いてアイアンクローを外すといつもの場所に座り


「生活する分には困らないくらいには儲けは出るんだよ。それにこの店をやってるのは他に理由があるからな」

「理由ってなんですか!」


 この不思議なお店をやる理由は何なのか気になったので目を輝かせながら詰め寄ると、満面の笑みを浮かべながら


「教えない」

「ケチーーー!」

読んで頂きありがとうございます!

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