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51.最近やたらと涙もろいのです。あ…今日もハンカチ忘れました。





 昨日マナトくんに買ってもらったワンピースに紺のジャケットを羽織る。


 念の為、厚手のストールも持って行く。


「シアンが紺だから俺も紺にしたー」と髪をかき上げるマナトくんは、スーツでバシッとキマっていた。程よく付いた筋肉でベストが映える。「やば…カッコイイ…抱かれたい…」


「マジ!?えー嬉しい!いつでも抱くよ?」


 思わず口から溢れた言葉はしっかりキャッチされてしまい、腰を抱き寄せられ左手で顎ををすくわれる。「あ、いや…その…恥ずかしい」


 チュっと軽くキスされて「帰って来たらね?」と言われた。むぅ…。



 電車で行くつもりだったけど、マナトくんが車を出してくれると言う。


 車回すよ。と言ってくれたけど、一緒に出た方が時短だし、2人でマナトくんのオウチに向かう。

 


「車乗ってたんだねー。知らなかったよ」


「最近はあんまり乗ってなかったけどね。ドライブ好きなんだ。今度一緒に行こうね?」


「ふぉー!是非連れて行って下さい!あ、後でウチのマンションの駐車場空いてるか管理会社に聞いてみようか?」


「あ、そうしてくれると助かる。あのさぁ…俺の家引き払って、シアンのオウチに引っ越してもいい?」


「もちろん!」


 マナトくんがウチに引っ越してきても、今とほぼ同じ感じなんだろうけど、嬉しくてワクワクした。



 高級車は乗り心地が良かった。いやホンっトに。


 ケーキを買いに行ってくれていたお兄ちゃんを駅で拾って実家に向かった。


「時間合わせて貰って悪かったな」


「いえいえ大丈夫ですよ」


「あ、マナトくん次の次の信号左です」


「おけ」



 お兄ちゃんを先に降ろしてから、実家の近くのパーキングに停めて実家に向かってる時に、幼馴染みに会った。


「おっ。久しぶりだな!」


 げぇっ!わー。会いたくなかったー。


「…っ。あ…。うん…」思わず俯き、マナトくんの腕をギュッと掴んでしまった。


「大丈夫?車酔いしちゃったもんね。お父さんとお母さん心配してるし行こうか。失礼します」とマナトくんが私を抱え込んでコウくんから庇うように歩いてくれた。


「え、おい」


「は?なにか?」ふお!めっちゃ食い気味っ!戦闘民族!


「あ、いや…」


 すっご!あのコウくんがタジタジしてる!見たか!バカめザコめ!ウチの魔王様を舐めるなよ!




「もしかして、シアン今の奴に意地悪されてたの?」


「うん…。よく分かったね。凄く苦手なの。庇ってくれてありがとう!胸がスカっとしたよ」


「えー?あんなので?シアンが望むならバラバラにして魚のエサにするよ?」


「あ、いえ。そこまでは望みません」


「そーなの?まぁ人の役に立った方が良いもんね」


「ん?うん。そーだね。何のお仕事してるんだろうね。

まぁーったく興味ないけど」



 実家に着くと、お父さんとお母さんが手厚く迎えてくれた。あ、お兄ちゃんも。


「初めまして、詩杏さんと結婚前提にお付き合いさせて頂いております、須藤真人と申します。どうぞよろしくお願いします」


「まぁご丁寧に。遠い所来てくれてありがとうね!とりあえず入ってちょうだい!」


「ありがとうございます。お邪魔します」


「…元気だったか?久しぶりだな。たまには顔見せに帰って来なさい」


「うん元気だよ。そうだね。これからはちょくちょく帰ってくるよ」


 前は、お見合いとか勧められるのが嫌だったの…。



 客間のソファに座ってお父さんとお母さんを私から紹介した。


 お兄ちゃんチョイスのケーキを皆んなで選ぶ。

「詩杏はこれかこれだろ?」とミックスベリータルトと苺のタルトをお皿に出してくれた。

「はいっ!苺タルトです!お兄ちゃん大好きっ!」


「あぁ知ってる」とお兄ちゃんが笑う。



「お酒がお好きだと詩杏さんに伺いましたので。お口に合えば良いのですが。よろしければどうぞ」と手土産を渡し、私には分からない有名なお酒だったようで、「こんな高級品を!」と、お酒好きな両親とすぐに仲良くなっていた。


 ちなみに、お父さんとお母さんがマナトくんの前で腰を抜かさないように、マナトくんが大企業の息子さんだと言う事は、前もって伝えておいた。



 しばらくお母さんやお兄ちゃんの近況報告を聞いて談笑した。


 一旦落ち着いた所で、「本日はお時間をつくって頂きましてありがとうございます」とマナトくんが言った瞬間に、明らかお父さんの空気がピリ付いた。


 それでもマナトくんはそんなお父さんを真っ直ぐに見つめて「今日はふたりの結婚のお許しを頂きたく、ご挨拶に参りました」と続ける。


 お父さんは、右手で大きく額を覆い、膝に肘を付いて俯いてしまった。


 え、ちょっ、どうしたのお父さん!殴らせろとか言わないよね!?


 お母さんもお父さんの様子がおかしい事に気付いて、お父さんの背中をさすっていた。



「詩杏さんを愛しています。思いやりがあって優しく明るい詩杏さんがずっと笑顔で居られるように、何があっても僕が全力で守ります。どうか詩杏さんと結婚させて下さい。お願いします」そう言ってスっと頭を下げる。


 力強く心地の良い声でマナトくんが言ってくれた言葉に、嬉しくて照れくさい反面、お父さんが大変な事を言い出すんじゃないかと、冷や汗が出た。


 お父さん!いいよ!って言ってぇ!?このはヤバイ…。気マズイて!



 お兄ちゃんを見ると、眉間に皺を寄せてお父さんの様子を伺っている。


 お母さんがお父さんの背中を優しく撫でながら、「ねぇパパ?何か言ってあげないと、しぃちゃんが不安がってるわよ?ね?頑張って?」






「……っ。ふぅ…。…うぅっ…」



 ずびっ。じゅび…。じゅる…ずずっ…。と小汚く鼻をすする音がした。


ずずずっ…「しぃちゃんが…」じゅび…

「ママ…僕たちのしぃちゃんが…遠くに行っちゃうよぉ…」



「うんうん、そうね。パパはしぃちゃんが大好きだもんね?寂しいよね。でも真人くんになら、安心してしぃちゃんを任せられるんじゃない?」


「うん…分かってる…。うぅ…分かってるけどぉ…。会えなくなるの寂しいよぉ…」


 そっちー!?


 マナトくんも息を詰めていたんだろう。大きく息を吸ってゆっくり吐き出していた。



「…まなとくん…。

 …しぃちゃん…は…傷付き…やすい…んだ。だから…どんな時も…優しく接して…あげて…下さい。

僕たちの…僕たちの宝物なんで…。しぃちゃんの事よろしくお願いします」


 途中ズビズビひっくひっくなり過ぎて聞き取りづらかったけど、多分聞き取れた。と思う。



「はい!ありがとうございます!僕にとっても詩杏さんは宝物です。一生大切にします!」



「しぃちゃん…幸せになるんだよ…?」とお父さんが顔をぐしゃぐしゃにして言うから、もらい泣きしてしまった。



「うん…。お父さんありがとう。私もお父さんの事だぁいすきだよ」と言うと、お父さんが、わぁーーー!と泣き出してしまった。



 だいぶ時間が掛かったけど、お父さんが話しを聞ける状態に戻ったので、今後の話しをサクッと切り出した。



 来月入籍をしたい事と、来年の春頃式を挙げたい事を伝える。


 現実的な話しなのと、来月入籍が急過ぎてビックリしたのかお父さんは口をパクパクしていたけど、お母さんが「おっけー。分かったー」と返事をしてくれたので、「今日はご挨拶でお伺いしましたので、そろそろ失礼致します」と帰る事にした。


 お兄ちゃんが、俺もちょっと出るわ。と一緒に出て来たので、何か食べ行く?と3人で食事をする事にした。




「ってか、マナトって俺より年上かと思うくらい堂々としてんな!俺も彼女の家に挨拶に行くから参考にさせて貰うわ!」


「え?堂々としてました?ドキドキし過ぎて心臓ちぎれそうでしたけどね」


「えー!あれで?さすが貴族は違うね」


「あー。なんだやっぱ貴族だったか。どーりで」


「はは!違いますから」


「え、どっち?違うの?」


「いや、貴族だよ?」


「違うって」



 食後のコーヒーを飲みながらお兄ちゃんが言う。


「ってか…。父さんの泣き方よ…。あんな父さん初めて見た。俺笑い堪えるの大変だったわ…。最初、殴り掛かるのかとヒヤヒヤしたってぇ…」


 お兄ちゃんはお父さんが殴り掛かりそうになったら羽交締めにしようと身構えてくれていたらしい。なんと頼もしい。


 ありがとねお兄ちゃん。でもね?マナトくんめっちゃ強いからお父さんにはやられないと思うの。


 マナトくんに腕捻りあげられるお父さん見たくないわぁ…。マジで。






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