お化け屋敷のお化け役の人って大変だと思うの。
今日はオブジェ作りを進めたかったので、暇かもしれないけど、作業部屋に付いて来て欲しいと伝えると、作ってるとこ見ててもいいの?と、とっても喜んでくれた。ダイニングからイスを持って来て隣りに座って貰った。
色々質問してくれて、俺も作ってみたいと言うので一緒に作る。
好きな人と、同じ時間をこんな風に過ごせて本当に幸せだとしみじみ思った。
いやまぁ分かってはいたけど、マナトくんの手先の器用さと、センスの良さに度肝を抜かれた。あのぉ…もしかして実は有名な作家先生だったりします?と思った。
日曜日は1日創作活動に励んだ。
翌朝。
シャワーを浴びるには…当たり前だけど、お風呂場へ行かねばならない。むぅ…怖い。マナトくんを起こすか迷う。迷ったけど、まだ1時間半くらい寝られるのに起こすのは申し訳ない。
スマホで音楽を流しながら入れば何とか…。そうだ!朝だし!多分朝はお化け居ないから大丈夫!多分絶対!
部屋中の電気を付けながらお風呂場へ向かいやっぱり怖えー。と思いながら服を脱ごうとすると、
「シアンおはよ。起こしてくれていいのに。怖いのに我慢したの?」とマナトくんが抱きしめてくれた。
なにこの完璧彼氏…。
「マナトくーん…。ありがとう。ホント大好き…そしておはよ」
2人だから立ったまま髪を濡らしていたら、後ろから胸を揉まれ、ガチガチの何かをお尻に当ててくる。
「ちょ、っと」と抗議すると、スっとシャワーの吹き出し口に頭を戻された。
「…うぅー」
「だって昨日は寝る前に1回しかしてないからシアンが足りないし、こんなエロい身体してるシアンが悪い」
うん…寝る前にしたよね。…私のせい…!
またもや朝から喘がされてぐったりだった。
平日の朝は、こっそり気付かれないようにシャワーを浴びないといけないと悟った。
少しのぼせてしまったので、お水を飲みながらソファで横になっていると、「大丈夫?今日は休んだら?」と肩を揉んでくれた。「あはは!めっちゃお休みさせようとするじゃん」
引継ぎ終わらなかったら有給消化出来ないんだからね?
「あぁ。可愛い…エロい…食べちゃいたい」と、また不穏なセリフが飛び出したので、飛び起きてマナトくんのお弁当だけマッハで作った。
「シアンのお弁当は?」
「めちゃくちゃ美味しいお店見付けたから退職する日まで通うか…。と思って、コンビニ弁当で済ませるかギリギリまで迷おうと思って。退職したら行く事ないだろうし」
「…ん。最近?どうやって見付けたの?」
「うん先週ね。吉木くんのおすすめのお店」
「もぉー。やっぱり…またアイツ?」
「わぁ〜。マナトくんがヤキモチ妬いてくれてる!嬉しい〜。可愛い〜マナトくん!」
「うーん…」
「ふふふ。私はマナトくんしか好きじゃないんだから、BL男子の事は気にしないの。
さて、まだちょっと時間あるし、私はいちごジャムたっぷりのトーストにしようかな。
マナトくんも食パンでいいなら一緒に焼くよ?ピーナッツバターにチョコソースか、目玉焼きとスライスチーズか…バターだけか。
あ、冷凍の明太子チューブがあるから、めんたいバターもできる」
「へぇ〜全部美味しそう。
んー。今日はめんたいバターにする」
「あ〜ん美味しいよねぇ!」
「あ〜んって。俺作るから大丈夫だよ」
「ありがとぉ。じゃあ使う分だけ出して解凍しとく!きざみのりいる?」
「お、いいね〜」
「ちょっとなにこれ!?朝から楽し過ぎるんだけど!仕事行くの躊躇する…」
「だから休めばいいとあれ程…」
「あぁ…マナトくんの事好き過ぎてしんどい…」
「それは俺のセリフだし…。俺がどれだけ我慢してるか…」
朝ご飯をイチャイチャしながらサクッと食べ終わり、軽くお化粧をして家を出た。
会社の近くのコンビニの前に吉木くんが立ってた。
「吉木くん。おはよう!」
「おはようございます」
「どうしたの?誰か待ってるの?」
「あーはい。楠木さん今日はお昼ご飯どうされるんですか?」
「そうなのよねー、コンビニ弁当にするかまだ迷ってて…。吉木くんに教えてもらったお店に行きたいんだけど、行ってもいい?」
「もちろんですよ!一緒に行ってもイイですか!?」
「え、あぁいいけど、吉木くんはいいの?」
「はい!もちろんですよっ!」
「あはは!わんちゃんみたい!大型犬のね」
「俺、お手も待てもしないし、散歩に出たら飼い主を引きずり回しますよ。それに、美味しそうな物食べてたら押し倒して舐めまわして口の中に舌入れて食べちゃうかも」
「んまぁ〜悪い子ちゃんね!ふふふ。吉木くんがセントバーナードに見えて来た!じゃあ、今日はランチを美味しく頂く為にコーヒーやめとくから先に行くね?」
「あ、はい。行きましょうか。…バーナードですか?もうちょっとキリっとしてるんでシベリアンハスキーとか、俺優しいしレトリバー系じゃないです?」
「ごめんごめん食いしん坊な映画のイメージが先行しちゃった」
午前中は、自分の業務優先で仕事を回す。手が空いたから、マニュアルを作り始めるとすぐにお昼休みになった。
「時間経つの早いねっ。お腹空いた!吉木くん行こう!美味しいランチが待っているっ!」
「はい。今日の日替りは、ミートハンバーグドリアとカルボナーラのセットだそうです。違うのがいいですか?」
「えーーーー!美味しそう!それにするっ!」
「じゃあ、作り始めてもらいますね」
「ありがとう!へー凄い!予約出来るの?」
「出来ないですよ?」
ビックリして二度見してしまった。
「あ、普通は出来ないです。俺は出来ます」
「ああー。あぁ…?
いやしかし、ミートハンバーグドリアとカルボナーラのセットだなんて…。なんと罪深い…私を絡め取りに来ている」
あまんじて捕らわれようではないか。
お店に着いて「いらっしゃい」と、言われると吉木くんが照れくさそうに「うん」と言った。
「あ、俺の母さん…。あっちから覗いてる顔の濃いのが父さん…。今お水入れてくれてる顔の騒がしいのが姉さん」
「ご家族っ!…あっ!吉木くんにはいつもお世話になっております。楠木と申します」
「来てくれてありがとう!ランチ始めたばっかりだから嬉しいわ!」
「ちょっとぉ誰が騒がしい顔よ。いらっしゃいませ。こちらこそウチの弟がお世話になってます。ごゆっくりどうぞ」
お姉さんはお父さん似なんだろう。だいぶ外国人よりの美女!
私達がお店に着いてから、お客さんが入り始め、すぐに満席になってしまったので、見られ過ぎて食べづらいなんて事にはならなかった。マジでよかった。美味しかった!感動したっ!
「また来てねー」と吉木くんのお母様が見送って下さった。
なるほどぉ…。吉木家…そりゃ俺は予約出来るわぁ。
「退職するまで毎日通いたいって思ってたけど、恥ずかしいな…」
「え!?恥ずかしくないです!先週行った日に、また連れて来て欲しいって母さんからメール来てましたし!一緒に行きましょうよ!」
「え、あ。ホントぉ。そーだなぁ。東京に住んだらもう来られないだろうし…。じゃあ、明日からもよろしくね?」
「…東京に…引っ越すんですか?」
「うーん。ゆくゆく本社にって言ってたから…」
「そっかぁ…。楠木さんともう会えなくなるのか…」
「そーだねぇ。簡単には会えなくなるね。寂しいねぇ…」
会社に戻ると、「悪いんだけど…」と資料の整理を頼まれた。
マジで!?なんでこのタイミング…。資料室は元々不気味で怖いのに…本気でムリ…。先に電気を100倍に増やして戦隊モノの音楽を流して下さい!
吉木くんには自分の仕事も引継ぎもあるんだし…。と悩んだ結果。
申し訳ないけど、お願いする事にした。だって怖いんだから仕方ないじゃないかっ!
お願いする時の最高峰の姿勢でお願いする。
その名も、しゃがみお願い。もちろんしゃがんで歩いて行く。隣りだからね!
「吉木くん吉木くん…。お願いがあるんだけど…」
「…えっとー。何してるんですか?」
精一杯のお願いの眼差しで見つめる。
「資料の整理をお願いされちゃって…。怖いから付いて来て欲しいの…。お願い…」
「…っ。大丈夫ですよ。少しだけ待って下さい。すぐ終わらせますので」
「じゃあ、トイレ行って飲み物買ってから向かっとくね吉木くんなんかいる?」
「あー。はい。楠木さんと一緒ので。すぐ行きます」
「おけー」
トイレに行ってスマホを確認すると、マナトくんからメールが来ていた。
『シアン今日は結局ランチは食べに行ったの?
今度俺も連れて行ってね?』
可愛すぎるぅ〜。
『うん、食べに行った!めちゃくちゃ美味しかった!ホントにマナトくんにも食べさせてあげたい!』
飲み物は資料に掛かって汚すといけないからお水にした。
あ、吉木くんもお水でいいのかな?まぁいいか。
資料室の前で少し待っていたけど、吉木くんはまだ来ない。もしかしたら、先に入ってるかも知れない。
あー。でもヤダなぁ。ドア開けるのも怖い…。少しだけドアを開けてみる。重いドアがギィーーーーっと鳴った。それだけで心臓がドキンっ!と跳ねる。中は真っ暗だった。
あ、ムリ。ドアの隙間から白い手が出てきて手首を掴まれる想像をして怖くて手を離した。
吉木くんまだ来てないしもう少し待ってみようかな…。
あー情けない。仕事なのにこんなんじゃダメだ。お給料貰ってるんだから!
じゃあ、ドアを開いておいて、先に電気を付ければこっちのもんよ!
スイッチは確かドアを開けて左手の壁にあったはず。
すーはー。すーはー。よしっ!やったるでぇ!
ガチャっ!!と勢いよく扉を開けて、脳内でお化けの額にドアをゴーンとやった。
『ゴーーン!!』と凄い音がした。
「ひっ!」
慌てて外に飛び出る。
やった!やってしまった!お化けに攻撃してしまった!
脳内の怖いお姉さんが額を押さえて私を睨んでる!
怖くてフロアに戻ろうと走り始めたら吉木くんが走って来てくれた。
「楠木さん!大丈夫ですかっ!すみません!出る時に用事を頼まれてしまって!でも、なんか怪しいから…。楠木さんはどうしたんですか?」
「中にお化けがいて…」
「…へ?お化けですか?」
「うん。多分お化けの額にドアをぶつけちゃったから慌てて出て来た」
「…。ところで何の書類を整理しなきゃなんですか?」吉木くんが大きな声で聞きながらドアをゆっくり開けた。
「えーっと。行ったら分かるって言われて…」
「そうですか…。それ急ぎですか?課長が呼んでたので呼びに来ました。書類整理は後で手伝いますから、先に課長のトコに行きましょうか」
「あら課長が?」
とりあえず、見たら分かる書類整理とやらを確認しておこうと、吉木くんにドアを開けて貰っておいて電気のスイッチを手探りで探した。スイッチはあったけど、動かない。パチっとならない。
「ん?おかしいな。電気のスイッチ…押せない。ビクともしない…」
「え…?ドア押さえといてもらえますか?」
「うん…」
と、一瞬の静寂の中、確かに中から複数の呼吸音の様な物音と何かの気配がした。
凄い勢いでゾゾゾぉ〜っと全身に鳥肌が立った。
「吉木くん!もう行こう!」と慌てて言うと
「あ、はい」と、サッと出て来てくれた。
「楠木さんが中に入らなくて良かったです。電気のスイッチ、ガムテープかなんかが貼られてて固定されてました」
「げっ!なんで!?そんなのドアが閉まって電気付けられなかったらパニックじゃん!酷いイタズラ!小学生かっ!やめて欲しい。こっちは怖がりなんだぞっ!」
「そうですね…。変な人が多いから、次からも絶対に1人で行かないで下さいね。ちなみに課長は呼んでないんで、仕事に戻りましょう。書類整理は…多分あのイタズラに嵌めようとされたんですよ」
「え?あぁ。最悪だね。ホント。でも変な物音して気持ち悪かった。資料室一生行かない」
「はい。1人で真っ暗な中に閉じ込められると困りますもんね?」
「うわぁ…ムリ…怖過ぎて吐くかもしれない…」
週末にホラー映画を観てなかったら、吉木くんに気を遣って声を掛けずに1人で資料室へ行ってたでしょう。セーフでしたね。




