吉木くん side 大好きな先輩
俺は、今年新卒で入社した吉木涼。先月23歳になった。
配属先で隣りの席になったのがとんでもなく可愛くてスタイルの良い楠木さん。いい匂いだし…ホントに可愛い。
下の名前はなんて読むんだろ。しあんかな?しあんでいいのかな?「楠木さんって下の名前しあんって読むんですか?」と聞くと「そーだよ?しあんだよ?よろしくね」と少し首を傾げて笑った顔が未だに忘れられない。顔も名前も性格もめちゃくちゃに可愛い!
好き過ぎてめちゃくちゃに緊張してしまうから話しかけられない。こんな事今までなかったのに…。
楠木さんに話し掛けたい!遊びに誘いたいって思うのに、「ん?どーしたの?」って顔を覗き込まれると頭が真っ白になって言葉が出てこないんだ。
いつも気に掛けてくれるし、困ってたら解決策を教えてくれながらフォローしてくれたりするから、俺の事好きなのかな?とか最初はちょっと思ってたりしたけど、他の男にも女にも同じ感じだった。
とりあえず、ランチとか夜ご飯に誘いたいけど、いつもお弁当作って来てるし、なんて言えば良いのか分からなくて、勇気もなくて誘えなかった。
そしたら、連休明け久しぶりに会えた楠木さんは何と言うか異様だった…。
見てはいけないものを見てるような気持ちにさせられると言うか…。
チラチラと横目で様子を伺っていると、ホントにずっとうわの空だし、たまに信じられないくらいエッチな吐息を吐いてた…。
楠木さん…。休みの前の金曜日は普通だったのに。
何があったの?
お昼休みに携帯を触って微笑んでる楠木さんを見て用もないのに、後ろを通って画面を見たら、メールをやり取りしてた。
『愛してる』と言う文字がチラっと見えた…。
誰とメールしてるの…?胸が苦しい…。そっか…。そりゃそーだよな…。彼氏くらいいるよな…。こんなに可愛くて優しいんだから。
デートに行くシュミレーションをしたり、付き合いたいな…。なんて妄想してた自分が哀れになった。
資料を見るフリをして遠くから楠木さんを見つめる。
あ!もしかしたら、めちゃくちゃブサイクで楠木さんを大切にしないサイテー彼氏かもしれない!そしたら俺にもワンチャン…。そうだ!絶対ムリって決まった訳じゃないし!
楠木さんは俺が幸せにするんだ!
そう思ってトイレに行ったら、ビックリするような会話が聞こえてきた。
「なぁ…今日楠木ヤバくない?」
「ああ思った!エロ過ぎ…」
「前からエロい身体してたけど今日はなんかヤバい」
「さっき後ろ通った時に、髪の毛が別れてて首が見えたんだけど、キスマーク付いてた。俺もヤラしてくんねーかな」
「だな…」
「清楚代表って感じだったのに、男を咥え込んだか」
「あぁそうか男の味を知ったのか」
「彼氏より善がらせてやればこっちに堕ちるんじゃね?」
「資料室とか入ってったら皆んなでヤル?」
「わぁヤリてぇ…」
「資料室に呼び出してみるか…」
出てくる気配がしたから給湯室に飛び込んで身を潜めた。
頭おかしいんじゃないのか!?
変なヤツらから楠木さんを守らないと!
フロアに戻ってざーっと見渡すと、何人もの人が楠木さんの事を盗み見ていた。
さっきのは誰なんだろう。分からない。
定時になって楠木さんが課長と話し終わって帰る用意を始めたから勇気を出して、休み中なにかあったのか聞いてみた。
「ん?どうして?」と首を傾げる。可愛い…。
気を付けないと変なのに食べられるよ。と言うと
ホラー映画かと笑われた。
不穏な話しを聞いたから、資料室とか作業部屋とかに絶対1人で行かずに、俺か平井さんに声掛けるように言った。
楠木さんは、承諾したけど、資料室は幽霊が怖いと言った。まぁそれはそれで怖いけど、人間の方が怖いから。
とりあえず、1人にならないようにと念を押した。
念の為、下まで送って行く。
楠木さんを守る為に。犯罪者を生まない為に。
1階に降りると、楠木さんはスーツの人に駆け寄った。
「どーしたの?こっちに用事あったの?」
「お疲れ様。心配で迎えに来ちゃった」
誰だろ。キレイな顔をしてるな。あんまり似てないけど兄妹?お兄さんかな?
「わぁありがとう。あ、この子後輩の吉木くんだよ。
吉木くんありがとね!この人彼氏の須藤真人さん」
え!?彼氏…。めちゃくちゃブサイクなサイテー彼氏じゃないのか…。
「彼氏!?…あ、初めまして、吉木です」
「ども。須藤です」
あ、ヤバ敵認定された…。
「じゃあ、俺はコンビニ行くんで。お疲れ様です」
「うん。お疲れ様。また明日ね」
楠木さんの彼氏…。めちゃくちゃキレイな顔してた…。心配で迎えに来た。か…。ちゃんと大切にしてもらえてるみたいだな…。
そっか…。
楠木さん…。幸せそうだったもんなー。サイテー彼氏な訳ないかー。
特にコンビニで買う物もなくて、フロアに戻った。
課長に呼ばれ用件を聞いて膝から崩れ落ち掛けた。
楠木さんが退職する…?もう接点がなくなっちゃうじゃないか…。
結婚…するのか…。心がどん底まで落ちた。話しを聞いたのが楠木さんが帰ってからで良かった。本人から聞きたかったと一瞬思ったけど、本人から聞いてたら泣いてしまったかもしれない。
これで良かった。明日はちゃんと祝福するから。今日は落ち込ませて。
あまり眠れなかった。
お昼ご飯を楠木さんの隣りで食べたいからコンビニに買いに行く。
コンビニに入ると楠木さんが居た。やっぱり可愛いなぁ。
近付くと空気が澄んでいるような気がした。んな訳。
2度寝したからお昼ご飯を買うと言う。
よく見れは髪の毛が全然乾いてない。髪をふわっと触るとめちゃくちゃ良い匂いがした。
ちょっと、この人こんないい匂いさせながらここまで来たの?電車乗り合わせた人達かわいそうに…。
しかも今日はノーメイク?なんか…エッチだな…。
あ!待って!ランチ行きたい!ダメ元で誘ってみよう!
一緒に行ける事になった!ヤバイ!めちゃくちゃ嬉しい!
楠木さんがカフェオレ買うなら、俺もカフェオレ買うし。
ランチで向かったのは、親が経営してるカフェ。元々夕方からカフェBARで営業してたけど、少し前にランチを始めるから、たまにおいで。と言われて楠木さんがお休みの日は来てた。
楠木さんがグリルチキンとシチューパイを頼んだから、俺も一緒のにした。食べてる姿も可愛い。
もっと早くに来たかった…。と言う。
ホントに…もっと早くに勇気を出して誘えば良かった。
全ての出来事は、将来上手くいく為のステップなんだと言われた。
嬉しかった事も苦しかった事も全部、無駄じゃない。
経験値になる。と…。
楠木さんを想いながらドキドキして過ごした日々を経験値にしたくない…。
「僕は…」
楠木さんが好きです。大好きです。貴方とこれからの人生をずっと一緒に歩んで行きたいです。って言えたらな…
「…はい…。楠木さんに出会えて良かったです。
楠木さん…あの、彼氏が出来たのって最近ですか?」
「あー。内緒にしてね?先週の金曜日だよ…。あ、でもその時は付き合ってないから、土曜日か…」
はぁ!!?どんだけ最近!?
吐きそう…。
「昨日迎えに来てた方ですよね?」
「うん、私にはもったいないくらい良い人だよ」
「…彼氏さんは…楠木さんに優しいですか?」
「うん。とっても優しいよ」
「そっか…それなら良かったです!幸せになって下さいね」
「うん。ありがとね」
俺に告白する勇気があったら未来は変わってたのかなぁ?
楠木さんと引継ぎの業務があるから、沢山お話しできるのが楽しくて仕方ない。前は緊張して話せなかったのにな…。何かの呪いにでもかかってたのか…。悔しい…。
定時を少し過ぎた頃、
彼氏さんがお迎え来られないから今週の仕事を手伝うと言ってくれた。
引継ぎが楽し過ぎて自分の業務放置だったから、終電も覚悟してたし、最悪明日出てこようと思ってた。
俺が1人でダラダラ進める想定で5時間弱は掛かると思ってたのが2時間掛からなかった。
楠木さんは手が早い…。ホントに完璧な人だなぁ。
段々慣れて要領良くこなせるようになるんだよ。と言ってくれた。
「そうなんですか…あの!夜ご飯…。よかったら…。
…あ、いえ…。何でもないです…」
「ん?」
「…すみません。ホント何でもないんです。とりあえず駅まで一緒に帰りましょうか」
駅までの道も、楠木さんとお話しして楽しかった。楠木さんは他の女子社員みたいに群れないし、無駄話もあまりしない。会社のイベントや飲み会も絶対に参加しない。関わりのない人は、付き合いが悪く、冷たい印象があるかもしれない。
まぁ俺は「しあんだよ〜。よろしくねぇ〜」と微笑まれてメロメロになった訳だけど。
会社を出て話しをする楠木さんは別人みたいだった。よく笑うし、よく喋る。愛おしい…。可愛い…。
先週の金曜日…。楠木さんが俺の仕事を手伝ってくれてた時間に戻れたら…。いや…。もっと前だな俺が楠木さんに恋したのは。
ゴールデンウィークや夏祭りも花火大会も…俺の誕生日も一緒に過ごせたかもしれないのに…。
女々しいな俺。
早く吹っ切らないとな…。
楠木さんは、街行く人達に色気を振り撒いてすれ違う人すれ違う人、楠木さんを邪な目で舐めるように見て行くのに気付いていないようだった。
やっぱり心配だから、家まで無理矢理送って行く事にした。
心配してるのに大丈夫だって言って信じないし。
ちょっと俺の前を歩かせたら、一歩歩く毎に酔っ払いに絡まれてたし。
だって…今の楠木さん…。触れるAVみたいだよ…。
楠木さんを家の前まで送って、エントランスの中に入るのを確認して駅に向かった。
楠木さんは俺にとって一生忘れられない人になるんだろうな。
あーぁ。大好きなのになぁ…。
まぁしばらく好きでいてもいいか…。
母さんから『今日の女の子誰?めちゃくちゃ可愛いじゃない!サービスするからまた連れて来て!』
とメールが来てた。うっざ。
でも…ちょっと笑えた。
ありがと母さん。




