18.彼氏にするなら、美容師か整体師が良いなと思ってたんです。(冒険者も可)
よろしくお願いします。
お湯に浸かったままバスタブのフチに頭を乗せる。濡らしたタオルを軽く絞って目の上に掛けてくれた。
おぉ~!美容室みたい!
ってか…とんでもなく器用だな。
恐る恐るって訳でもなさそうなのに、顔にシャワーのお湯も掛からないし耳の中にお湯が入ったりしない。
私ならきっとジャブジャブ掛けてしまって謝り倒してるだろうな。
「シアンもう少し身体を起こして…、あ、そうそう。もう少し深く首置いてくれる?いいね。ありがとう」
ホント上手〜。
そんな事より声がイイ!目を瞑ってタオル掛けてるから余計感じる。マナトくんの声好きだわぁ…。
肩甲骨の下まである私の髪の毛は扱いづらいだろうと思う。地肌にシャワーを当ててしっかり濡らしながら指の腹で優しくマッサージをしてくれるのがとんでもなく気持ち良い。
マナトくんはシャンプーを取ってしっかり泡立てながら頭全体をマッサージしている。
え。ちょっと待ってホントに、ホントは美容師さん?
「ねぇマナトくんって会社員?実は美容師さんとか?」
「え?美容師さんみたいに上手に出来てるって事?」
「あ、うん。ホントに気持ち良くて…。私の髪長いから、慣れてないと洗うの難しくて、『やっぱりムリー出来ないやー。』って途中で終わるかなぁ?ってちょっと思ってたの」
「シアン…。俺を誰だと?」
「あはは!そうだったマナト様だった!ふふふ。」
「マナト様って。ははは。」
「マナトくんありがとね。なんかいいなー。こーゆーの。幸せだなぁ」
「お礼を言うのは俺の方だよ。さっきも言ったけど、ずっとシアンの髪の毛洗いたかったの。
あ、髪の毛だけじゃないよ?別に。
俺ホントにシアンの事ばっかり考えて生きてきたからさぁ…」
「え、マジの話し?」
と、話しながらもマナトくんの手は止まらない。滑らかに髪を混ぜられる感触的に、とんでもなく泡立ってる気配がする。
「マジだよ。連絡先教えて下さいってお願いしたのに、相手にされなくて断られたから殆ど望みないと思ってたんだよ。俺も周りも。
シアンに求めて貰えて、胸を張って隣りに立てる人になれるように努力したの」
「いや相手にしなかったって訳じゃないと思うんだけど…。その時の気持ちってどうだったのかなぁ…。私の連絡先くらい…その時さっさと教えなくてごめんね?」
「ううんいいの。今の俺があるのはシアンのおかげだから。
でも、多分周りの人からしたら異様だったと思う。1回会っただけの、きっともう会えない人に恋焦がれてさ。
『あの人に会えたらこんな事してあげたい。』
『今度このお店に来る時はあの人と一緒に来たい。』
『この料理おいしい。あの人と一緒に食べたかったな…。』
『この景色、あの人と一緒に見たかった…。』
『なんで会えないんだろ…』ってずっと言ってたから…」
「そう…なんだ…。嬉しいよ。ありがとうマナトくん」
聞いてるウチに切なくなって涙が溢れてきた。ずっと1人で寂しかったんだろうな…。
驚く程物の少ないあのお部屋でどんな風に過ごして来たんだろう。
部屋の隅で膝を抱えて俯く悲しい顔をした幼いマナトくんが頭に浮かんだ。
もっと早くそこから救い出して抱きしめてあげられなくてごめんね。
いっぱい寂しい思いをさせちゃったんだね…。
きっと周りの人達もマナトくんの心が、自分と一緒に居ても楽しんでくれなくて悲しかっただろう…。
たまにすごく悲しそうで泣き出しそうな顔をする時があるのは、長い間寂しくて心が辛かったせいなんだね。
元々できる限り言う事を聞いてあげようとは思っていたけど、今までの分も全部埋められるくらい、うんと甘やかしてマナトくんの事を最優先にして幸せにしてあげよう。
なにか…なにか良い案はないかなぁ…。
私は薄暗いお部屋にひとりぼっちで悲しんでいる小さいマナトくんの頭を撫でて「1人でよく頑張ったね!抱っこおいで」と言って抱き上げてソファに座るとそこは、私の部屋だった。
ちびマナトくんをお膝に座らせて抱きしめながらシマシマのお兄さんを探す本で一緒に遊んで微笑んだ。
ちびマナトくんに「もう大丈夫だよ」と頬ずりしてこめかみにキスするといっぱい笑ってくれた。
あぁ抱っこと頬ずりとキスか…。なるほど。
「…おーいシアン流すよ?」
「ほぇ…。あれ?ちびマナトくんは?」
「え?なんて?」
「あ。何でもない。気持ち良くて多分今一瞬寝てた」
「マジ。気持ち良くて良かった!一瞬でなんか夢見たの?」
「うん。小ちゃいマナトくんとシマシマの兄さん探して遊んで抱っこして頬ずりしてキスしてた」
「はぁっ?…いいな小ちゃい俺…。俺もしたい」
「もちろんいいよ!明日買いに行ってくる!
ってか、マナトくんホント気持ち良かったよー。私の専属の美容師さんになって?ふふっ。」
「なる!髪の毛くくってみたい!」
「うん。いいよー。何でも器用にしそうだなぁ」
「苦手な事もあるよ?」
「そーなの?意外だね!出来ない事なんてなさそうなのに。例えば何が苦手?練習しても上手にならなかった事ってどんなの?」
「練習しても上手くならなかった事?あー。そーだなぁ…。うーん。…えーっと。…まぁ何かあるんじゃないかなぁ…」
「ないじゃん!それないんだよ!あはは!やっぱマナト様スゴいっス!パねぇっス!」
「急に小物感出して来た!ふふっ」
そのままトリートメントに突入した。
「マナトくん身体冷えない?一旦湯舟浸かって?こっちに寄るからおいでよ」
「あー。うん目隠しそのままにしててね」
「うん。目隠し?あぁ目に掛けてくれたタオル?うん?分かった」
「なんか恥ずかしい話ししたから…」
「あー。そーゆー事ね…」
マナトくんが湯舟に入ってきてから静かな時間を過ごす。
考え事をしていた。
私がマナトくんにモバイルバッテリーを貸した時、何で連絡先を交換するのを拒んだんだろう。
どんなやり取りをしたんだっけ…。マナトくん覚えてるかなぁ?
「ねぇマナトくん。その昔会った時にね?連絡先教えてって言ったら断られたって言ってたでしょ?私何で断ったのか覚えてなくて…。その時、私なんて言って断ったか覚えてたりする?」
「覚えてるよー。えーっとねー。俺は、この人可愛いなぁ。優しくて楽しいし、付き合って欲しいなぁ。って思ったから、連絡先交換したかったの。でも、好きになったので連絡先教えてって言うの恥ずかしくて
『旅行から帰ったらお礼がしたいので連絡先教えて下さい』って言ったの。そしたら、シアンは
『いやいやホント気にしないで』って言ったの。それで…ダメ元で
『あなたと連絡先を交換したいです!』って言ったんだけど…。
『ホント大丈夫だよ?困った時はお互い様なんだって少年!ね!だから大丈夫』って…。
少年って…。俺…君より背高いよね?って思ったけど、まるで相手にされないから、しつこくしたら気持ち悪がられるか…。と思って引き下がったの」
あー。そーいう事かぁ。
「それは…。お礼をします。連絡先教えて下さい。って言われて連絡先教えたら『はい!お礼期待してます!』って言ってるみたいだし…。
その後に例えば、仲良くなりたいから連絡先教えてって言われても、お礼の為だよね!ホント大丈夫だよ!気を遣わせちゃってごめんね!って思っちゃったんじゃないかな…。
ぶっちゃけ、こんな可愛い子が私と連絡先交換したい訳がないじゃないか…。と思ったのはちょっと思い出した…」
「可愛い子?俺が?どの辺に可愛い要素が…?
そっかぁ…。相手にされてなかったんじゃなくて、俺が意気地なしだったから、お礼を催促してる様に感じて遠慮したのか…」
「意気地なしって事はないけど…。
マナトくんの半分は可愛いで出来てるよ」
「…一応聞いとくね。俺の後半分は何で出来てるの?」
「まぁそりゃあ…優しさやわな」
「あははは。何でおっちゃんみたいな喋り方なの?
そして俺痛み止めだった」
「まぁ冗談は置いといて、私は…マナトくんみたいな美しい人に好かれると思って生きてないから…。
あの時の少年がもし、お礼がどうのって言う前に「好きです!連絡先教えて下さい!付き合って下さい!」とか言ってくれてても、助けられたのを負い目に感じて言わせてると思っちゃうかも…しれない。上手く言えないけどそんな感じかなぁ…。
ひねくれててごめん…。素直じゃないね私…。
それで、マナトくんに長い間寂しい思いさせちゃってホントごめんね」
今回は下ネタ少なめですみません。




