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第3話

「はじめまして奥様、執事のグレイスでございます。」


結婚式が終わった後、カレン達は真っ直ぐにフェルディナード侯爵家へ向かった。

部屋に通され、ウエディングドレスから普段着へと着替えさせられたカレンは、部屋へと入ってきた執事と名乗る男に自己紹介されていたのだった。

深々と斜め45度に綺麗に一礼した執事は己の名を告げた後、後から入ってきた侍女達を次々と紹介していく。


「こちらが侍女長のメルです。」


「はじめまして奥様、なんなりとお申し付けくださいませ。」


侍女長と紹介された女性は、深々と頭を下げると伏目がちに丁寧に挨拶してきた。

一通り挨拶を済ませた執事と侍女達は頭を下げると、お付きの侍女以外を連れて部屋から出て行った。

ようやく静かになった部屋でカレンは、ほぉと息をついた。


ふかふかのソファに背を預けて肩の力を抜いていると、優秀な侍女達が「何かお飲み物でもお淹れいたしましょうか?」と聞いてきた。

カレンは快く頷くと早速淹れたての紅茶が出てきた。

実に手際がよく、よくできた侍女達である。

慣れない至れり尽くせりの対応に居心地の悪さを感じながら、カレンはこっそりと部屋を見渡した。


今日から己が住む予定の室内は煌びやかだった。

さすが侯爵家、この部屋に来る途中に通ってきた広間や廊下にも高そうな絵画や壷などが飾られていた。

我が伯爵家では到底買えないような流行の最先端のものばかりだ。

その洗練されたセンスの良い煌びやかな調度品たちを見て、カレンは青褪めてしまっていた。


――あれ壊したら、いくらするんだろう・・・・・・。


考えたくもない想像に、ぶるりと震える。

少しだけこの結婚は早まったかと後悔した。

ちらりと部屋の窓から外を窺うが、外は良く晴れ渡り青い空に雲が優雅に流れている。


のんびりとしたその景色に逆に不安が募った。

いつまた惨事が降ってくるかわからないからだ。

この瞬間にも窓・・・・・・いや屋根が壊れるかもしれない、もしかしたら玄関から?

などなど何故かカレンは不吉なことばかりを想像して身震いしていた。


その時――


コンコン。


ふいに部屋の扉の方で、ノックが聞こえてきた。


「はい。」


侍女の一人が返事をする。


「レオナルドです、少しよろしいですか?」


突然の主人の訪問に、侍女は慌てて扉を開ける。

すると扉の向こうから、眩しいほどの笑顔を貼り付けたレオナルドが立っていた。

侍女は少しだけ頬を染めると、主人であるレオナルドを部屋へ通す。


「やあ、今日はお疲れ様。疲れていないですか?」


「ええ、大丈夫です。」


屈託なく笑顔を振りまきながらレオナルドが聞いてきた。

それに対してカレンは、ソファから立ち上がると無表情で返答する。

そんなカレンにレオナルドは、くすりと笑むと侍女たちに席を外すよう伝え下がらせた。

二人きりになったところでレオナルドが口を開いた。


「私はこれから仕事に戻ります、それで今後の事ですが・・・・・・。約束どおり社交は出なくて結構です、この屋敷は自由に使ってください。ああそうそう、私はいつも帰りが遅いので寝食は離れの別邸で済ましていますのでお気になさらず。」


「そうですか。」


相変わらず一気に話し終えるレオナルドに、カレンは聞き返す気すら起こらない。

しかし、あれだけは確認しておこうとレオナルドを見上げた。


「そういえば、この結婚をする時にお約束したことですが・・・・・・。」


「ああ、それなら問題ないですよ、あまり目立ったことは困りますが・・・・・・。」


そう言って少しだけ眉根を下げるレオナルドに、カレンは「それなら大丈夫です」と肯定の返事を返した。

この結婚を契約する際、カレンはある条件を提示した。


それは月に一度実家に帰ることだ。


もちろんレオナルドは快く承諾してくれた。

そして今も確認してきたカレンに、レオナルドは爽やかな笑顔で肯定してくれたのだ。

その約束だけが守られれば、カレンはあとの事はどうでも良かった。

お飾りの妻なんて好都合。

しかも肝心の夫となるレオナルドは、離れの別邸に居てくれるらしい。

カレンは何もかも好条件過ぎて、逆に申し訳ないと思う程であった。


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