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中②

「大丈夫、最近元気ないけど」

ある朝、登校中に彼が口を開く。

白い息はすぐに外気に溶け込むようにして消える。

彼の言葉に我に返った彼女はすぐに笑顔を浮かべる。

「大丈夫。心配かけてごめん」

「謝ることなんてないよ。もし何か不安なことがあるなら俺なんかでよければ相談に乗るからさ」

(・・・もしそんなことが出来たら、どれほど楽だろうか)

しかし、そんなことは口が裂けても言えない

「うん。ありがとう。その時はちゃんというから」

「・・・そっか」

お互い、そう言うことが精一杯だった。



ぼんやりと校庭を眺める。

鳥のさえずる声と元気のいい掛け声が耳に入ってくる。

この時間、本来は体育の時間なのだが、彼女は体調が優れないと言って見学にしてもらったのだった。

そんな彼女の視界には常に彼の姿がある。

「それじゃあ、二人一組になって準備運動を始めて下さい」

(あ・・)

目線の先には無論、彼がいる。

(・・・・・・)

彼のペアは普段は男子なのだが、高石が見学したことにより一つずれたため女子が彼と組むことになっていた。

(手、つないでる)

無論、体育の準備体操における手をつなぐという行為は恋人が行うような甘いものではない。

しかし、頭では理解していても胸の内に湧く感情を抑えることはできない。

(なんで私の彼と手をつないでるの?)

穏やかの水面に一石が投じられたように胸の内に静かな波紋が生じる。

それは徐々に大きくなり、荒れ狂う嵐の様に彼女の心をかき乱す。

(あの女、今背中触った)

大きなうねりを伴った感情はそう簡単には収まらない。

(仲良さげに話してる・・・彼は私のものなのに・・・あ)

唇に血が滲む。

自分でも知らないうちに唇を噛んでいた。

血が出るほどに。

その痛みにも気が付かないほどに。

(・・・うざいなぁ、あの女)

体に爪を立て、爆発的にこみ上げる負の感情を表に出さないように必死に自制する。

その端正な顔に浮かぶ狂気を悟られまいと顔を伏せる。

(もう・・・やばいかも)

パン!

「はい、それじゃあ今日はマラソンの予定なのでみんな校門に集合してください」

教師の手を合わせる音に我に返った彼女はそのまましばらく顔を伏せていたが、その後ゆっくりと顔を上げる。

ガヤガヤと雑談をしながら校門に向かうクラスの皆を横目に友達と談笑する彼の姿が目に入る。

その姿に思わず頬が緩み、温かな感情が彼女を満たす。

「高石さん大丈夫?さっきからずっと俯いていたけど」

「はい、大丈夫です。心配かけてすみません」

後ろ手を組みながら立ち上がり笑顔を向ける。

「全然いいのよ、何かあったらすぐに声掛けてね」

教師の後姿を見送りながら、彼女は安堵のため息を吐く。

(今のは本当に危なかった。でも、もう我慢も無理だね)

あのままずっとあんな状況だったら・・・

(“コレ”、”ツカウ”とこだった)

彼女はいつもの、しかしどこか不気味な笑顔を浮かべながら、彼の後を追った。


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