退部済さんの話
(4)退部済さんの話
俺はたった今、退部した。4年間居続けるはずだった、部活から。大学4年生が始まって、丁度2か月が過ぎた時だった。実質1年くらいしか居られなかった。ほぼ知らない後輩に労われたが、多分社交辞令。…こんな風にしか思えない自分にも腹が立つ。本気で、お疲れさまでしたと思ってくれていたらどうするんだ、俺。ほぼ関わっていない先輩のことも労うことができる良い後輩じゃないか、まったく。
俺は軽音部員だった。ドラム、ギター、作詞作曲担当だった。2回か3回、部内のライブに出た記憶がある。めちゃくちゃ怖い曲をやった(よくそんなの発表できたな)。へたくそなドラムを披露した。走りまくった洋楽を披露した。絶対みんな思ってた。こいつヤバイ(悪い意味で)。俺自身もそんなのがいたらヤバイと思う。よく同級生と先輩は盛り上がってくれたな。
新しい出会いに夢を見せられ、新しい別れに現実を見せられた。そして1人になった。1人なら家でどうにかできると、部活にはいかなくなった。そしてそこにコロナが乱入し、学校にも行けなくなった。それから3年が過ぎた。部活は夜の時間帯に活動ができるようになった。しかし早寝をしないと次の日は生きていけないし、家から学校に行くのも時間がかかる俺の脚は余計に部活から遠のいた。そして継続費を求められ、ようやくやめる決心がついた。
そして独りになった。独りで歌詞を考えてメロディやコードをぶっこみ、ドラムとベースを打ち込み、独りでレコーディングをした。別にどうも思わない。”以前の生活”もしくは”本来の生活”が「ただいま」をしてきた。それだけだ。寂しくない。周りが複数人で先に走っていくのを眺めるのは。辛くない。背中に大きな楽器を背負った同年代らしき人たちが、スネアドラムやシンバルを持った仲間と楽しそうに歩いていくのが、視界に入るのは。しんどくもない。15分くらい前にはもうメンバーを待っていたあの場所に行くのも。よく飯を食いに行ったあの店だって全然行ける。行ける。…行ける?…行ける。
…俺の曲って絶対売れない。なぜか突然、そんな考えが頭をよぎった。そして納得した。そうか、皆は俺の曲が売れそうにないことを分かってたから、他のメンバーの曲を待った。どれだけ俺が、何週間もかけてできた曲を皆に聞かせても。そういうことか。そうだよな。売れない曲ばっか書いてても迷惑なだけ。そしてそんな奴がメンバーの中にいても…邪魔なだけ。ドラムもへたくそだ。デビューなんて俺がいたらできっこない。早々に俺が抜けることを選ぶべきだった。そうすればきっと…。さすがは俺のクソ野郎。大馬鹿。バンド解散のプロ。
…クソ…。
いつのまにか部活のバンドではなく、部活がきっかけで出会った外部のバンドメンバーのことを考えていたことにようやく気が付いた。次に会う時までに基礎練習を頑張って、あいつらを驚かすという計画もモチベーションもなくなった。俺なりに頑張ったのに、あっけなく全部なくなった。…そして今、軽音部員でもなくなった。本当に何にもなくなった。俺はすっからかん。だけど何にもないのが、本当の俺なのかも。
はぁ、これからどうしよ。
これフィクションね。