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8話

 公開訓練はダンジョンを模した専用の訓練場で行われる。


『各々好きな装備を手に取ってくれ』


 まず施設の入り口をくぐると、学校が用意した装備品がずらりと並んだ部屋に出る。


「俺はとーぜん、こいつだな」

「おいおい、木村ー。そんな枝みたいな剣で大丈夫かよぉ?」

「っせ。俺は『剣士』だぞ? 剣振ってなんぼなんだよ! ……お前は相変わらずだな、馬場」

「イカすだろ? 邪魔するやつは全部叩き割ってやるぜ」


 生徒はそこで己の探索スタイルに適した装備を選定し身に着けていく。


「うーわ、ホント馬鹿力ー。馬場よくそんなでっかい斧持てるよねー」

「跡部。あんたも早く武器見繕いなよ」

「えー? あーしはー戦えないもーん。如月が弓引いてる後ろで皆のサポートするー」

「はぁ。楽でいいわねー。ちゃんと視なさいよ?」

「りょー」


『あまり装備を怠るなよ。訓練とはいえ気を抜けば大けがだ』


 教員はインカムが拾う音声と各位置に設置されたカメラを通して指示、監視している。


「……おい、さっさと選べや。何持ったって変わりゃしねんだからよ」

「う、うん」

「お前なんかは、この小さいナイフでいいんじゃね?」

「あー、それでいいそれでいい」

「あ、ありがとう……」


『……訓練の採点内容は、仲間同士のチームワークも含まれてるからな?』

「「へーい」」


 木村君が部屋の隅に設置したカメラに向かって、両手で頭上に輪っかを作るジェスチャー。


「っかは……ぁ!」

「お前のせいで余計なこと言われただろうが」


 木村君の体でできたカメラの死角で、インカムが聞き取れない小さな苦言と共に、僕は馬場君に鳩尾を抉られる。

 痛みと胃から込み上げるものがありたまらずしゃがみ込んだ。


「日向ー。靴紐くらいちゃんとしめろー? これからチームで訓練するんだからよぉー」

「気を付けてよねー」


 頭から降るセリフと含んだ笑い。

 それを聞き――。


「うっ……ご、ごめん。がん、ばるよ」


 へらへらとしゃがれた笑顔で返すしかなかった。






 ::::::::::






『全員装備は整えたな?』

「「「「「はい」」」」」


 支給される装備を選び終えると次の部屋へ進む。

 その部屋は狭く、その機能に必要な最低限のスペースしか確保されていない、入り口のみがある四角い部屋。


『制限時間は20分。()()()の訓練場には複数の仮想魔物、罠が配置してある。今回は強個体戦も想定した布陣だ』


 狭い部屋、床一面に描かれた魔法陣が光を帯びて発光し始める。


『今回の訓練は魔物の殲滅よりも、一層攻略までの立ち回り方にお重きを置いている。協力して任務にあたってくれ』


『任務』という言葉に、これは本番とそう変わらない訓練なのだと突き付けられる。

 馬場君達にも明らかに緊張の色が見え隠れしていた。


『では、転移陣の上へ――――』


 踏み出すと、輝きは一層強くなり。


『公開訓練。開始』


 僕たちの体は微粒子へと変換され、その姿を消した。






 ::::::::::






 ~特別審査員控えテント~



「あー。わかっちゃった、あの子でしょ? 楓さんのご主人さま」

「そうなのか?」

「……」


 テント内に設けられた数々のモニター。

 東西南北、四つの訓練場からさらに枝分かれに転移した先の、仮想ダンジョンに設置したカメラ映像。


「絶対そうですよー! ほら、よく見てください」

「……ほー。確かに、面影があるな」


 二人の視線は東に位置する訓練場から転移した、第一陣チームを映した映像に釘付けだった。


「ほらー楓さん。ユキさんも言ってるじゃないですかー!」

「……ご明察です」

「この少年が、の……大きくなって……」

「ぅえ!? ユキさんなんで泣いてるんですかー!?」


 テント内の賑やかな会話を聞きながら。


「……灯真くん」


 私はただ、画面越しのあの子を見ていた。

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