5話
「大丈夫……大丈夫だよ……」
服の下に器用に隠れているティアに向けてか、自分自身に言い聞かせているのか分からない。
それでも、呪文のように呟く。
(やってやるんだ。役に立つって。見てもらうんだ)
僕がこの学校。
『冒険者業専門学校』にいるのは、もちろん冒険者になるためだ。
その業種自体には確かに憧れはある、尊敬もしている。
けどそれはただの手段に過ぎない。僕が叶える望みはその先。ダンジョンそのものにある。
「やるぞ。やってやる……」
それにはまず、兎にも角にも冒険者資格を取得しないと始まらない。
冒険者と言うのは決して狭き門ではない。さすがに独学だけだとまず無理だが、資格だけなら特別厳しい教育、訓練をしなくても取れてしまうようなものだと言われている。
冒険者としての価値が問われるのはその先の活動。
全ての冒険者は、組合によって所属を管理されランク付け、序列を付けられる。
一般的に冒険者としての実力の子細は、表立って公にされるものではないが。人類の敵。
地球の居住権という振るいに掛けられた敵対存在と戦う人々となると、その存在感からいろんな業界から脚光を浴びる。
当然、様々な利権が絡み、自然と実力のあるものは人目にさらされ、ぶっちゃけ一定のランク以上はタレント扱いされるほど各所で引っ張りだこだ。
けど、そんな煌びやかな世界。僕はさして興味もないし、何より圧倒的な力不足。
分不相応だ。
(僕がまず成さなきゃならないことは―――)
『えー、尚。今回は、一年生諸君は晴れて、入学から半年が経過、そして年に二度ある初めての公開訓練だ。知っての通り、『冒険者業専門学校』では一般より一年早く冒険者としての資格を取得することができる……この日本で最速だ。それは君たち世代の大きなアドバンテージとなるだろう』
そう。
『それにはまず、この公開訓練で結果を示してほしい。一年早くその判定を受ける君たちには多少ハードルが高いと感じる者もいるだろうが、跳ねのけ、手にしてくれることを願っている』
今日、この場で、僕は冒険者になる!
それが一番の近道なんだ。
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「いいね。若いって」
壇上から降る教員の鼓舞に、熱気を上げる生徒たち。
夏というわけでもないのに景色が蜃気楼のように歪んで見えるほどだ。
「若いって……お前さんも、ついこの間まではあそこに居たろうて」
「そうだけどさー。やっぱりこう……フレッシュさが違うっていうか」
傍に設営された控えのテント内で、それを見る者たち。
『それでは、最後に。今回の公開訓練の成績審査補助をしていただく特別審査員となる方を、冒険者協会からお呼びしておりますので、開始の言葉を頂戴したいと思います』
教員の言葉に外の生徒たちが明らかに色めき立つ。
強い好奇の色が含まれた若者たちの気配。
「ホレ。出番だぞ」
「はいはーい。てかこれなんで一番下のあたしがやるの?ピエロじゃん」
「皆、OGのお前さんに憧れとるんだ。行ってやれ、大先輩」
そう言って渋る人物の背中を押す。
「ふ、ふーん?しょうがないなぁ~っ!いっちょかましたりますかぁー!」
「……チョロい」
日差しがのぞくテントの入り口に手を掛け、立ち止まると。
「じゃ。いきますね、楓さん」
「……」
「そういえば、あんたのご主人さまも、いるんだっけ?」
振り向き言うその表情は、先ほどまでの軽薄な気配は消え失せ。
『ではお願いします。冒険者協会公認、『冒険者等級、1等級・5位』―――』
「コラ。さっさと行かんか」
「はぁ~い」
一転して、上機嫌に壇上へと向かった。
「まったく……気にするでないぞ、楓」
「……はい」
校舎からの割れるほどの歓声が、テントを揺らした。