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3話

 今しがた()()になったばかりの名前も知らない『魔物』君。


(いや、システムさんは『魔獣』って言ってたっけ?まぁどっちでもいっしょなのかな?)


 それよりも、今は眼前の光景に強烈に惹かれる。


「クキュキュ?」


 小さな体を、みょーんと脱力させ小首をかしげてこちらを見る。


「がわ゛い゛い゛っ!」


 僕は思わず正気を失って叫んだ。


「って、もうお昼休み終わっちゃった」


 更に我を忘れそうになるも、昼休み終了のチャイムが鳴り響き何とか現実に呼び戻してくれた。

 僕はとんでもない現実に向き合わなくちゃいけないんだ。


「魔物が、人間のパーティー……」


 パーティーって、システムさんを通じた承認可否の元、複数人がシステム管理内での行動制約・恩恵を共有する集団。


 って習ったけど……


(僕はまだ生まれてこのかたパーティーに加入したことないから、正直よくわからないな)


 でも、魔物が人間のパーティーに加入なんて話、少なくとも僕は聞いたことがないし、習ったこともない。

 動物を使役し意思疎通できるジョブがあるのは知ってるけど、魔物は対象外だ。

 システムさんの言う情報が間違ってるなんてもってのほか。


 それに……


「なんで魔物(きみ)が、ゲートの傍にいるの?」

「クキュ―?」


 基本的に、魔物の生息地はダンジョン内だ。

 かつては一定の条件下で、ダンジョンゲートから僕たち人間の生活圏へと侵攻してきたことが多々あったらしいけど、今となっては数年に一度程度稀に見る現象。

 僕も子供のころ遠い国でそんな災害があったというニュースを見聞きしたくらいだ。

 それくらい珍しい。


(だから、僕たち人間が魔物に。魔物が人間に干渉できるのはダンジョン内だけのはずなのに)


 我ながら勘が鈍いと思う。

 この特異な現象、置かれた立場に戦慄を覚え始める。


「ほ、本当に。ま、魔物?」

「ククッキュ」


 途端に、手の中に抱える小さな生き物が恐ろしくなる。

 震えが、指先から波及して―――


「ペロペロ」

「……」


 行くかと思ったけど、現金なもので、僕の震える身を案じたかのように指を舐める姿を見て。


「バレなきゃ、大丈夫。かな……?」


 僕はこの子を受け入れた。






 ::::::::::






 今思い返してもあまりにチョロすぎな判断を下したあの日。

 僕はとにかく学校を早退した。


 五限目まで学校にいないなんて僕には初めての経験だったけど、自宅までの帰路がいつもと違った景色に見えたのは新鮮で、少しだけ気分が良かった。


『ただいまー!(かえで)さん!楓さんいる!?』


 家の()をくぐり、扉を開けると僕は家中に届くように大声で目当ての人物を呼ぶ。


『はい。灯真(とうま)さん。ここに』

『わぁっ!?』


 いつもの事だけど、物音を立てず背後に立つのはやめてほしいな。

 呼んだのは僕なんだけど。


『あっ、楓さん!あの!ゲートでですね!パーティーがですね!?』

『…灯真さん。落ち着いてください。それにまず、この時間にご帰宅なされたワケからお話しください……』


 あの時の僕はもう、『ティア』の事から始まり、初めての早退でなんだかテンションがおかしなことになっていた。

 あ。ちなみに魔物君はティアって呼ぶようにした。


 システムさんが言ってた《魔獣・ティアマット》の頭半分を取ったシンプルチョイスだ。


 で、そのティアに関してだけど―――



『楓さん!魔物が、僕のパーティーに入ったみたいなんです!』

『!』



 早退の理由と、本当に伝えたいことの両方を兼ねた僕の言葉に、いつも温和で取り乱したところを見たことがない楓さんをもってして、目を見開いて驚いていた。


 同時に、



『確かに、この気配は―――』

『ひっ……!?』



 冷たく鋭い眼光、全身を指すような圧迫感。

 彼女の冒険者としての顔を初めて垣間見た。


 楓さんは何者か、って?


 一言で言うと……僕の家、日向家の最強メイドさん?

 容姿、人格、芸事、家事全般。何をやらせても非の打ち所がない!

 中でも特筆すべきは、彼女は凄腕の冒険者ってこと。


 強いてひとつだけ欠点を上げるなら―――



『クキュっ!?』

『ぉわっ!?ティア!?』

『っ!灯真くん!』

『むぎゅ!?』



 咄嗟に僕のカバンの中から飛び出したティアの影から、僕を守るように僕を抱き寄せるこの姿を見て察してほしい。彼女は自分の体の豊かさを知ってか知らずか、咄嗟とはいえこのように女性としては無警戒な行動に出る。

 今僕の事を『灯真くん』と呼んだのもお茶目ポイントではある。


『楓さん……呼び方が……あと、は、恥ずかしいです』

『あ。ご、ごめんなさい』


 とはいえ、彼女は僕にとってたった一人のかけがえのない家族。

 不服なんて一つもない。


 だから、僕は彼女に隠し事をしない。

 ティアの事もきちんと相談した。

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