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2話

「こんなところに、動物がいるなんて……」


ダンジョンゲートは基本的に存在自体が警戒対象だ。

いくら生活に溶け込むほど見慣れたようになったからって、一歩間違えば命の危険が迫る。

未活動のダンジョンですら場合によっては自治体によって立ち入り禁止にされるのだ。


(この前テレビでは、『原子力』?だっけ。それに例えてたな)


最近みたニュース番組では、現代社会におけるダンジョンゲートへの接し方について警鐘を唱えている専門家が、昔失われたテクノロジーを引き合いに出してそれを訴えてた。


(そりゃ、ダンジョンの中は魔物とかいるから怖いんだろうけど…)


このゲートに関しては、学校の敷地内に……いや、このダンジョンゲートがある場所にわざわざこの学校を建設したという特異な例ではあるが、今はその内情は置いておこう。


結論としてダンジョンゲートは冒険者やその関係者以外、あまり近寄らないのが普通だ。


(まぁ、そのそばで昼休みとってる僕が言えたことじゃないんだけどね……)


居心地がいいのだから仕方ない。


(それより、あの動物だ)


一般教養だが動物ともなると、ダンジョンゲートを避ける反応は顕著に出るらしい。

ステータスを得た人間よりも危機察知能力が発達しているとのことだ。


(ぐったりとしているけど……怪我、とかしてるのかな?)


衰弱してこの場所に迷い込んでしまった。

という感じだろうか。


(ほっとけ……ない、よね)


動物を飼ったことがあるわけでも、その生態に詳しいわけでもないけど、もし救える命なら救えたほうが良いに決まっている。

白か黒かの簡単な選択肢だ。


「ケガは……してない、かな?」


意識があった場合刺激しないようにソロリソロリと動物の傍まで行くと、その体を検める。

といっても、獣医学の知識なんてないからぱっと見で血が出てないかとか簡単な外傷確認だけど。


「寝てるだけ?」


見ると毛皮に覆われた腹部は規則正しく上下している。呼吸をしている証拠だ。


「君は……犬でも猫でもないね」


ウサギ?と、イタチの間?みたいな。


「息できてるなら、大丈夫なのかな…」


ひくひくと拡縮する鼻先、時々ピクつくツンとした耳。

どれを見ても素人目には特に問題なさそうに見える。


「でも、動物がダンジョンゲートの前でお昼寝なんて聞いたことがないし……」


一人でしばらく唸っていると、自分の腹の虫が泣き出し、昼食中だというのを思い出す。


「……あ。もしかして―――」


置いてきた弁当箱をもって、眠ったように横たわるニョロニョロの元へと戻る。


「お腹空いてたり……?」


弁当内のおかず、揚げ物はまずいかな。

ゆで卵を箸でつまみ小さな鼻先へと持っていく。すると。


「クカッ!?」

「ぅわっ……!」


つぶらな瞳は開かれ反射的と言った速度で差し出したゆで卵にかぶりついた。


(た、食べた)

「カフカフカフカフ」

(……かわいいな)


咀嚼のたびに除く犬歯は中々鋭いが、一心不乱に食べる様は見ていて和む。

箸を手放し、食べ終わるまで眺めていると。


「……けぷ」

(足りたかな?)

「クっ?」


つぶらな瞳と視線が交差する。

その愛くるしさに僕は思わず。


(な、撫でても噛まれないかな……?)


自分でも怖いのなら止めておけばいいとも思うが、どうにもこの子を撫でたい欲求を抑えることはできなかった。


「クキュ」

「ぉおおー……サワサワだー」


ゆで卵のおかげで心を開いてくれたのか、小さな額でこちらの指先を受け入れてくれた。

そう長くない毛なのに、サクサクとフワフワの間みたいな触り心地が心地よい。

顔は綻び思考が溶けるような極上さだぁ……



《他者からの干渉》



「んー?」



《『魔獣・ティアマット』からパーティー加入の申請を受信》



「パーティー加入ー?」


友達になりたいってことかな?


「もちろんいいよぉー」

「ククっ!」



《『魔獣・ティアマット』の申請を承諾。パーティーメンバーに加わりました》



「……あれ?君、今喋って……?」

「クキュ?」


え?いやいやいやいや。

この子がウサギかイタチか分からないけど、動物がしゃべるわけがない。

僕はそんなジョブじゃないんだから。


「ていうか、今の……システムの声だよね?」


ここ数年僕は聞いていなかったけど、全人類誰にでも等しく降り注ぐ天の声。

ステータス、スキル、ジョブの変動時など様々な場面で干渉してくる神のような存在。


「……さっき、なんて言ってた?」

「クキュキュ?」


そして僕は、何を承諾した?



《『魔獣・ティアマット』からのパーティー加入の申請を承諾》

「あっ。ありがとうございます……」



律儀にも、僕の疑問に一文で答えてくれた。


「……君さ」

「クッ!」


脇の下から両手で抱き上げると、下腹部はだらんと重力に負けたように伸びた。

その光景にまたも思考が溶けそうになったけど、何とか持ち直して。


「『魔物』。なの……?」

「クフゥ……!」


そんな問いに得意げな感じで喉を鳴らす。

不思議とそれが肯定の意を表していると、僕には理解できた。

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