19話
「よし、集まったな」
一人の教員がクラス全員の集合を確認。
「今日の一限目は実技訓練!そしてこれから長い間苦楽を共にする、クラス内ギルドのメンバー決めだ」
その言葉に生徒たちは色めき立つ。
先述通り、以降三年間を共にするかもしれないメンバーを決めるのだ。通常の学生生活だけでなく、インターンとして冒険者の活動中、または開始時の冒険者等級への評価にもつながる。
それだけこの学校の授業で学ぶ内容は実戦的で、身のあるもので、協会にも評価されているのだ。
ともあれ、ギルドのメンバー決めが生徒たちの関心を集めるのも当然だった。
「中には昨日、冒険者資格を取得しインターンとして現場に赴く権利を獲得した者もいるだろう。だが例年通り同じクラスのギルド内で、取得者と未取得者。関係なくメンバーを選定するのは許可している。これは、一概に公開訓練の内容だけで、君たちの潜在能力を計り切れるものとは想定していないゆえの、可能性を広げるための措置だ」
冒険者の探索は基本的にチーム。
例え、昨日の公開訓練で力及ばず資格を取得できなかった生徒も、メンバーとの組み合わせ次第では光る逸材もいる。
それを取りこぼさないためということ。
「メンバー数は4人以上。上限は設けていない。ここで互いの能力を引き出しあえるメンバーを選べるのも、冒険者として重要な感性だ……決定後のメンバーの変更は、多数の条件が課せられる。貴重な時間を無駄にしないよう、各々存分に悩んでほしい―――」
締めに向けるその声に、生徒たちのざわめきは波及。
古くからの交友関係、一方的な未知の相性への挑戦、日頃から訓練を共にしているコミュニティ。
そして、優秀な者に取り入ろうとする者。
それぞれが本職の冒険者さながら画策する。
そこに―――
「―――と、言いたいところだが、今年は少し毛色が違う」
水を差すように続ける。
「クラス内のギルドのメンバー構成は、すでに決まっている」
浮ついたざわめきは、困惑へ。
それを経て反感を含んだどよめきに。
そして、暴動へと発展する前に言葉をつなげる。
「自由に選ぶという権利は消えてしまったが、決してこれはマイナスではない……なぜなら今回、ギルドの構成を練ったのはほかでもない。冒険者協会副会長補佐、宗像 徹さんだからだ」
飛び出した名前はまたも別の方向へと、生徒たちをはやし立てる。
「……宗像さん、が」
クラスメイト達が奏でる喧騒を、どこか遠くに聞きながら。
僕は、赤く腫れた頬をさすり、今朝の事を追憶する―――
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「ぐっ!?」
早朝の校舎に怒号を響かせていた馬場君達が、僕だけがいる教室に入って来て僕の顔を見るなりはっきりとした怒りと敵意をその目に宿らせて。
「おい馬場!気持ちはわかるが、お前がブチ切れたままにこの無能殴ったら死ぬぞ、こいつ」
馬場君は忌々し気に僕の名前を呼ぶと、間髪入れず頬を殴りつけてきた。
「ぁあ゛!?知るかんなもん!つうか、今こいつが生きてんだから手加減はしてんだよぉ!」
「……それでも、目立つ場所は止めとけ。これ以上こいつのせいでキャリアに傷つけたくねーよ」
「ちっ!」
木村君の言う通り、今馬場君が本気でレベル1の僕を殴っていたらこうして意識を保つのはおろか、最悪の場合死んでいた可能性もある。
彼らとの仲は今までも険悪なものだったが、こうして感情の昂りのまま暴力を受けたのは初めてで、身をもって天と地ほどもあるこの才能の差を実感することになった。
(あ……れ?)
ふと、自分の中に、得体の知れないなにかが。
頭の片隅に、何かが居座ったような妙な感覚が―――
「おい無能ぉ!」
「ひ……!?」
殴り飛ばされ、机をなぎ倒し床に伏していた身体を、髪の毛を掴まれ引き起こされ。
「てめぇはどれだけ俺様の邪魔すれば気が済むんだよぉ……」
「馬場。俺、達。ね。あたしだってホント迷惑してんだから」
「ぅ……あ、の。何のこと、です、か?」
日頃、僕の能力値の低さに四人が腹を立てているのは知っている。
馬場君達だけでなく、訓練などで行動を共にするクラスメイト達は、皆往々にしてそうだ。
けど、今この四人に。馬場君に殴られる理由が直ぐに思いつかず、僕は機嫌を窺うように問う。
「……ギルド」
「? ギル、ド?」
間の抜けたオウム返しを聞くと、馬場君は恐ろしいくらいの膂力で僕の体を机が並ぶ方へと投げ捨てる。
「俺達四人でギルド組もうと思ってたのによぉ。そこにテメェが居やがるんだよぉ!」
(どう、いうこと……?)
硬い床や机の角に打ち付けた痛みに悶絶しながら、聞いて尚、頭の中は疑問符でいっぱいだ。
「まっ……僕は、そんな……まだ、ギルドについて決めるのはこれからじゃ……」
「学校側の決定で、あたしら四人、プラスそこにあんたを含めたギルドを組むようになってんのよ」
「……え?」
なんで?それを決めるのは各々の、生徒間の意思で、ましてレベル1の低能力値の僕が。
何で馬場君達のギルドに?
「なんで?って面だなおい。そりゃこっちのセリフなんだよ!昨日の俺たちの成績は学年……いや、三年を含めたってトップクラスだったんだぞ!?」
「はぁー。まっじだるい。華々しくインターンデビューして、どんどん等級上げていきたいのに」
「無能をギルドに入れたまま、活動……とんだハンデだぜ」
「あぁああ、あ゛っ!!一発殴ったくらいじゃ収まらねぇ……!」
今だ理解が追い付かないまま混乱していると、再び馬場君に胸ぐらをつかまれ―――
「―――まった。馬場。流石にまじぃよ」
「うるっせぇ!こっちは―――」
「やるんなら、目のつかねぇようにやんのが利口だろ?忘れたか?」
止めに入ってくれた木村君が馬場君の耳元で何事か呟くと。
「……ちっ!」
「うっ……!」
再び殴られるようなことはなく、床に打ち付けられる程度で済まされた。
「いこうぜ。如月。跡部」
「ん。おい無能。倒れた机、人が来る前に戻しておけよ」
「はー。朝から憂鬱ー。てか、こんな朝は朝早く呼び出されたから寝不足なんですけど―――」
肩を怒らせる馬場君を先頭に、四人は教室から出て行ってしまった。
「……」
遠ざかる足音を聞きながら、仰向けに天井を見つめる。
「なん、なんだよ……」
「クゥー……」
慰めるように鳴くティアの声すら、一時疎ましく思ってしまい。
ひたすらに、今置かれている状況が理解できなかった。
この主人公が強く成長する日は、来るのだろうか




