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18話

 ~冒険者業専門学校『警備室』~



「む、宗像さん。これでよろしいでしょうか?」

「どれ……うん。よく見える。無理を言って済まないね。ここの警備職員は有能だと、理事長殿に言い含めておくよ」

「あ、ありがとうございます」


 職員の一人を労い、明け渡された椅子へと座り込む。手を組み、前傾に視線を注ぎ込むは眼前に設置された複数のモニター。

 その表情、目元は発光する画面を反射した眼鏡によって窺い知れない。


「……あ、あの―――」

「ここで何をしているのか。かね?」


 職員の発言に先回りする様に言う。それを受けた側は、縮みあがったように謝罪。

 その様子に一瞥もくれず、特に気分を害した様子もなく続ける。


「協会の、副会長補佐としての業務の一環だよ。冒険者協会とこの学校の関係は密接。多額の寄付金を落としている身としては、やはり校内の様子は気になるものでね……抜き打ちの監査、みたいなものだ」

「なる、ほど……」


『監査』という言葉を聞き、緊張と共に姿勢を正す職員。


「ふっ……そう身構えることもないさ。職員の方々が優秀なのは把握している。今私が見ているのは―――」


 眼鏡のレンズ越しの、視線の先には校舎中に設置された監視映像。

 映るのは、廊下・教室、そこを行き交う生徒。



「未来ある、若者たち。そして―――」



 言いながら、視点は固定される。

 そこには、校門をくぐる―――



「秩序を乱しかねない、異分子だ」



『無能』と呼ばれる、落伍者の少年がいた。






 ::::::::::






「この時間はこんなに静かなんだね」

「クッ」


 自分に割り振られた教室、窓際の座席に座りながら、生徒たちがまばらに歩く校庭を眺める。

 まだ早朝と言って差し支えない時間帯で、目に映る校庭を見ても、耳を澄ましてみても普段より格段に人気がない。

 ティアも今だけは、胸元から顔を覗かせている。


「……一限目から、実技訓練だっけ」

「クー?」


 誰もいない教室で呟く独り言。

 いや、ティアがいるか。


「確か今日は……ギルドの組決めだったよね」


 数時間後に行われる授業の内容を、どこか自分に言い聞かせるように、脳内で反芻。


(ギルド……『冒険者』として選ぶ時が来る活動形態。を、クラスメイト同士で疑似的に体験……)


 割とこの学校に入学したての生徒にとっては一大イベントだ。

 今日決まるギルドのメンツは、学校のシステムに正式に登録され、個人・チームとしての評価を三年間を通して受け続ける。

 あまりにもギルドメンバー間の相性、シナジー効果が合致しない場合はギルド内・学校側で協議しメンバーを再構することも可能らしい。


 けど、大概は―――


「冒険者としてデビュー後も、そのメンバーで活動していく例が多い。か……」


 昨日のような公開訓練で冒険者資格を取得することのできた生徒は、熟練冒険者の引率の元という条件はあるが、いち早く冒険者としての本番の活動。

 ようはインターンとして、ダンジョン探索へと向かうことができる。


(馬場君達は、もうそんな先まで言ってるんだな……)


 あくまで学業が優先されるが、訓練用の疑似ダンジョンと本物のダンジョンとでは得られる経験値は段違い。

 学生を引率する冒険者としても、将来自分たちのギルドへ有望な若手を勧誘する絶好の機会になっているから、先輩方も熱が入る。互いの理が合致したこのシナジー効果は、あまりに大きなアドバンテージだ。


(あの、千柳寺(せんりゅうじ) 雲母(きらら)さんも、この学校(うち)の卒業生だもんね)


 昨日、僕達生徒の尊敬のまなざしを一身に受けていた、女性ランカー冒険者。

 あの人のような間違いのない実例がある


「……はぁ」


 考えを、これからの事を、頭の中でまぜこぜに練るごとにため息が出てくる。

 今までなら、ギルドの先の事を思って改めて奮起していたような状況なのに。



「……僕は―――」

『あ゛ーーっ!ックソが!』



 何か、弱気な言葉を吐こうとしたその時。

 遠くの廊下から鈍い打音と、苛立ちを隠そうともしない大声が響く。

 それを聞いた僕が大きく肩をビクつかせたのは―――



『ちょとー、うるさいんですけどー』

『まぁ、気持ちはわかるわ。正直ありえないって思うし』

『ああ……ちっ。んだってこんな貧乏くじ引かされんだよ』

『う゛ぁあああ゛ーーーー!野郎がぁあ!!』



 人気のない廊下で、大声でなくともよく通る声に驚いただけでなく。



「やってられっかよ!ざっけんな!」

「おい馬場、教室のドア壊すなよ?」

「そうだよ。あまり内心に響くとせっかく取った冒険者資格が―――」



 その声を主が誰なのか分かっていたからだ。


「馬、場君……」


 教室のドアを開け、僕を見る四人の視線には、昨日の時点で最早失せつつあった、憤怒の熱。


「……日向ぁ」

「「「……」」」


 それが、黒く滾って燃えているのを、各々の瞳に感じた。

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