13話
「いやー!若い芽っていうんですか?育ってましたねー」
「だから、お前さんとてそう変わらないだろう」
数時間に及ぶ公開訓練。
全生徒がそれを終える頃にはすっかり日は沈みかけ、どこか懐かしく聞こえる予鈴が響く。
「年下にマウントとりたい時期なんですよぉー」
「まったく……そんな調子で、ちゃんと審査したのかも怪しいものだ」
「何言ってるんですかユキさん。ガチでやったに決まってるじゃないですか」
そう返す声色は、文面とは反面、真面目な雰囲気が含まれている。
「事故例が激減したとはいえ、冒険者は常に危険が付きまとう職業。今日の合否でその子の命運、進路が決まるんです。そりゃもう真面目にならざるを得ないですよ」
「分かっているなら、いいがな」
「でも、だからこそ結構しんどいもんですね。この立ち位置……あたしの判定で、今日。泣いた子が何人もいるんだろうなぁ……」
「それこそ仕方のない事。力が足りない者、他者との連携が取れない者。何事にもニーズというものがある。それに極端に沿わない者は、またやり直すしかない。のう?楓」
「……そうですね」
普段は生徒たちでにぎわっているであろう校庭。
人気のなくなったそこを、校門に向かって三人は歩く。夕陽が、影を伸ばす。
「……でも、なーんでかなぁー」
「どうした?雲母」
後頭部で手を組み、影も追従する。
「レべ1君。あの子には、そーゆー、あたしの……責務?みたいなの度外視して、無責任に点数入れちゃったんですよねぇ」
「いい加減な………」
「あ!ちょ、ユキさんだってあの子に点数入れてたの知ってるんですからねー!?」
「わ、わしは!あの類稀なる観察眼に、サポーターとしての役割の大きな可能性を感じたのだ!」
「またまたー。あたしが言うのも何ですけど、レべ1の冒険者なんて聞いたことないですよぉ?そんな危なげな少年を冒険者に仕立てるなんて、倫理的にどうなんですかねぇー?」
「ユ、ユキだけじゃないもん!楓だって入れてたもんね!?ねー!?」
「ほらほらー。キャラ崩れてますよユキさーん。かわいー。草ー」
「………まぁ」
姦しく言い争う二人を横に、ポツリと言葉を発すると、短い沈黙。
「結局は、冒険者になった後。何を成していくかなんてことは、だれにも止められはしないですし。権利もありはしないですから」
と、言い終えたところで着信を知らせる電子音が響く。
「……すみません。私です」
一言断り、スマホ端末を取り出すと、表示された着信相手の名前に顔が綻ぶ。
「噂をすれば、のようです」
電話を取ると。
「はい。楓です……はい……お疲れ様です。……ええ……いえ、楓は後押しをしていただけです。灯真さんが―――?……どう、したのですか?どうして、謝っているのですか?」
「んー?なになに?冒険者資格の取得ご報告コールじゃないのー?」
「あ!コラ!人の通話の盗み聞きしちゃだめだよ……であろうが!」
件の少年からの電話、それをとった楓とのやり取りに感じた違和感、好奇心で耳を寄せていくと。
『………ったんだ』
「灯真さん?すみません、少し聞き取りずらいようです。あの―――」
『ダメだったんだよ!!!』
「「「!」」」
耳を寄せずとも、端末から漏れ出る悲痛な叫びともとれる。
吠えるような、声。
『ダメだった!無駄だった!努力は!無能は!必要ないって!!』
聞こえてくるそれらは、全て、何かを否定する意。
つまるところ、
「え?冒険者資格、取れなかった。って、こと……?」
三人にとって、理外の何かが起こっていると、結論に至る。




