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12話

「だっしゃぁああ!!」


 馬場君が身の丈近くある戦斧を振るうと、群がるゴーレムたちはポップコーンの様にはじけ飛ぶ。


「ほらよっと!」


 強力でありながら隙の大きい馬場君の背後を、木村君が軽やかな斬撃でカバー。


「如月。あの奥のゴーレム、岡センが言ってた強個体っぽい。ステが頭一つ抜けてる」

「了解、っと」


 後衛で戦況を広く観察、敵の戦力を跡部さんが看破し、間合いの外から如月さんの弓術で先制。


「これで、ラスっ……トォ!」

「おわ!?バカお前、スキル使うなら言えや!?」


 馬場君は重戦士のスキルを発動。戦斧をジャイアントスイングのように振り回し次々と小型のゴーレムを薙ぎ払った。


(四人とも、すごいや)


 適材適所。

 それぞれの得意を活かし、十体近く居た模造傀儡(レプリカゴーレム)を難なく倒しきる。

 活動を停止したゴーレムたちは、こと切れたように倒れ土くれとなって崩れた。


「っし。ヨユーヨユー!」

「ったく、無茶しやがって……しかし、強個体のゴーレムってのも大したことなかったな」

「あたしの援護のおかげでしょ」

「おつー」


 一方僕は、皆の活躍を床に伏して観察していた。

 レベル1の僕がぼさっと突っ立ってたら馬場君の範囲攻撃の邪魔になるだろうし、木村君の機動力の妨げになる。如月さんの矢の射線を妨害、跡部さんの鑑定時に気を散らせてしまいかねないからね。


 ……こと、戦闘においては全く役に立たないのが僕だ。


 僕が【増減与奪(パラメーカー)】のスキル効果で能力値を変動させたところで、戦力にはなれない。

 下手に戦線に加われば、ダメージを負って動けなくなって皆の足を引っ張るのが関の山。


 僕にできるのは楓さんに叩きこまれた、冒険者として必要な観察力。

 これでもって、ダンジョンに設置された罠を見破り処理することくらい。


 最も―――


「―――おい、日向!テメェが発動させたモンスタートラップ!俺様が処理してやったんだぞ!言うことあんだろ!」

「俺、達な!?」

「ほ、本当にごめん。僕のせいで……」


 大事に至る前に処理しているつもりだが、どうしても後手後手に回ってしまう。

 理想を言えば発動もさせず無効化したり、隊列を罠から遠ざけるなりなんなりできればいいんだけど……    


 みんなとの力量差があり過ぎる僕はついて行くので精一杯。当然、馬場君達の先回りなどできるはずもなく、相変わらず皆の反感を買ってしまっているようだ。

 今の群れも、最初は二体だけだったのが前線に出てる馬場君達足元にまたもやトラップのスイッチを見つけ、早々に処理したつもりだったんだけど……


(まだまだ僕が遅すぎるんだ)


 僕の言葉など、警告など、彼らには聞き入れてくれない。聞いてもらえる信用を僕は得ていないし、その資格もない。


(もっと速く。安全に)


 もっと見て、感じるんだ。


(スペックで圧倒的に劣るなら、別の何かで埋めるんだ) 


 異変の気配を予知して、パーティ全体の動きよりも一手も二手も速く。

 これしか取り柄が無いんだ。もっと速度と精度を上げろ。


「ごめんね……迷惑、かけないようにするから」


 気を入れ直し皆に宣言する僕とは裏腹に。


「「「「……」」」」


 四人の視線は何の熱も帯びていない。懸念も、期待も、怒りさえも。

 何も映していないそんな色。

 そして無言のまま、皆前を向き隊列は進みだす。


 いままであまり見なかったような対応だ。

 罵倒されるよりもよっぽど心に来る。


(でも。それでも、僕は追いすがるよ)



 そんな、利己的な決意を胸に。

 今の僕にできる全部で、今日、冒険者になるために。


 仮想ダンジョンを進んでいった。


 




 ::::::::::






「1年A組、第一班。攻略タイム12分40秒!」

「「「「楽勝!」」」」


「はぁ……はぁ……」


 帰還用の転移陣があるゴールの部屋までたどり着き、転移した先の控室で訓練終了の言葉と攻略タイムを聞く。

 あのモンスタートラップ以降、特別大きな立ち回りは無かった。罠が複数仕掛けられていたけどうまく処理できていたと思う。


(皆、息一つ上がってない……すごいスタミナだ)


 馬場君達四人とは離れた場所で、僕は一人膝に手を突き肩で息をしていた。

 さすが冒険者資格取得を問う公開訓練だけあって、罠の数が普段の訓練の倍近くあった。

 皆のペースに縋りついて行きながら、あの数の罠を立て続けに処理するのに精神力と体力をごっそり持っていかれたよ。


(単に僕が、体力無いだけだろうけど)


 ともあれ、僕なりの全力でやり切ったと思う。楓さんに教わったことは出し切れたはずだ。


「皆、ご苦労様。とても良い動きをしていたよ」


 少し甘めな自己評価を下していると。パチパチと、賞賛を送りながら手を叩く男の人が入室してきた。


(誰だろう?学校じゃ見たことない顔だけど、先生、じゃないよね……あれ?でもこの人、どこかで)


 男性が、タイムを告げた先生のとなりに並ぶと、


「この方は、冒険者協会、副会長補佐の―――」

宗像(むなかた)です」


 馬場君達がどよめきだす。僕も心臓が飛び出そうなほど驚いた。


 それも当然だ。

 全世界、僕たち学生が目指す全ての冒険者が所属している冒険者協会の。

 そこのナンバー2の補佐、宗像(むなかた)(とおる)。僕達からしたらテレビや雑誌とかでしか見たことない雲の上のようなとんでもないお偉いさんだ。


(な、なんでこんな大物がここに……?)


「一年の皆は、公開訓練自体初めてだから知らないだろうが、訓練終了後は班ごとにこの部屋で総評を行うことになっている。いつもなら我々教員で総評と最終結果を発表するのだが……今回は冒険者協会から、宗像さんがその役を買って出てくださった」


 実物を見ると、意外と若い印象の温和な表情を浮かべながら、角ばった眼鏡を直し。


「冒険者協会は長年、人類の敵たる魔物巣食うダンジョンの攻略に邁進してきました。その結果、冒険者という職業も世に浸透し、ダンジョン・魔物関連の人的被害はこの十数年、数えるほどしか発生していません。市民たちもダンジョンと隣り合わせの現代生活の中で不自由なく暮らしています」


 ですが、と。


「私はこれを膠着状態と考えています。人魔の戦いは一見すると、ダンジョンへ魔物を押し込めている我々人類の優勢。が、水面下。上級のランカー冒険者たちのみが挑めるクラスのダンジョンともなると、その脅威度は別次元です……奴らもまた日々、進化を遂げている」


 ダンジョンにも冒険者同様、攻略難易度、驚異度で等級が振り分けられている。

 呼び名は、冒険者等級と同じ。五等級(フィフス)を最低ランクとした序列。ダンジョンに付けられた等級と自身の等級以下のダンジョン以外は、原則立ち入ることは禁じられている。


 もちろん、冒険者を守るためのルールだ。


(別次元の、ダンジョン、魔物……)


 まだ、冒険者資格すら取得していない僕にはあまりに次元の違う話。

 けど、志す者として事の重大さは感じ取れる。

 馬場君達も宗像さんの話を聞いて息を呑んだ。


「と。以上の事を踏まえ、これからの時代を担っていく、君たちのような若手の冒険者の更なる活躍に期待したいのだよ。これからの時代は、より強い冒険者が必要になってくる。だからまず、私自身の目で、冒険者を志す今の若者のレベルを推し量りたい。という意図で今回手を上げさせてもらった」


 一通り話は終わったようで、宗像さんは姿勢をやや崩す。

 それを見た馬場君達もわずかに緊張が解け、各々言葉を漏らした。


「ま、マジかよ。採点がさらに厳しくなるってことか?」

「それだったらキチーよな……なんで俺たちの年で……」

「えっ?えっ?なに?なんかやばいの?」

「跡部。あんた話聞いてなかったの?」


 皆の言うとり、宗像さんが言うような視点で今回、公開訓練の審査をするのであれば、単純にそのハードルが上がったのかと警戒してしまう。


(偏見だけど、お偉いさんの審査って……きっと厳しいんだよね)


 僕たちの、そんな懸念の雰囲気を感じ取ったのか、宗像さんは愉快そうに小さく笑う。


「ははは。そう身構えなくても大丈夫。審査の内容は大きく変わったりしない。突然そんな変更はフェアではないからね、安心してくれ。さっきも言ったように、モニターで見ていたが皆とてもよい動きをしていた」

「「「「じゃ、じゃあ……!?」」」」


 馬場君達の詰め寄るような視線に力ずよく頷き。


「個々のジョブへの理解度。スキルの練度。チーム間の連携。十分評価に値する」


(―――ああ。楓さんの言ってた通りだ)



『灯真さん。どんなスタイルであれ、それを必要とする人間は必ず存在します。大切なのはそれを手放さず練り上げる事。そうすれば、きっとその本質を評価してくれる人はきっといるものです』



「1年A組、第一班―――」



(これで、僕も―――)


「馬場君」

「うす!」


「木村君」

「はい!」


「跡部さん」

「は、はい!」


「如月さん」

「はいっ!」


(近づけ―――)









「以上四名。君たちは、今日から冒険者だ」









「…………………………ぇ」





 思わず、喉奥から間の抜けた声のようなものが出た。


 馬場君達が歓喜する声を遠くに聞きながら、

 いくら呆けて待ってみても。



「交付前に必要な事は先生方からご説明がある。よく聞いておいて、手続きを済ませてください」



 僕の名が、呼ばれることはなかった。

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