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0話

「おい!早くしろよ! 『無能』!」

「は、はい!すみませんん!」


 怒鳴られた。最早聞きなじんだ罵倒と蔑称。


「へっ。っとに惨めだなぁ」

「ホント。こんな生き恥晒していつまでここにしがみついてるのかしら」


 憐みを装った侮蔑。


「くすくす」

「あっはは」


 嘲笑。広がる共感、波及する蔑み。歪な和。


「ごめんなさい、ごめんなさい。まだ、役に立てますから」

「役に立った試しなんてありゃしねぇだろうが! 図に乗るな!」

「ぁぐっ!」


 発覚を避けた陰湿な暴力。


「……あ? なんだその目は?」

「ご、めんなさい……ごめんな、さい」

「あーっ。今あーし『鑑定』でそいつ見てたんだけど、まーた『無能』なスキル使ってたよ」


 向けられる視線。含まれるのはあらゆる負の感情。


「おいおいおいおい! そいつは反抗と取っていいんだよなぁ!? 『無能』!」

「ごほっ!?」


 口内に広がる血の味、歯を食いしばれば砂利の食感。


「ちょっとぉ。はずみで死なないように気を付けなさいよー?」

「むかつくんだよぉ……せっかくギルドにおいてやってんのによぉ!」

「ごめ、がっ! ……ごめんなさい……うぐっ!」

「こうやって! 俺様が! かわいがってやってんのに! そのくそみてぇな『無能』! 使ってんじゃ、ねぇ!」

「ぐっ……ぅっ……ぅぅぅう」


 漏れ出る嗚咽、乾いた心と相反して、湿る目元。


「ちょ。泣いちゃってんじゃ~ん。かわいそー」

「ちっ! 女みてぇな泣き方しやがって! 『無能』が!」


 同調。


「……無能」

「…無能」

「無能」


 享受。


「役立たずで、迷惑ばかりかけて、ごめんなさい」

「当たり前だろうが、この―――」


「「「無能」」」



 そう。これが僕だ。



「ククゥ……」

「! ダメ! 出てくるな!」

「あ? なんだ? このニョロニョロしたの」


 自分をあきらめた、期待なんて誰にもされない。


「えっ! かわいいー! ビジュアルつよすぎー!」

「あっ、あの! この子は!」

「うっせ。無能が勝手にデカい声出してんじゃねぇよ……おい、その無能抑えとけ」


 味方なんて誰もいない。


「クゥ?」

「いやー! チョコンって立ってる! 首傾げてマジ可愛いんですけど!」

「へぇ、こいつのペットか? お前もかわいそうにな?こんな無能が飼い主でよ―――」

「クァっ!」


 誰かを好きになることもない。


「いって!? こいつっ……!」

「ちょっとー。そんないきなり撫でようとしたら――え?」

「このっ……なんだ? どうした?」

「ぁ……ぁ、あ、こ、こいつ……鑑定、したら」


 だから――


「こいつ、『魔物』、だよ」

「「「「!!?」」」」

「ダ、ダメ! ダメだ!」


 誰かに好かれることもない。


「おいおい! 無能なうえに、『魔物』なんて飼ってやがるのかよ!」

「ホントにどうしようもないやつ……!」


 下を向いては背を刺され、耳を塞げば汚れた景色。

 瞼を閉じれば呪詛の言葉を囁かれ。拳を解けば、奪われる。


「殺せ」「殺せ」「殺せ」

「「「マモノハコロセ」」」


 これが、僕で。


「や゛めてぇぇええええ!!!」


 かつての――僕。


日向(ひなた) 灯真(とうま)だ。

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