真・除夜の鐘
ゴオオオオオン
リビングでくつろぐ熟年夫婦。
「近所のお寺かしら。やっぱり鐘の音っていいわね。自然と心が洗われるっていうか」
「確かにな。あれ……なんか……俺、お腹いっぱいかも」
「ええ! せっかくちょっと高めの年越しそば用意したのに……でもそう言われれば私も食べられそうにないわ……さっきまでとってもお腹空いてたはずなんだけど、不思議ね。もう年なのかしら」
ゴオオオオオン
書斎で会話する親子。
「おっ、どうした? 目が覚めたのかい?」
「うん……何だか眠れなくて」
「そうか。ユウマも来年から小学生だし、このまま一緒に年越しするか」
「やったあ!」
ゴオオオオオン
寝室で向き合うカップル。
「悪い……急にあっちの調子が……おかしいな……」
「気にしなくて良いって。そんな日もあるよ。私も今夜は二人でまったり過ごしたい気分だし。だって同棲して初めての年越しじゃん」
「それもそうだな。それにしても、どこから聴こえてくるんだ、この鐘の音」
ゴオオオオオン
タクシーの車内で揉める二人。
「おい、こんなとこに車停めて何してんだよ!」
「すいません、お客さん。なんか真面目に働いているのが馬鹿らしくなってしまいまして。もちろん運賃はお返ししますので」
「ふざけんな! 金なんてどうでもいい! 今日中にこの書類を届けないと…………まあ、いいか……俺も会社辞めようかな……」
ゴオオオオオン
全国いたるところで。
「現在、赤白歌合戦の最中に次々と出演者の解散宣言が行われる異例の事態となっております。なお、私も本日付けでMHKを引退いたします」
「先生……? まだ手術中ですよ!?」
「この中にパイロットはおられませんか!?」
「総理! まだ会議は終わってません!」
ゴオオオオオン
全てが終わるまで、あと百二つ。