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ぱればらっ!  作者: Aoy
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従者のお返し 前日編

ホワイトデー小話の前編です!

 なぜ付き添いをしてしまったのか。今はその選択をした事を激しく恨んでいる。

 目の前で真剣に悩んでいる男性……団長であるリグレットを見て、私は溜息をつく。


「団長……別に義理なんですし。そこまで真剣に選ばなくても」

「そうかもしれないけどなリズラ。貰った人に対して礼儀を払うのは当たり前だろう」


 そういう所が好印象というのは否定しないが、彼は良くも悪くも優しすぎる。貰った人数は数知れないというのに、今のペースでは貰った人全てに違う物を選ぶとか言い出しそうなので、私は再び溜息。

 そもそも付き添いなど適当な理由をつけて断る事などできたはずなのに、団長があまりにも真剣な表情で頼むのだから……仕方なく、だ。

 もしかして私の事が実は……とか、そういう勘違いしてしまったからとかそういう訳では無い。


「もう……これじゃ日が暮れますよ、団長」


 様々な種類のマフィンやラスクを籠に入れていく後ろ姿を眺めながら、苦言を呈してみる。折角付き添っているのだから、ただ買い物に付き合うだけというのは納得いかない。


「ああ、すまん。だけど、あと1つ……これだけはちゃんと決めさせてくれ」


 私の苦言に申し訳なさそうにしながら、それでも「これじゃないんだ」と言いたげな目でなんとなく察する。

 彼には、大切な人がいる。きっと今選んでいるのは、その人に渡すためのもの。

 その人は私よりもずっと可愛くて、私よりもずっと彼を知っていて……私よりもずっと彼を想っている人。


 再び渡すものを選び始めた団長は、頭を悩ませながらもどこか楽しそうだった。何にしようか、これを渡せば喜んでくれるか……そんな想像をしてるんだと思う度に比例して、辛くなる。


「…………キャンディーとかマカロンとか、ああいった可愛らしい物好きですよね。姫様って」


 誰に言うわけでもなく、ぽつりと呟く。


「まぁ、後は最近乾燥してるのでハンドクリームとか……ってなんです?」

「いや……姫に渡すものってよく分かったな」


 ポロポロと水滴を垂らしていくように、渡せば喜びそうな物を言っていれば、呆気にとられたような顔をする団長。

 当たり前だ。そんな柔らかい表情をする時は、決まってあの子の事を考えている時だから。副団長として傍にいれば、色んな事を見ていれば嫌でもわかる。わかってしまう。


「偶然ですよ、偶然」


 でもそれは言わない。言ってしまえば、彼の邪魔をしてしまうから。それに伝えた所で風向きが変わることなんてない。……変わるとするなら接する時間くらい、だろう。


 渡すものを決めた団長は「ありがとう」なんて感謝の言葉を残して店の人の元へと走っていく。取り残された私はその姿をただただ見送って、後悔する。


「なんで教えたんだろ」


 わざわざ渡すべきものを教えなくたって、彼はきっと決めた。それに姫様だって、彼から貰うものは嬉しいだろう。

 別にお返しとして意味のある物じゃなくたって……姫様の好きな物じゃなくたって良かったはずだ。

 私は嫌な人間だ。どうせならそうじゃない方にすれば良かっただなんて、今更になって後悔するのだから。

 

「助かったよリズラ……リズラ?」

「別に。なんでもないですよ」

「……そうか。それにしても姫の好み、知ってたんだな」

「ええ、まぁ」


 店から出て、団長は意外といった表情で話す。

 実際姫様の好きな物は知っている。

 少しでもあの子に近づけば、団長は振り向いてくれるかも、なんて少し期待してた時期もあったから、この国の中でも姫様について割と知っている事は多いと思う。知った所であの子には勝てないけれど。


「あ、そうだリズラ。これ」


 心の中で憫笑していれば、不意に団長から声をかけられる。それを不思議そうにしていれば、手にある袋から何かを取り出して、それをこちらへ渡す。


「なんです?これ」

「いや、まぁ。今日は随分と付き合ってもらったから。それの……まぁ、あれだ」


 歯切れの悪い団長から渡されたのは何かが入った小袋。開けてもいいか尋ねれば、無言で首を縦に振ったので中身を取り出す。

 そこから出てきたのはバウムクーヘンと、割と好んで食べているブランドのキャラメル。それを見て少しだけ笑ってしまう。


「……いや、まぁ騎士団の部屋によく常備されてるから。嫌いだったら、無理に受け取らなくても……」


 いつもは私の事を「真面目にしていれば」なんて茶化しているせいか、いざ感謝をしようとすると無駄に気恥ずかしくなるのだろう。

 目を合わせようとすれば、そっぽを向いてしまう姿は面白くて、今まで思っていた事が少しだけ軽くなった気がする。


「折角団長が選んでくれたものですから。喜んで受け取らせていただきますよ」


 どうせ今渡した物が、そしてこれから渡すものがどんな意味を持っているのかとか、この人は何にもわかってなさそうだけれど。それはそれでいい。嬉しい事に変わりはないのだから。


「さ、帰りましょ。あんまり遅くなると姫様が心配しちゃいます」


 歩くスピードを早めて、団長を追い抜かす。今振り向かれるのは少し困るから。

 

 確かお返しの日は明日だっただろう。それならば明日の仕事は少し余分にやって、少しでも早く終わるようにしてやろう。そんな事を考えながら、私は王城へと急ぐのだった。

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