守りたいもの
本日からKADOKAWAさまよりカドコミ(WEB・アプリ)とニコニコ静画にて本作のコミカライズがスタートします‼
カドコミ(WEB)
https://comic-walker.com/detail/KC_006932_S/episodes/KC_0069320000200011_E
ニコニコ静画
https://manga.nicovideo.jp/comic/74034
詳細は活動報告よりご確認ください。
任せて! と胸を叩くと、ノヴァ様が「ひろいん……?」と首を傾げた。ノヴァ様へ「貴女は私のヒロインですよ……」と近寄ろうとすると、リリーに「公爵令嬢相手に失礼!」と引っ張られる。その瞬間、ジャック寮の屋根の上に、エヴァルトが降り立った。
「逃げないで……スフィア、そう、スフィアだ……僕のスフィア、この世界を早く壊して、君に会いたい……」
ぽろり、と、彼は一筋の涙をこぼした。子供のように顔を歪めたあと、「苦しい」と呟く。
「会いたい……、どこにいるの、スフィア……僕は君を幸せに……そうだ。君を幸せにしたいから、この世界なんかいらないんだ」
エヴァルトはかっと目を見開くと、魔法を使ってまたグレースケールの世界に色を放った。ただ人に実害がなくペンキを撒いてるだけに見える攻撃も、ラスさん曰くかなり危険な魔法のようで、魔法を使用しているエヴァルトも苦しげに呻いている。
「ラスさん、ノヴァ様をよろしくお願いします。リリー! 入学式と同じように、また私を打ち上げてください! エヴァルトのところまで!」
『わ、分かった』
ラスさんがノヴァ様を抱え、リリーが無言で魔法の展開を始めた。リリーは「そのキスでどうこうできなかったらどうするの」と私を睨む。
「聖女アタックします。好きな人が駄目なことをしようとしていたら、きちんと駄目って言います! 私はヒロインなので」
「……」
「リリー?」
「私にとっては、貴女はヒロインでも聖女でもなく、ただ一人の馬鹿姉スフィアよ」
リリーは、私のほおをぶすりと人差し指でさしてきた。してることはどう見ても攻撃だけど、心配してくれるのが伝わってくる。私は彼女を抱きしめて、「いってきます。きちんと帰ってきますよ」と背中を叩いた。
「じゃあ、よろしくおねがいしますね! リリー!」
「水よ――大地を放て!!」
リリーの魔法陣が私の足元に現れ、凄まじい勢いの水流が放たれた。初めて彼女の魔法を見たときよりも、入学式で一緒に魔物を倒したときよりも、ずっと、ずっと強い。これまで彼女が魔法の練習を陰ながらしていて、夜食を差し入れしていたけど、努力がどんどん実っていると分かって笑みがこぼれた。
「やっぱりリリーは天才!」
「早く行きなさいよ!」
「うん!」
私はリリーの魔法によって、エヴァルトへと飛んでいく。魔法を酷使する彼は苦しげで、悲しそうで――それでも、周囲に自分が最も得意なはずの炎魔法を使うことはなく、一線を越えないよう耐えている。
「エエエエエエヴァルトオオオオオオ!!」
ばんっと地面を蹴るみたいに、リリーの水流を思い切り踏み込んでから飛び跳ねる。そして思い切りエヴァルトに向って、私は向っていった。
「好きだああああああああああああああ!」
私は思い切りエヴァルトにぶつかった。いや、墜落したとか、落下したのほうが正しいかも知れない。勢いのまま抱きついて――勢いあまってキスどろこか意図せず頭突きする形になった。がつん! と大きな音が響いて、エヴァルトは私とともに落下していく。
「水よ、恵みをもたらせ」
しかし、すぐにリリーの魔法によって、私とエヴァルトはキャッチされた。そのまま彼女や、ラスさん、ノヴァ様のもとに降り立つと、エヴァルトは目を閉じている。ただ、息はしている。私はぶんぶん彼の肩を動かすと、ダメ押しでキスをした。
「スフィア……?」
「キスの力で復活ですね! エヴァルト!」
「いやどう見ても頭突きだったでしょう……? というかキスもどうかしてると思ってたけれど、禁術が頭突きでどうにかなるものなの……?」
リリーが愕然としている。私はまだぼーっとしているエヴァルトに抱きつき、「禁術がかけられていたんですよ! 世界が大嫌いにさせられたんです!」と説明をした。
「え……あ、僕、スフィアのこと思い出して……スフィアが聖女なら、世界を危機にすれば会えると思って……それで、スフィアを見つけたら、ついでにスフィアが死ぬ原因である、世界をつぶせばいいと思って……ずっと邪魔だったから」
『こいつ、世界最初から滅ぼす気だったじゃん……じゃあ何……? 元々世界滅ぼす気だったところにさらに世界への憎しみ加わってたわけじゃん……そらあんな化け物じみた状態になるわな……』
「何言ってるんですか! 私はどんなエヴァルトも好きです! 最高です!」
エヴァルトを安心させるように背中を叩いていると、空間全体がピリついたのが分かった。視線を向けると、アンテルム王子が聖剣を携えながら、「ノヴァ!」と叫ぶ。そして、思い切りノヴァ様の元へ駆け出していった。ずっと王子はノヴァ様を探していたらしい。思えばノヴァ様も今日他の人に認識をされてる感じはなかったし、一緒に記憶を操作されていたのかもしれない。
ノヴァ様はそっとアンテルム王子を見つめると、すっと真顔になって「近づかないでくださいませ」と冷たく言い放った。
「ノヴァ、ずっと探していたんだ!」
「どうだか……」
白けた様子で顔をそむけるノヴァ様に、アンテルム王子は言葉を失った。私も驚いている。だって彼女はゲームの中ではいつだって王子に熱烈な愛を向け、ただ会話しただけのスフィアに嫉妬をして苛め抜く女の子だ。それに魔災だって起こす。なのに、ノヴァ様はゴミを見る目でアンテルム王子を見た。
「何を言っているんだ。お前も精神干渉魔法をかけられているとでも言うのか?」
「いいえ。わたくし、今日の一日だけでもはっきりと分かったのです。殿下がわたくしを心から愛してくださっていないことに」
「そんな訳がないだろう。我はお前に愛を伝えていたではないか」
「見せかけの、でしょう? 所詮わたくしは捨て駒ですもの」
なんだか、喧嘩が始まってしまった。エヴァルトはきょとんとしてるし、リリーも怪訝な顔をしている。それまでノヴァ様の後ろにいたラスさんは、スス……とこちらに退避してきた。
『我、ちょっとこっちに行くわ……なんかすごい虚無の疎外感を久しぶりに味わったわあ……』
「すみません! ただラスさんには私とヴァージン・ロードを歩いて頂きたく……」
『気が早いぞ。お主まだアカデミーの卒業もまだなんだし……というか、我、亡霊だし……ん? なんかあそこおかしくないか?』
ラスさんに言われ、ノヴァ様のさらに後ろに目を向ける。何故か彼女の周りからは、黒い靄がたちこめていた。
「何故わからない、ノヴァ。我はお前を愛している」
「殿下の愛は軽いですわ。わたくしと異なって恋に苦しむ様子もありませんし、床に転がることもしない。叫んだことなど無かったではないですか」
「は? ――ノヴァ!」
アンテルム王子がノヴァ様に手を伸ばした。その瞬間、ノヴァ様の背後に黒い靄が広がり、彼女を一思いに飲み込んでしまう。愕然とする中、次に黒い靄から姿を現したのはレニちゃんだった。彼女はアカデミーの建物を超すほどに浮上していくと、ギリっとこちらを睨んできた。
「ふふふふ、これよこれ! この感じ! メインキャラが集まって! 悪と対峙する。ふふふ。ずっとこの時を待っていた!」
しかし、声色は浮かれている。
「アンテルム王子!」
建物の裏手から、ラングレン、レティクスとルモニエちゃんが走ってきた。レティクスは「何で魔災が始まってんだよ!」と空を見上げる。
「エッ! 池は爆破したじゃないですか! 浄化を重ねがけだってしましたよ! ふんだんに光の魔力を使ったのに……」
「彼女が魔災そのものになったんだ……闇の魔力に取り込まれて」
『人の形をした魔災だと……?』
エヴァルトの考察に、ラスさんが愕然とした。私も、驚いている。確かにレニちゃんはミアプラキドスをドロドロにしたりしていたけど、まさか魔災そのものになるなんて――。
「先程、魔物を従えアカデミーに現れたあの女と俺たちが交戦していたのですが、だんだん様子がおかしくなって――ミアプラキドスが現れて、僕らを食べようとしたんです。でも彼女、突然、メインキャラ減らそうとすな! とか訳わからないこと言って、私たちをかばったかと思えば、彼女が、その、精霊を食べて……」
ラングレンはそう言いながら、剣を構える。するとラスさんがハッとした様子でレニちゃんを見た。
『もしかして、聖女の言葉によってローレンスの娘が考えを改めたことで、魔力供給が不安定となった影響が出たのか……?』
「え、ラスさん優しく説明してください」
『えっとな、あやつ多分禁術使って、魔物と契約までせずとも闇の魔力ちょい借りしてた感じなのよ。でも、闇の魔術って生き物みたいな所あるから、使用者がちゃんと魔力持ってないと、使用者を乗っ取ったりするのね? それでローレンスの娘から安定して魔力もらえなくなったから、闇の魔力に乗っ取られちゃったわけ。んで、何でローレンスの娘から安定して魔力を供給できなくなったかと言うと、悲しいなぁしんどいなぁって感情からじゃないと闇の魔力ってなかなか取れんから、お主と話をしてローレンスの娘は自尊心満たされて来て、闇の魔力が取れなくなっちゃったってわけ、でも今またアンテルム王子と話をして悲しい感じになったから、引っ張り込まれた感じね。でも、もともと破滅願望あるっぽいよ、あの子』
「ありがとうございます! よく分かりました。とりあえず浄化すればいいんですね!」
『でも、もうあやつ、魔物というよりごりっごりに災いの塊だから、厳しいかも……お主が浄化終わる前に攻撃されて死ぬかもしれん。というか、国が滅びる滅びないのくらい、結構大変な状態だよ今』
「でも、ひとまずノヴァ様とレニちゃんを助けないと! 彼女にタッチして浄化すればいいんですから!」
私は空を見上げる。でも、そんな考えはお見通しというように、レニちゃんの纏う黒い靄は、ドロドロとした粘液を排出し、そこから魔物を生み出していったのだった。
本日からKADOKAWAさまよりカドコミ(WEB・アプリ)とニコニコ静画にて本作のコミカライズがスタートします‼
カドコミ(WEB)
https://comic-walker.com/detail/KC_006932_S/episodes/KC_0069320000200011_E
ニコニコ静画
https://manga.nicovideo.jp/comic/74034
詳細は活動報告よりご確認ください。




