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私を虐めてくる義妹と仲良くしたい

本日からKADOKAWAさまよりカドコミ(WEB・アプリ)とニコニコ静画にて本作のコミカライズがスタートします‼

カドコミ(WEB)

https://comic-walker.com/detail/KC_006932_S/episodes/KC_0069320000200011_E

ニコニコ静画

https://manga.nicovideo.jp/comic/74034


詳細は活動報告よりご確認ください。

 私が前世、エヴァルトの恋の奴隷として生きていた頃プレイしていたゲーム、「聖女の光と恋の伽」は、異世界を舞台にしたファンタジー乙女ゲームだ。キャッチコピーは「世界で最も儚いシンデレラストーリー」である。


 主人公は苛烈な義母と義妹を持つ伯爵家の娘で、貴族は必然的に魔力を持つ中ただ一人だけ魔力を持たないことで冷遇されていた。しかし十五歳の春、お使いの途中で大火災に巻き込まれ、そこで光の魔力が覚醒し、王都の魔法学園、通称アカデミーに入学するのだ。


 そして聖女の力を狙う王子様や、護衛であり騎士団長の息子、次期宰相、次期魔術師筆頭と恋をしながら自分の運命を切り開いていくゲームである。


 シンデレラストーリーというキャッチコピーだけあって、ヒロインであるスフィアは義母と義妹にそれはそれは虐げられる。元々自尊心を失っていたスフィアはより心を凍らせてしまうのだ。


 しかし聖女として覚醒した彼女は王家に認められる存在となり、攻略対象たちとの心の交流の末に、学園に入学した年の冬、沼から闇の魔物たちが溢れ出すまさに世界の終わりから国民を救い、誰からも尊敬されるようになるのだ。


 確かに私は、乙女ゲームのシナリオ通り、侍女たちから意地悪をされている。洋服を出してもらえなかったり、湯あみを一人でしろと言われたり……正直父との仲も微妙だった。


 それは私が可愛すぎて嫉妬したり妬んでいるから……なんて思っていたし、父との関係が微妙なのも、亡き母を思い出すからとか、私だけ魔法が使えず父は魔法が使えるマンだから、自分の力が強すぎることで私と接することを恐れているからだと思っていた。


 服は自分で選びたいし、湯あみも特に不便はなかったけど、まさか乙女ゲームのシナリオだからとは……。


「それで、どうやらリリーに良さそうな空き部屋がないみたいなの。でもこの子は狭い場所や日当たりの悪いところは得意ではなくて……」


 一人で自分の状況に納得していると、お母さんが困った顔をしていた。


「任せてください。私もリリーと一緒の部屋がいいので、丁度いいです!」

「……はい?」


 乙女ゲームで、義妹のリリーとヒロインのスフィアは仲が良くなかった。というかリリーは一方的にスフィアをいじめていた。でも私は虐められたくないし、リリーと仲良くしたい。苛めを楽しむなんて精神状況は絶対よくない。病気だ。私は可愛い妹と楽しいことを一緒にしたい。


「これからよろしくお願いしますね、リリー! 私、貴女みたいな可愛い妹が出来てとても嬉しいです!」

「……えっと」


 リリーは何故か戸惑いがちにお母さんを見た。乙女ゲームでは少し気取った感じだったけれど、恥ずかしがりやさんなのかもしれない。


「安心してくださいリリー、私は貴女のこと大好きです! とても歓迎しています! 困ったことがあったら何でも言ってください!」

「……とりあえず、今のところはリリーとスフィアの部屋は同じにするか」

「お、お父様……?」

「はい。お任せくださいお父様。姉妹といえど同い年ですし、きちんとお部屋を半分こにして、仲良く使います!」


 せっかく、乙女ゲームの世界に、しかもヒロインに転生したのだ。リリーや悪役令嬢と呼ばれヒロインと敵対してしまったあの子と仲良くして、ゆくゆくはエヴァルトと結婚したい。というかする。


 私は強く決意しながら、初めての顔合わせを終えたのだった。


◇◇◇


「リリーこっちですよ! あっ、もしかして行きたい場所がありますか?」


 広間での顔合わせが無事に終わり、私は自室を案内するためリリーと廊下を歩いていた。しかし彼女はどことなく私を警戒するように見ていて、打ち解けるのはまだまだ先になりそうだ。


「ねぇ、お部屋、右側と左側どちらがいいですか? せっかく部屋が一緒なわけですし、全部を共有するのもいいですけど、やっぱり最初のうちは分けておいたほうが生活しやすいかなと——」


 そう言いかけて、視界に映った光景に驚いた。私の家具がすべて部屋の外に出されている。おかしいと思いながら部屋に入ると、私の部屋の家具の代わりに真新しい家具が並んでいた。


「かわいー! 新しい家具! 素敵ですねぇ! 前のも良かったですけど、やはり物には寿命がありますもんね」

「触らないでちょうだい!」


 新しい本棚に触れた途端、リリーが後ろ手に扉を閉めながら怒鳴った。よくよく見ると、特定のデザイナーのカタログばかり入っている。大事なものだったのだろう。あれ、これは……、


「さっきから随分と馴れ馴れしいけれど、私は貴女と姉妹になるつもりなんてないわ! 冗談じゃない。何が一緒の部屋よ! 貴女は納戸にでも住めばいいのよ! 本当は私がこの部屋を使うはずだったのに!」


 リリーはぎりっと私を睨む。私はそんな彼女を見て、可哀想な気持ちになった。


 お父様は今日の再婚について、ただ「結婚する。新しい母親と妹が出来る。仲良くしろ」としか言わなかった。でも、リリーの素性はゲームで語られていたから知っている。


 早い話が、身分差故に父は今のお母さんと別れさせられ、そのあと私の母と政略結婚をしたのだ。その間、お母さんはキープ愛人扱いで辺境の別荘に住まわせられていたらしい。そしてその娘であるリリーも、同じような感じだったとシナリオで見た。


 その間とても肩身の狭い思いをしていたのだと思う。


「全部、お父様が悪いんですよ」


 全部お父様が悪い。愛があるなら、かけおちをするか母様と政略結婚する時お母さんを愛人になんてせず、別れるべきだった。それを無計画に妊娠させ本当にどうしようもない。娘の私も恥ずかしい。


「安心してください。私は貴女をきちんと妹だと思っています。今まで辺境の別荘に押し込められて、不自由な暮らしを強いられていたのでしょう。でも大丈夫です。王都には楽しいことが沢山あります。これからどんどん人生を楽しみましょう」


 私はリリーを安心させるようにポケットからハンカチを取り出した。


「真っ白なハンカチに花と猫そしてワニの刺繍したんです。貰ってください」


 刺繍は我ながら自信作だ。昨日、突然父様に再婚や義妹の存在を伝えられた際、お父様にリリーが何を好きか聞いても「そんなもの知らん」の一点張りだったから季節の花々を刺した。その後、何となくワンポイントが欲しいと思って猫を足し、可愛いと思ってワニも足した。


 父に糸を買いたいといっても買ってもらえなかったのは少し恨んでいるけど、草木染めをして世界に一つだけの色合いになったからいいだろう。


「いらないわよ!」


 しかし、リリーは気に入らなかったらしい。


「あっ、なら何色がいいですか? どんな柄が好みですか?」

「は?」

「もしかして、お手洗いに行った時とか、ハンカチを使わない人ですか……? 駄目ですよ……? 濡れたままでいると逆に空気中の細菌が付着して、とっても衛生的に悪いです。同じハンカチを使い続けるくらい不衛生なんですよ……?」

「そ、そういうことじゃなくて!」

「なら、安心して好きな柄を教えてください。刺繍は大得意です。どんなものでも完璧に仕上げてあげてみせますから! 大体一日で出来ますけど、明日の予定は……」


 そうだ。明日こそ、スフィアがお使いに行って、火災に巻き込まれるイベントの日だ。たくさんの犠牲者や死者が出て、彼女の救いたいという気持ちが聖女の覚醒に繋がるのだ。


「リリー、申し訳ないのですが、刺繍をするの、明後日でもいいですか……?」

「そもそもハンカチなんて受け取る気なんかないから」

「本当にごめんなさい。受け渡しが遅れるだけで、どんな柄でもきちんと縫いますので!」

「だから受け取らないって言ってるでしょう!」

「それで、驚かないで聞いてほしいのですが、実は私は乙女ゲームのヒロインでして……て言っても分からないですよね。私はこの世界の救世主でして、私の覚醒のために明日街が火事になるんで、一緒に阻止しに行きませんか?」

「……気は確か?」


 リリーは懐疑的な瞳で私を見た。確かに、ある日突然「私聖女なんですよ」と言っても信じるのは厳しいかもしれない。でも、明日は火災が起きる。そして私が覚醒するのだ。


 とはいえ、もう今日から覚醒していれば、けがをする人も、軽傷で済むだろう。


 ゲームでヒロインのスフィアが出来ていたことは、防御、治癒、浄化だ。さらに魔物や闇の魔力に対して最も効果が高いのは光の魔力で、普通の人が水魔法を六発当てても倒せない魔物が、聖女の浄化なら一発で倒せる……みたいな感じだったと思う。


 今覚醒すれば、皆が傷つかないし、リリーも秒で私を信じるに違いない。


「ちょっと待ってくださいねリリー、今覚醒するので」


 私が聖女として覚醒する方法――それはおそらく死にかけることである。火事でも死にかけていた。私は机にあった鋏を手に取り、刃を開く。


「せーのっ」


 私は鋏の刃を首に当て、勢いよく切りつけた。視界の隅に血が飛び散り、リリーが目を大きく見開いた。首に激しい痛みと熱を覚える。彼女は「なにしてるのよ!」と私に駆け寄り、首を押さえた。


「な、なに考えてるのよ貴女! こんなことしたら死んで──? な、なんで貴女、腕が光って……?」


 リリーの言う通り、私の腕は光っている。なんだか胸の奥から力が溢れてくる感覚もする。


 首に手をあててみると、血で濡れているところが徐々に乾いてきて、痛みもどんどん引いてくる。これは、つまり……、


「リリー! 成功です! 私は聖なる力に目覚めました! これでみんなを守れます! 明日の火災、一緒に防ぎましょうね!」

「……」


 リリーは返事をしてくれない。それどころか、軽蔑のまなざしを向けてきた。とても悲しい。


「リリー? リリーヘイ? ヘイヘイヘイヘイ? ハァイリリー?」

「もう寝るわ。湯あみもいらないって、侍女が来たら言ってちょうだい」


 そう言って、彼女はそのままベッドに入ってしまった。一応血だらけになってしまった辺りを掃除してぴかぴかにした後、私はリリーの眠るベッドに潜り込んでいったのだった。


◇◇◇


 エヴァルトはゲーム「聖女の光と恋の伽」で、女性を侍らせながらも魔術師としての才覚はあり、王太子にも一目置かれているキャラクターだ。


 女の子が大好きで、様々な女性と関係を持っているけど、恋愛対象は年上。色んな女の人と関係を持つセクシー担当だけど、スフィアに対しては世話焼きのお兄さん属性を発揮する狡い男である。


 しかし「聖女の光と恋の伽」ではどんなキャラクターのルートでも、起承転結の転、吊り橋効果ワクワクドキドキ要因として、王都の西にある沼から魔物がわらわら出て来る最終決戦、『魔獣災害』通称魔災が起きてしまう。その魔災で、「ここはいいから先に行きなよ」と、死んで行ってしまうのがエヴァルトだった。


 彼は、女の子が大好きだけど、それ以前に博愛だった。人間をみな平等に愛し、平和を愛していた。誰かが死ぬ、自分が死んだほうがいい、誰かが優しい道を選べるように、自分は辛い道ばかり選ぶ。彼を好きな人を泣かせてしまう人柄である。


 だからかエヴァルトルート以外だと彼はたとえ生きていたとしても、最後のいいところでヒロインを庇って死んだりする。彼自身のルートですら瀕死の重傷を負ってエンディングで奇跡的に目が覚める感じだ。だから絶対に、沼からあふれ出るイベントなんて起きてはいけないのである。


 私は、魔災を阻止し、世界を救う。それとは何にも関係ないけれど、自分の覚醒のために起きる火災も阻止する。火災ひとつ阻止できずに、何が世界だ。


「じゃあなに? すごい長い話始まったと思ったけど、そのエヴァルトって男と、今日起きる予定の火事って何にも関係ないわけ? 私は今まで何を聞かされていたの?」


 顔合わせ翌朝、姉妹部屋で私からエヴァルトの悲劇を聞いたリリーは、絶句した顔で私を見た。


「とりあえず、シナリオ上私と攻略対象の出会いのために、街が燃えるんです。だから一緒に行ってください、お願いです。リリーお願い。刺繍のハンカチ二枚に増やしてもいいですから。背中も流してあげます。お願いリリー、この通り」

「朝から妄想女の長話を聞かされた挙げ句、付いていく対価が刺繍ハンカチ二枚って、あなた損得の認識に問題があるのではなくって?」

「誠意見せます」

「ただ這いつくばっているだけでしょう?! ふざけてるの!?」


 這いつくばりが嫌なら、ブリッジだ。そのままトコトコ……と、ヒロインらしく リリーに近づけば、「気持ち悪い!」と一喝された。


「昨日は同じベッドで寝たのに、お風呂も一緒に入ったのに」

「いかがわしい言い方しないで!」


 今まで私は冬でも水風呂に入っていたし、ベッドは木の台で布団も無かった。でもリリーと一緒にいると、もれなくお風呂は沸いていて、ふかふかのベッドで眠れる。さらに彼女がゆたんぽみたいでぐっすり眠れた。


 そして朝、食事を済ませ私達は一緒に部屋にいるわけだけど――、


「本当に、貴女みたいな人間が私の義理姉になったことが心から嫌」

「私は妖精みたいな妹ができて嬉しいです。リリーにも私がお姉ちゃんで嬉しいと言ってもらえるようがんばりますね」

「そんなの一生来ないわよ」

「本当に……? 命を、かけても……?」

「なんで妙に自信満々なの……!? っていうかなんで命を賭けさせるの……?」

「リリー、話を脱線させないでください」

「どこまで図々しいの……!?」


 図々しい。そんなこと初めて言われた。屋敷の侍女は私に「役立たず」とか「親に愛されない哀れな娘」とか「気持ち悪い」とヒソヒソしてるけど。なんだろう? リリーは特殊な感性を持っているのかな?


「それでなのですが、ぜひリリーの転移魔法で街に連れて行ってほしいのです。おそらく夕方に私はおつかいに頼まれるのですが、それでは間に合いません。そして、街に出た後リリーは消火作業にあたってください」

「ふざけないでよ! 貴女、簡単に言うけれど圧倒的に私の仕事量のほうが多いじゃない! 貴女も働きなさいよ!」

「リリーの応援とけが人の治癒をしますよ」

「応援なんていらないわ! ……じゃなくて、どうして私が街の人間に魔法を使ってやらなくちゃいけないのよ!」

「大丈夫です。安心してください。利点もあります。今日はおそらくエヴァルトやこの国の王子も夕方から救助活動に入ります。エヴァルトは私と結婚しますし、王子も婚約者と結婚するのでしょうが、王子の護衛騎士や宰相には婚約者はいません。今のうちに顔見知りになっておくことで、将来の結婚相手探しが有利になりますよ。旦那様候補、いっぱーい」

「なにひとつ不確定な事実をよくさも当然のように話せるわね……」

「じゃあ、私は納戸で寝るので、ここの部屋を一人で使ってもいいですよ」

「……本当に?」


 リリーの顔つきが明らかに変わった。なんだろう。一人でコソコソしたいことでもあるのかな。もしかして私にハンカチの刺繍をしてくれたり……?


「私に秘密のプレゼントを用意してくれるんですか? 刺繍のお礼に?」

「貴女ねえ、寝言煩いのよ。ずっと一人でヘラヘラ笑って……街飛ぶ、もしも、万が一、奇跡的に、本当に、火災が起きたら消火する。それだけでいいならしてあげる」

「いいんですか? リリー大好き!」

「ちょっと抱きつくんじゃないわよ! 暑苦しい!」

「はーいっ!」


 リリーは、強い言葉のわりに優しいところがある。やっぱりゲームでスフィアをいじめていたのは心の病気だったのだろう。かわいそうに。私は早速街を救うため、彼女と支度を始めたのだった。


本日からKADOKAWAさまよりカドコミ(WEB・アプリ)とニコニコ静画にて本作のコミカライズがスタートします‼

カドコミ(WEB)

https://comic-walker.com/detail/KC_006932_S/episodes/KC_0069320000200011_E

ニコニコ静画

https://manga.nicovideo.jp/comic/74034


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