亡霊騎士は最強の精霊になれる
本日からKADOKAWAさまよりカドコミ(WEB・アプリ)とニコニコ静画にて本作のコミカライズがスタートします‼
カドコミ(WEB)
https://comic-walker.com/detail/KC_006932_S/episodes/KC_0069320000200011_E
ニコニコ静画
https://manga.nicovideo.jp/comic/74034
詳細は活動報告よりご確認ください。
『え……あの黒髪の男は……味方でいいの?』
「初めまして、初代ウーティエ王様。僕はエヴァルト・ジークエンドと申します。何卒スフィアへのご協力、よろしくお願いいたします」
エヴァルトは燃えているミアプラキドス越しに話しかけてくる。「えっとよろしく……?」と亡霊騎士様は今なお燃え続けているミアプラキドスをちらちら気にしていた。
『えっと、炎魔法の解除は……しない?』
「はい。この精霊は殺します」
『アアアアアアアアアア!? おい聖女! お主人間が精霊殺したらまずいだろ? 逆もまずいけど? おい、お主知り合いなら止めろ!?』
「あっ」
亡霊騎士様の言葉にハッとした。このままだとミアプラキドスが丸焼きになってしまう! 私はエヴァルトに声をかけた。
「エヴァルトさん! 燃やすのやめてください! このままだとミアプラキドスが死んでしまいます」
「君は何にも心配しなくていい。汚れ仕事は僕に任せて!」
「おめめがいってらあ」
ルモニエちゃんがあんぐり口を開けた。エヴァルトはしばらく視線を落として、「大丈夫だよ。君のことは僕が守るから」と、ミアプラキドスの炎越しに私を真っ直ぐ見つめてきた。
「実は今日、君が心配で後をつけてたんだ。付きまといみたいなことしてごめん。でも、精霊が死んだほうがいい存在ってわかって良かったよ。もう、君を守る為に、誰かに頼るのはやめだ」
甘く、危うさすら孕んだ笑みでうっとりと見つめられ胸が高鳴った。これはもしや結婚の序曲では……? 「是非!」と惚れ惚れしていると、亡霊騎士様は『ヒィィ……』と悲鳴をあげた。
『危ないやつじゃん! みたいじゃなくて紛れもなくお主の付き纏いじゃん! 何なの!? 二千年何もなく過ごしてたのに今日の生活の濃度がすごいんだけど!?』
「ハッ……、えっとじゃあ、私がミアプラキドスに聖女パンチしてくるので、亡霊騎士様とルモニエちゃんはエヴァルトと合流してください!」
「聖女、だめだよ。精霊は清らか族だから、効かないよ」
「ではむしろ亡霊騎士様の出番――On stage?」
『ハ? えっでも眼鏡の娘もアカデミーの生徒だろう? 何か魔法あるだろ!?』
「ボク、爆弾作るほうが得意……」
『反社会的なお方でぇ!? もう駄目じゃん! 放火魔の付き纏いになんか変な聖女にもうなにこれ! なに今日!』
「スフィア大丈夫? ケガしてない?」
亡霊騎士様がアワアワしていると、エヴァルトは不安げにこちらを見た。あんなにも、無垢な瞳をする彼に精霊を殺させてはいけない!
「ひとまず私はエヴァルトを説得するので、亡霊騎士様はエヴァルトの炎ごとミアプラキドスを倒してください!」
『無茶振り! あああもう!』
亡霊騎士様が剣を抜き詠唱を始めた。
『永久の力よ、王の血脈よ、我に力を与えよ。雷槌を落とせ!』
大地が割れるような音とともにミアプラキドスの頭上に雷が轟いた。しかし、炎はどんどん勢いを増していく。
『無理じゃん! ……あいつの炎おかしいよ! 魔力どんな量持ってんの!?』
「すーごい威力じゃないですか! あんな雷見たことないですよ!? めちゃ強じゃないですか、つよつよ亡霊騎士じゃないですか!?」
『ほんとに!? そう言って囮にしようと思ってないだろうな!?』
「この聖女様、嘘とかつけないタイプだとボクは思うよ」
「よっ! スペック多重事故!」
『事故って……』
「聖女様、センスが独特だから、褒めてるはずだよ。ただ、センスが独特なだけで……」
「確かにハイセンスと妹のリリーに褒められますね」
ふふ、と得意げな笑みを披露すると、亡霊騎士様が考え込んだあとうんうん頷き始めた。
『分かった。もう一回やってみる。ただ多分、我の魔力だと炎の勢いを殺すだけで、精霊を倒すことは出来ん。眼鏡の娘、爆発というのは精霊を倒せそうか』
「たぶんね」
「じゃあ! そういうことで!」
私は思いきり地面を蹴って、エヴァルトの元へと駆け出してく。彼はうつろな目でミアプラキドスへ魔法を発動し続けている。
「亡霊騎士様!」
『分かっておる……永久の力よ、王の血脈よ、我は王の資格賜わん始祖なり。我の裁きは神の審判! 雷槌よ、栄華にて轟け!』
亡霊騎士様が雷を纏った剣を大きく振りかぶり、そのまま振り下ろした。その瞬間、凄まじい勢いの雷撃が剣から発され、地面を焼き尽くしながらミアプラキドスに直撃する。爆風も激しく、呼吸すらままならない。すると一瞬だけ、炎の檻が消え去った。エヴァルトは驚いて、また魔法を発動しようとする。
「エヴァルトさん!」
私はエヴァルトが魔法を発動する前に、階段を駆け上がるとその胸へと飛び込んでいった。彼は大きく目を見開き、私を受け止める。すると、ミアプラキドスを焼いていた炎が止まった。
「人間が、調子乗りやがって……!」
焼かれていたミアプラキドスが、魔法陣を作り出した。しかしルモニエちゃんがネックレスを外し、ミアプラキドスへと投げつける。
その瞬間、激しい閃光と共に部屋が真っ白な光に包まれ、爆発音が響き渡った。
気がつけば屋根はなくなり、さんさんとした太陽の光が降り注いで、青空が広がっている。
壁は殆ど崩壊していて、骨組みしか残っていない。そして、骨組みの間に、ラングレンにかばわれているリリーが呆然とこちらを見ていた。
「何よ今の雷撃は! スフィア貴女大丈夫なの!?」
「聖女様! これは一体どういうことですか!?」
「えっとねぇ、成人男性の姿をしたミアプラキドスが襲ってきて、エヴァルトが助けてくれて、亡霊騎士様――私の精霊がルモニエちゃんと一緒にミアプラキドスをやっつけてくれたんですよ」
私が世界で一番分かりやすく説明すると、リリーはぎりっとこちらを睨んできた。
「意味がわからない」
「ぴゃっ、ヒロインぴゃっ」
「ふええの派生も今度から禁止だから」
「とっ、とりあえず、友達が出来ました。亡霊騎士様とルモニエちゃんです。じゃじゃあああん」
そう言って私は亡霊騎士様とルモニエちゃんを、リリーとラングレンに紹介しようとした。しかし、その手を私が抱きしめていたエヴァルトが、きゅっと掴む。
「スフィア……無事で良かった……。これからは、僕が君を守るから」
「プロポーズですか!?」
『犯行予告だろ! 国への!』
エヴァルトの背中をさすっていると、亡霊騎士様がアワアワし始めた。リリーが「何このジークエンドの令息……」と、新種の人間を発見した様子で怯えている。なんだろう、亡霊騎士様とリリーって似てるな。アワアワしてたり、挙動が。
「とりあえず、説明してください聖女様……アンドリア嬢がこの場にいることも含めて……」
ラングレンが周囲を見渡しながらこちらに近づいてきた。
「アンドリア?」
「ボクの家名……」
「あっルモニエちゃんのお名前かあ! いい名前ですねえ!」
突然一人知らない名前が増えたからびっくりした。そういえば精霊の授業で聞いたような……ぼんやり思い出していると、ズズズと地鳴りが響く。
「人間のくせに、うざい、うざい、うざいよ! みんな、嫌いだ……!」
いつの間にか起き上がり、じっと床を見下ろすミアプラキドスが、闇の瘴気を纏い始めた。どっと口から紫色の液体を吐き出し、足元に血溜まりのようなものを作ると、静かにそこへ身を沈めていく。
「どいつもこいつも、勝手なことばっか言いやがって――!」
そう言って、ミアプラキドスは闇の血溜まりへと姿を消した。血溜まりすらあっという間に消え、その場には何も無かったように、ただ鉄骨や骨組みだけが残っていたのだった。
◇◇◇
「――それで、聖女は旧校舎を半壊させ、亡霊王を我がジャック寮に連れてきて、ついでにルモニエ・アンドリアを転寮させたいと、そう言いたいのだな?」
「はい! そのとおりです殿下! よろしくおねがいします!」
私はジャック寮にある広間で、アンテルム王子を前に今日起きた出来事について説明をしていた。しかし、今日一緒に旧校舎にいったはずのラングレンは王子の隣に立ち、私、リリー、ルモニエちゃん、そして亡霊騎士様を見下ろしている。
「殿下、駄目に決まっているでしょう。この寮は次期王に近い者、その護衛をする者で固めているのです。それを亡霊と伯爵家の娘を住まわせるだなんて……ありえません」
「ラングレン、小姑みたいなこと言いますね」
「侮辱と受け取りますが?」
「はわわわわ」
ラングレンがこちらに鋭い視線を送ると、アンテルム王子が首を横に振った。
「まぁ、よいだろう。精霊ミアプラキドスが聖女に攻撃をしたとなれば、また話は違ってくる」
「しかし……!」
「本来魔物が相手ならば、ラングレン、お前より聖女のほうが強いだろう。だからこそ対人となった時に、お前の力が必要になってくる。だが相手は精霊だ。聖女の光の魔力が効かず、なおかつ我らが相手取っても分が悪い。此度の襲撃にルモニエ・アンドリア、そして亡霊騎士が側にいたことは幸いだろう」
アンテルム王子は、ゆっくりと靴音を立てながらルモニエちゃんと亡霊騎士様の前に立った。
「ルモニエ・アンドリア、そして亡霊騎士。二人の入寮をこのアンテルム・ウーティエの名を持って許可する」
「やったー! ルモニエちゃんと亡霊騎士様! やったぁあああ! 良かったねリリー! 皆で一緒に住めますよ!」
「私、アンドリアさんならともかくもう一人の方は……」
「何言ってるんですかリリー! 亡霊騎士様は初代ウーティエ王ですからね? 国のパパも同然ですよ!」
私の言葉に、ラングレンがはっとした顔で亡霊騎士様に目を向けた。騎士様は少し気まずそうにして、『どうも……』と頭を下げる。
「ただ初代ウーティエ王の姿を真似ただけの亡霊ではなかったのですか……」
「えーラングレンさん亡霊騎士様のこと玄人コスプレイヤーだと思ってたんですか?」
「こす……? と、ともかく、し、失礼いたしました初代ウーティエ王、この度は此度の聖女の護衛を……」
『まぁ、気にするでない。我が末裔も気付いてなかったようだしな』
「いえ、亡霊王。私は貴方が自分の祖先だということに気付いていましたよ」
アンテルム王子はかしこまりながらも、気さくに笑う。
「私は最初から貴方のことを亡霊王と呼んでいました。ただ、故人に対する敬意は最低限と努めていますので」
『エェ……こわ……ヤダな……鳶が鷹を産んだ感じなのかな……何か我の末裔コワイコワイ気味なんだけど……聖女がおかしいから……?』
「節々に私のこと褒めてきますね亡霊騎士様! ねぇリリー!」
『全然褒めてない……』
亡霊騎士様はげんなりしながら首を横に振った。そしてリリーを見て『妹さん……大変だ?』と声をかけた。
「慣れつつあります」
『ノイローゼになってるじゃん……明日は我が身ダワァ……』
「わりー、遅くなった! ただ反乱精霊のことばーっちり学園と王家に報告してきたぞー、旧校舎は元から壊す予定だったからいいってさー、でも、精霊はもう完全に指名手配扱いで――ヴェヴェヴェ!? ア!?」
ばんっと広間の扉を開いて入ってきたレティクスが、部屋に入ってきた途端足を止め目も口も大きく見開く。何かに取り憑かれたのかとラングレンや亡霊騎士様が剣の握り手に指をかけるけど、レティクスは「ハッハッハッハッ」と短い呼吸を繰り返しそのまま踵を返して走り去ってしまったのだった。
本日からKADOKAWAさまよりカドコミ(WEB・アプリ)とニコニコ静画にて本作のコミカライズがスタートします‼
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