第3話 能力の円卓~美徳編~
さっきまで教室にいたはずが、気が付くと私は真っ白な空間にいた。
目の前には大きな丸いテーブルがあって、その周りを私を合わせて9人で囲んでいた。
神前くん、日向さん、荒波さん、中緒くん、睦月くん、関部くん、芽森くん、栄さん、そして、私で9人。
当たり前のことだけど、みんな慌ててたり、困惑したりして辺りを見回している。ふと、視線を下げる。
みんなの前にそれぞれ一枚ずつ何か書かれた紙が置かれている。
「みんな、落ち着いて聞いてほしい」
「なに?なに?」
「す~、…は~、うん、落ち着いた」
「あぁ、問題ない」
「みんなは大丈夫?」
「何、かな?」
「私は大丈夫」
「…」
「え~と、う~んと、…うんっ、大丈夫!」
「みんなの前においてある紙には、僕たちに与えられた能力について書いてある。まず、僕の紙には…」
〈神前 正義〉
神の心得 一つ 謙譲の精神
いかなる者にも力を貸し、仲間を助けんとする者にこれを与えん。
【謙譲】能力:周囲に正の効果を付与する
欠点:敵も含める
「…と書いてあった。もしよかったらだけど、みんなのものも初めに僕が目を通してもいいかな?」
特に、反論する理由もないので、みんなは自分の前に置いてある紙を神前くんに差し出した。
「みんなありがとう。じゃあさっそく、え~と…うん?この二枚は他と構成が違う…」
「どうした?」
神前くんの手元を覗き込む中緒くん。
「確か、これは能力とか言っていたよね?ならば、試してみる価値はあるんじゃないかな?」
「それは…いや、そうだね、試してみよう。そうしたら…とりあえず、この紙は一旦帰すね、ありがとう」
私は手元に戻ってきた紙に目線が下がる。
〈新憧 百菜〉
神の心得 一つ 純潔の精神
いかなる物事にも惑わされず、真心を尽くさん者にこれを与えん。
【純潔】能力:対象に10割以上の正の効果を付与する
欠点:対象は一人まで
まるで、好きな人が一人ということが珍しい、みたいな書き方をしている。
ふと、周りを見ると、みんなも紙に書いてある文字を目で追っていた。
「みんな何度もごめんね。一つ試してみたいことがあるんだけど、いいかな?」
「何、をするの?」
「神前くん、ここは、僕が関部くんの質問に答えるよ。芽森くんと栄さんに能力を使ってもらいたい。目的は二つある。まずはここに書いてある能力は本物なのかを試したい。二つ目は、時間をかけずにみんなの能力についての情報を共有したい」
「いまいち分からないけど分かった、かな?」
「他に質問はないかな?それじゃあ…」
その時、突然、荒波さんが口を開いた。
「ふ、二人はオッケーしたの?」
しばらく沈黙が続く。
「そ、そうだね!それを聞かなくちゃね、焦ってて忘れてた。じゃあ、順番がおかしくなっちゃったけど、芽森くん、栄さん、協力してくれる?」
芽森くんは黙って頷く。そして、栄さんは、
「う、う、うん、い、いい…よ?いいかな?…うん!いいよ!」
「そ、それじゃあ、お願いしていいかな?栄さんは、芽森くんの能力の対象を複数にしてくれる?そして、芽森くんはみんなを対象にして、みんなの紙の内容を見て、読み上げてくれる?」
神前くんが、二人に細かい指示を出してる間に中緒くんは、その能力について、教えてくれた。
〈芽森 正義〉
神の心得 一つ 忠実の精神
いかなる者にも従い、ただ一人に仕えし者にこれを与えん。
【忠実】能力:対象の行動を再現する
〈栄 愛美〉
神の心得 一つ 慎重の精神
いかなる物事にも妥協せず、幾度となく思考を重ねし者にこれを与えん。
【慎重】能力:一時的に『対象』を『複数の対象』に置き換える
二人の能力についての説明が終わると、日向さんが、
「なるほどね~、それを組み合わせて、私たちの目線を再現するってことだね!」
「そう、その解釈で合ってるよ」
「ちなみにね~、私の能力は…」
「みんな、準備が整ったんだけど、いいかな?それじゃあ、よろしくね、芽森くん」
すると、芽森くんは、自分の目に映るものを読み上げていく。
初めに、改めて、神前くんのものが。次に、日向さんのものが読まれる。
〈日向 命〉
神の心得 一つ 慈悲の精神
いかなる者にも手を差し伸べ、万人を救わんとするものにこれを与えん。
【慈悲】能力:周囲の正の効果を倍増する
欠点:敵も含める
続いて、荒波さんのものが読み上げられる。
〈荒波 友〉
神の心得 一つ 忍耐の精神
いかなる物事をも耐え抜き、心を乱さん者にこれを与えん。
【忍耐】能力:対象の効果を消去する
欠点:正の効果も含む
次に、中緒くんの能力。
〈中緒 英智〉
神の心得 一つ 勤勉の精神
いかなる物事にも気を許さず、勉学に励まんとする者にこれを与えん。
【勤勉】能力:行動時間の値だけ正の効果を付与する
欠点:値の調整はできない
その次は、睦月くんの能力が読まれる。
〈睦月 英雄〉
神の心得 一つ 救恤の精神
いかなる者とも肩を並べ、共に分かち合わんとする者にこれを与えん。
【救恤】能力:対象の効果を味方と共有する
欠点:負の効果も含める
そして、関部くんのものが読み上げられる。
〈関部 業〉
神の心得 一つ 節制の精神
いかなる物事をも貪らず、欲に逆らわんとする者にこれを与えん。
【節制】能力:消費する魔力を半減する
欠点:効果も半減する
最後に、私と栄さんの分が読まれて、みんなの能力について、情報を共有できた。
と、思っていたのもつかの間、全てを読み終えた芽森くんが突然倒れてしまった。
すると、睦月くんはすぐに駆け寄り、
「だ、大丈夫?芽森くん!」
その様子を見て、中緒くんと神前くんは、自分たちを責めていた。
「能力の使用に対する負荷を考慮していなかった、僕の責任だ」
「いや、能力の使用を決行した僕の責任だ」
「そんなこと言ってないで、まずは心配じゃないの?」
「「あ、ああ!そうだな!」」
そう言って芽森くんのもとに駆け寄る二人。
「あ、あれ?」
その時、ここに来た時と同じような白い光に包まれた。