第1話 混沌な学級
ここは、良くも悪くも個性あふれる人が集まる教室。
個性があふれているということは、それだけ対立することも多いということだ。
さっそく、教室の前のほうが騒がしい。
「ちょっと暁星炎さん、どこ行くの?」
「帰るのよ」
何も持たず、帰ろうとしているお嬢様気取りの彼女は、暁星炎 光。
「帰るって、まだホームルームもやってないよ」
「神前くん、あなたには関係ないじゃない」
そんな彼女を呼び止める彼は、このクラスの学級委員を務める神前 正義。
暁星炎さんは、自分の意見は必ず通ると思っている。端的に言えばわがままだ。
それに対して、神前くんは、自分のことは後回しにして、他人を優先する紳士だ。
そんな彼だから、自分の意見を押し通そうとする彼女とは対立してしまい、毎日一度は言い争いが起きている。
一方、教室の後ろのほうからも、言い争う声がしている。
「ねぇ、荒波さん、どういうこと?なんで昨日、あいつと一緒にいたの?私、あいつのことが好きだって、あんたに言っておいたはずよね?忘れたなんて言わせないわよ」
声を荒げてる彼女は、深海 粦。
「ご…めんな…さい」
「どういうことか聞いてるの」
「あ…の…、一緒に…、帰ろうって言われて…、それで…」
「私の気持ちを知っておいて、一緒に帰ったの?」
「うっ…、ごめんなさい」
「さっきから、ごめんなさいごめんなさいって…」
そんな深海さんを相手に縮こまってる彼女は、荒波 友。
二人の様子から察するに、恋愛がらみの話のようだ。しばらく収まりそうにない。
すると、そんな教室にようやく先生が教室に入ってきた。
このクラスの担任をしている夜鳥 麻巳先生だ。
先生が教室に入ると同時に、言い争いがぱっと止む。
暁星炎さんたちも含め、全員が席に座り、教室が静まり返った。
夜鳥先生に怖いという印象があるわけではない。むしろ、優しすぎるぐらいだ。
それなのに不思議と、先生を前にすると生徒たちはみんなの姿勢がよくなる。
「は~い、じゃあ、今日の朝のホームルームを始めま~す、今日たくさんプリントがあるから、芽森くん、配ってもらえる?」
先生の指示に従いプリントを配る彼は、芽森 正義。
芽森くんは、なぜかいつも先生の手伝いをさせられているのだが、嫌がっている様子は見受けられない。
プリントの配布や連絡が済み、ホームルームが終わり、次の授業の準備を始める。
またしても、騒動が起きている。
「荒波さん、筆箱かりていい?いいよね、借りるよ」
「え…、あ…」
荒波さんの返事も聞かずに一方的に筆箱を持っていく彼は、烏鴉 満。
「ちょっと、烏鴉くん、荒波さんが何も言ってないのに持っていったらダメだよ」
「ったく、うるせぇな、めんどくせぇな、じゃあ睦月、お前のでいいや、お前の借りるわ」
「烏鴉くん、人の話を…」
烏鴉くんの行為を注意し、代わりに筆箱を盗られた彼は、睦月 英雄。
睦月くんは、烏鴉くんの強奪行為を毎度注意しているのだが、標的が自分に移ってしまい、いつも損ばかりしている。
「睦月くん、私の代わりにごめんね」
「いやいや、いつものことだから、それより荒波さんが無事なら、いいよ」
それから、10分ほど経ち、一時限目の授業が始まった。
一時限目の担当は夜鳥先生だった。
「これから、みんなをあてていくから、問題の答えを教えてね。え~と、まず一問目は~、進堂くん、お願い」
「…」
あてられたことに気づかず、ぼーとしている彼は、進堂 友閒。
「進堂くん、あてられてるよ、早く答えないと」
「…あ?、あぁ、分かってるよ、今、考えてたんだよ、、あー、もう、あと少しでわかりそうだったのに、邪魔すんなよ」
「そんな、気づいてなさそうだったから、教えてあげたのに…」
(「やっべ、全然わかんね」)
「おいっ」
「な、なに?」
「なに?、じゃねぇんだよ、邪魔したんだから、答え教えろよ」
理不尽に進堂くんに怒られている彼女は、日向 命。
その横着な態度に周りがざわつく。一方、進堂くんはというと、どこか満足気であった。
そのあと、次々と生徒があてられ、一時限目が終わった。
それから、二限目、三限目、四限目と授業が行われていき、昼食の時間になった。
「高山さん、相変わらず大きいお弁当箱ね、よくそんなに入るね?」
「これでも全然足りないよ」
見上げるほど、とは言いすぎだが、何段にも積み重なった弁当をあっという間に平らげる彼女は、高山 薫。
クラスの中でも細身なほうなのに、どこに入るというのだろう。
「ダメだ、全然足りない、だれか分けてくれない? …あ、関部く~ん、まだ全然食べてないじゃん、もらっていい?」
「ダメだよ、お母さんがせっかく作ってくれたんだから」
「そんなこと言わないでさ、一口だけ、いや、一口じゃ足りない、二口、いやいや、三口…」
「あー、もうわかったよ、好きなだけ食べればいいじゃん」
「マジ?じゃあ、いっただっきまーす」
(「またやってしまった…」)
高山さんに、残りの弁当をすべて取られてしまった彼は、関部 業。
高山さんの食欲に限界はない。お腹がいっぱいになった、というところも見たことがない。
そのすぐ近くで、頭を抱えてる女子がいた。
「ごはんから食べようかな、野菜からかな、それともお魚さん?う~ん…」
何事も慎重に考えてしまう彼女は、栄 愛美。
慎重とは言ったが、彼女の慎重さは度が過ぎている。
(キーンコーンカーンコーン)
「あ~、また食べ損なった…、休み時間にでも食べよ、いや、放課後かな…」
あのように、いつも考えがまとまらず、妥協もしないため、結局答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく。
ランチタイムが終わり、昼休みに入る。
また、女子二人が言い争っている。今度は、䍧鴕さんと新憧さんだ。
「䍧鴕さん、それ、携帯だよね?学校に持ってきちゃダメだよ」
「知ってるよ、でもね、私には必要なの、だって、早くカレと連絡とれるようにしなくちゃいけないの」
「それでも、校則は守らないと」
「私ね、い~ぱい彼氏いるんだ、この服だって、このアクセサリーだってその彼氏たちから買ってもらったの、連絡遅れたら、その関係も終わっちゃうかもしれないの、分かる?」
複数の男と付き合ってると暴露した彼女は、䍧鴕 滝。
「そういう付き合いだって、いけないと思うな」
「私にやきもち焼いてるの?だから、私に厳しくしてるの?そんな堅苦しい性格だから彼氏の二人や三人もできないのよ」
「彼氏は一人がいい。携帯のことはもういいから、時間だし、席に戻るね」
彼氏は一人がいいと、一途な彼女は、新憧 百菜。
純粋な心を持つ新憧さんと付き合いたいという男もいれば、何人もの彼氏のうちの一人でもいいからと、䍧鴕さんを選ぼうとする男もいる。
昼休みも終わり、午後の授業が始まる。
この時間の授業は、みんな眠くなる。しかし、時間帯に関係なく眠り耽っている男がいる。
「あいつ、今日も一日中寝てるよな。」
「それな、逆に疲れそう」
そんな話をされても、起きる気配のないコイツは、夢見 大海。
「君たち、話してないで授業に集中しなよ」
「あ、うん、ごめん、邪魔して」
「わかってるならいい。」
その横で、黙々とノートをとる真面目な彼は、中緒 英智。
寝たきりのコイツよりはマシだが、中緒くんの度を越した真面目さにも付き合いづらさがある。
すると、突然扉が開いた。
「ちょっと、授業中失礼しまーす。夢見くん、いますか?」
夜鳥先生だった。
先生は、教室に入るなり、コイツのもとに駆け寄ってきた。
「夢見くん、起きて、夢見 大河くん、起きて」
(「先生、コイツが起きるわけ…」)
「先生?おはようございま~す。でも、ボク、大河じゃないよ、大海だよ?」
(「マズい、おい、早く代われよ、くそっ」)
なんとなく、察していただけただろうか、俺の名前は、夢見 大河。
俺は二重人格者で、大海は俺のもう一つの人格だ。
「夢見くん、寝ぼけてるの?それよりも、また病室を抜け出して、学校に来たの?ダメじゃない、今すぐ病院に戻ろう? お母さんが心配してたよ。」
周りはみんな、俺が二重人格者だということを知らない。だから、このままだと大変なことになる。
先生が"俺たち"を支えながら、教室を出ようとする。
するとその時、辺りが真っ白になった…。