195 無限螺旋電磁巨大砲 《エルベ・ベルヘム》
場面はスー＆レナに戻ります。
背後で何かがぶつかり合う音が響いている。
仲間たちと守護闘士が戦いを始めたのだ。
「一気に前に進むよ、スー」
まかせておけレナ。
俺はスライムボディを震わせて跳躍速度を上げる。
レナはしっかりと前を向いている。
先に行けと言って自分のことを信頼してくれた皆を信じているからだ。
レナ、念のために確認しておくぞ。
俺たちは招かれざる者を倒す。いいな？
「うん。分かってる。それが私の仕事。自由騎士として求められている結果。誰もがそう願ってるし、先に行かせてくれたミイちゃん達のためにもオルデさんを倒すわ」
オルデさん。か。
口では正しいことを言っているが、心の奥底ではまだモヤモヤを抱えている証拠だ。
本音と建て前を使い分けられる大人に成長したのはよいことだが、俺の前では使い分ける必要はない。
俺とレナはお互いにおおよその考えを感じ取ることができる。
実際、口ではそう言ったレナからは、まだ割り切れていないという思いが伝わってくる。
レナが言うようにオルデを倒すのが使命。そこに感傷を入れ込んではいけない。
俺があえてオルデを倒すことを確認したのはそういう理由だ。
でもご存じのとおり俺はレナに超甘い。
購買でアンパンを買ってこいと言われたら即ダッシュして買ってくるし、なんか面白いことをして欲しいと言われたらスライムボディを使って腹芸でもなんでもやる。
というのは俺の心構えであって、実際レナはそんなことを言うはずもない。
自由騎士になってからのレナは皆の手本になろうとよい子の模範生みたいな生き方をしており、あまり自分の欲望を表に出すことはなくなった。
まあ大人になった、ということなのだが、それはそれで寂しい。
俺と二人の時はなんでも言って欲しいし、レナが望むことはなんでも叶えてあげたい。
だからオルデと話をしたいというのならそれを叶えてあげたい。
もちろんレナの安全が最優先だ。
守護闘士との会話を打ち切ったのもそのせいだ。レナの願いはかなえてあげたいが、レナの無事が大切という俺の優先順位も大切なのだ。
ここまでの話はレナには内緒だ。俺の頭の中での話だからな。
レナ、やるならちょっとだけだぞ。
オルデと話をしたいんだろ？
「うん。やっぱりスーにはお見通しなのね」
何年レナのグロリアをやってると思ってるんだ。レナが小さな、走ったら転びそうなころから一緒なんだぞ。いやぁあの頃のレナはかわいかったな。一番最初に俺に会った時なんかギャン泣きしたもんな。
「もう！ 恥ずかしいから忘れてよ！」
悪い悪い。でもそんなころからレナを見続けてきたんだ。
レナの考えは手に取るようにわかるよ。
「レナもスーの考えていること分かるよ。レナのために無茶をしようとしてるのだって」
俺も考えが顔に出やすいたちだからなぁ。って俺に顔はないけど。
とと、冗談はそれくらいにして。
まずはオルデと話す。それで解決するならそれでよし。だめなら即戦いに切り替える。
いいな？
「うん！ スーのこと大好きよ！」
いやもう、その笑顔。俺をだめにするやつだから。
はぁ～、スライムやっててよかったなぁ。
などと意思確認をしている間にも眼前の紫の塊が徐々に大きく、迫るように巨大になっていき、そして――
俺達はとうとう招かれざる者までたどり着いた。
ルーナシア王国に災厄をもたらすモノ。
どうして急に現れたのか。
どこへ行こうというのか。
そもそもグロリアなのか。
グロリアだとしたら契約者がいるのか。
どうやって多くのグロリア達を操っているのか。
なぜグロリア達は異形になるのか。
グロリア達を凶暴化させた理由は何か。
いったい何が目的なのか……。
何もわかってはいない。
「オルデさん！ 私はルーナシア王国自由騎士レナ！ あなたと話がしたいの！」
目の前に山のようにそびえたつ紫の流動体。
それに向かってレナは呼びかける。
意思疎通ができるのだろうか。
守護闘士たちは意思疎通していたようだが、そもそも話すことができるのか？
数秒の無言。テレビなら放送事故といわれても仕方がない時間が過ぎ去る。
その間もゴポゴポと紫の体は上に下に右に左に、内からあふれ出るように広がっていく。
「ねえ、教えて！ どうしてオルデさんはこんな事するの？ グロリアたちを凶暴にして何をするつもりなの？」
紫色の体は何も答えない。
それどころか一層大きくなって……。
って、レナ、下がるぞ！
俺は勢いよく後ろに跳ね飛んだ。
俺たちとオルデの距離がすぐそこまで、触れることができるくらいまで近づいていたのだ。
あまりに巨大すぎて間近では気づきにくいのだが、オルデは前進し続けているのだ。
その速さはおおよそ時速5km。人が早歩きするほどの速度だ。
俺は後方に着地して、改めてオルデを見る。
早歩きする速度で山が向かってくるのだ。圧倒的な威圧感。
俺はさらに距離を取るためにぴょんぴょんぴょんと、バックステップを繰り返す。
これ……オルデの速度上がってないか？
「うん。だんだんと速くなってる気がする」
気のせいじゃなかった。おそらくは俺たちを倒そうと、その体に取り込もうとしているのだろう。あの体に触れるのはまずそうだ。そもそも見た目が毒々しい。それに触れたら最後、溶解の上に消化されて栄養にされそうな気がする。
レナ、呼びかけは終わりだ。これはもう戦うしかない。
「うん……分かった。でも……レナ、諦めないよ？」
諦めない？
「オルデさん！ 話を聞いてくれないのなら、話を聞いてくれないのなら……戦うから！ 戦って、レナたちが勝ったら教えてもらうからね！」
なるほどな。戦ったからといって対話ができなくなるわけじゃない。戦った後に話をする選択肢もありだ。
行くぞレナ！
オルデをぼっこぼこにしてすいませんって言ってくるまで叩きのめしてやろう！
俺は気合を入れるとオルデからそれなりの距離をとる。
大技の準備に入るためだ。
レナ、このまま一気に決めるぞ。あれを使うから外に出ていてくれ。ものすごい威力だから発動したら地面に伏せてくれよ。
「うん、やっちゃえ、スー！」
俺の体から出たレナは、腕を上に上げてぴょんと小さく跳びはねる。
それに合わせて後ろに束ねた金色の髪が小さく揺れた。
この時のために開戦時からずっと輝力を増幅してきた。
ライトニングライガーを吹っ飛ばした時も、粘着弾を撃った時も、狂暴化グロリアが落とし穴に落ちた時も、エアマスターの攻撃で本陣が壊滅した時も、ク・ダンが予言した時も、みんなが助けに来てくれた時も、ずっと。
ぐるぐるぐるぐると輝力をスライム細胞一つ一つで回しながら。
今から行うのは、これまで細胞一つ一つで増幅してきた輝力を一つにまとめて塊とし、体全体で回転させて撃ち出す技。
その名も、エルベ・ベルヘム。命名はレナで、俺も気に入っている。
俺は体を巨大化させるとドーナツ型へ姿を変え、これまで高めた高出力の輝力を一か所に集めて円形となったドーナツ型の中を高速回転させる。
水車での発電量よりも水力発電所の発電量のほうが大きいように、規模が大きくなれば得られるエネルギーも大きくなる。
巨大な輝力増幅装置となった俺の中を、凄まじい輝力が駆け巡る。
そして撃ち出すのだ。中心部の空洞へとすべての輝力を集めて。
スライム細胞がチリチリと焼け焦げる感覚がする。
だが、それがどうした。俺は今自分の力だけでここに立っているわけじゃない。
志半ばで倒れた兵士、祖国を思う騎士、俺を信じて送り出してくれたレナの友人たち。
皆の想いでここにいるのだ。
俺の体は俺だけのものじゃない！
この一撃で、この一撃ですべてを終わらせる！
くらえっ！！ エルベ・ベルヘムッ！！！！
お読みいただきありがとうございます。
ちなみに本話タイトルはスーさんの技名に対する葛藤の名残です。
また、昨日2022/02/22にヤダスラは二周年を迎えました。
皆様に応援いただき、累計65万PV、総合評価2,800ptを超えることができました。
どうもありがとうございます。
本編はクライマックスに向けて突き進んでおりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
