188 ここからが俺達のターンだ!
本話は勢いよく一気に爽快にお読みください!
「レナー! 助けに来たわよー!」
「ブライスー! 生きてっかー!」
聞き覚えのある声が遠くからする。あまりに遠すぎてこの声はレナには届いていないだろう。
狂暴化グロリアと戦う一団の先頭にいる声の主。
俺はその姿を視覚内に捉えた。
その正体は、レナの幼馴染ミイちゃんと王立学校のクラスメイトのトルネちゃんだった。
レナ、レナ! ミイちゃんとトルネちゃんが助けに来てくれたぞ!
「うん、見えてる……。見えてるよ……!」
レナは口元に手を当ててフルフルと小さく震えている。
ミイちゃんことミーリス・バルツ。ルーナシア八大武家の一つバルツ家の当主であり、現在は八大武家の筆頭。王立学校で騎士資格を取得し、そのまま家に戻り家督を継いだのだ。
ミイちゃんが騎乗している七色の羽をもつ鳥グロリア。あれはティッピーだ。DランクのデュークモアからBランクのセブンドアに進化している。
もう一人のトルネちゃん。彼女も八大武家の一つカラカール家の当主になっており、ミイちゃんを支えている。第一王女守護騎士隊選抜試験の時に手を焼いたスマッシュゴリラのゲリとゲラ。今はBランクのジャグリングゴリラに進化していて――
「みて、スー。トルネちゃんがあんなに高く」
ゲリとゲラはまるでお手玉をするかのように、トルネちゃんを空高くに放り投げている。
ああやって高所から敵を確認することで相手の弱い部分を探す事ができるのだ。
統一された鉢巻を身に着けた一団。ミイちゃんとトルネちゃんの指揮により、契約者もグロリアも一丸となって敵を打ち倒していく。
ありがたい。八大武家の一団が参戦してくれるなんて。
「レナ―! 無事かー! おのれこの有象無象ども! レナに指一本でも触れて見ろ、生かして帰さんぞぉぉぉぉぉぉ!」
南から!
あ、あれは……。
遥か南、大空を羽ばたく一体のグロリア。あれはマースピーガル、いや、進化系のクヴォタクーンだ。
もしや……。
ぐんぐんとそのグロリアの姿が大きくなってきて……こちらへと近づいてくる。
そしてそこから何かが飛び降り、いや、落下した。
僅かな間も置かずそれは地面と接触し、その際かなり大きな音がした。
地面に大穴が空いていてもおかしくないところだが……。
落下した何かはむくりと起き上がると――
「うぉぉぉぉぉ、れなーぁぁぁ! パパだよ、パパが助けにきたよぉぉぉぉぉ!」
全身鎧を身に着けた大人が大声を上げながら狂暴化グロリアへ突撃した。
レナ! パパだ。マーカスパパだ!
「お、お父様ぁ!?」
レナは目を凝らして眩しく光り輝く鎧の主を見る。
勇ましく切り込んだものの、グロリアと人間の力の差は圧倒的だ。ボコボコに殴られていた所をクヴォタクーンから降りて来たバーナちゃんとメイド隊に救出されていた。
ま、まあ大丈夫だろ。俺達が作ったパパへの誕生日プレゼントのあの鎧はドラゴンの吐く炎にも耐えられる。それに、ブライス家のメイドさん達は優秀だ。蘇生までやってのけてしまうんじゃないかと思うくらいにな。
「ちょっと、父さん! 一緒にレナを助けに行く約束だったじゃないか! 抜け駆けするなんてずるいよ!」
ブライス家飛行隊のさらに後方からやって来た一団の先頭。
棍棒のように太い一本の角を頭に備えたカブトムシのようなグロリア、Cランクのノルドツーキンに乗っているのは――
「レナぁぁぁぁぁぁぁ! 兄さんだよ、兄さんが助けにきたよぉぉぉぉぉ!」
ジョシュア・ブライス。ブライス家の次期当主でレナのお兄ちゃん。
つまりあの砂煙はブライス家の私兵団というわけか。
「お兄様ったら、恥ずかしいわ……」
ちなみにブライス家登場の辺りから、俺がスライムボディを変化させて彼らの声を拾って増幅してレナに届けている。
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ! 見たことも無いグロリアが山ほど! ひーふーみー! ふひひひひ! たくさん! これは世紀の大発見!」
北!
「お待ちください、カミャム支部長! 先行しすぎると危険です! せっかくイングヴァイト軍が一緒に来てるんです。我々、世界グロリアグロリア研究者連合イングヴァイト支部も一体となってですね――」
「おほぉぉぉぉ! 見てください、あれ、あれ! デモンズロッドですよ! あやや、あのへんなグロリアはなんですか? 顔が3つあります! ツインヘッドの変種ですかぁぁぁぁ?」
うん。なんだか知ってる人だ。
昔々、俺がリゼルに飼われていた時、秘境ダグラード山脈に助けに行ったのがあの変人グロリア研究者、カミャム・ニルールだ。
人間としては変わり種の部類だが、グロリア研究者としては一流で。
そうか……イングヴァイトで世界グロリア研究者連盟の支部長になっていたのか。
それと、彼女達の後ろに見えるのはイングヴァイト軍か。招かれざる者の被害は彼の国に出ているから派兵も道理だな。
その一団から数機の飛行グロリアこちらに近づいてくる。
おそらくルーナシア国内へ軍を入れた事への外交的な説明がなされるのだろう。
ん? ブライス家一団の後ろ。空にまだ何かいる。
あの日本の昔話に登場するような緑色の東洋龍のグロリアはAランクのギランダラス!
「――、――!」
その上に乗っている女の子が何かをしゃべっているが、ちょっと声が小さくて拾いきれなかった。
「サイリちゃん!」
俺のスライムボディ望遠レンズを通した姿を見てレナは声を弾ませた。
レナにもっと笑顔になってもらいたい。
俺はサイリちゃんの声だけを拾うためにスライムボディの形状を適した形に変えた。
もはや俺の体ってなんでもできそうな感じだ。
「れ、れなちゃーん! 大変だって聞いたから、ちょっとでも力になれたらいいなって、そうおもって!」
サイリちゃん。サイリ・カーバライトちゃんはレナの友人だ。一緒に5つの祠を探し出してイヴァルナスを復活させたのはいい思い出だ。
そうか、あのギランダラスはギラルドンか。
サイリちゃんは秋田犬に秋田犬っていう名前を付ける様に、ギラルドンにギラルドンという名前を付けていた。としたら、今はどうなんだ? ギラルドンって呼んでいるのかギランダラスって呼んでいるのか……後で聞いてみよう。
おっと、話しが逸れたけど、サイリちゃんとギランダラスの近くに人が飛んでるようにみえる。
もしかしてあれは、イーバさん!? いや、あの天女のような姿は彼女の正体であるイヴァルナスか。
としたらその下をひた走っているあの一団は……。
「うぉぉぉぉぉぉ、イヴァルナス様と巫女様につづけぇぇぇ! 我々イヴァルナス祭り運営委員会の力を見せつけて、必ずやイヴァルナス祭りを国の祭りにするんだぁぁぁぁぁ!」
ああ、納得。
おっと、まだ南の方に何かいるぞ。
いや、何かいるっていう規模じゃない! 俺達と、北のイングヴァイト軍と同じ規模の何か。
「レナちゃーん! 助けに決ましたよーっ!」
「ほう、あれが自由騎士レナ。我が妻の友人か。粗相のないようにしなくてはな」
「そうでしたわ、あなたはレナちゃんに会うのは初めてでしたわね。国が違うとおいそれと会えませんし」
「そう言う事だ。お初お目にかかる、自由騎士レナ殿! 我が妻、クラナノの要請によって、我、サウルカウル王国第2皇子、シュタルク・キブン・サウルカウルとサウルカウル軍が助太刀する!」
俺のスライムボディを通す必要のないほどの大声がここまで響いてきた。
「ナノちゃん! ……とその夫さん!」
驚いたな。
ナノちゃんことクラナノ・エディン。ミイちゃんと同じくレナの幼馴染であり親友だ。王立学校卒業後、国の文官に登用されて外交職について、ルーナシアの南に位置する国、サウルカウルへ外交官として赴任していた。
風の便りでは皇子様からアプローチを受けてるって聞いていたけど、まさかもう結婚していたなんて。
「ハハハ、夫さんとはまた。我の事はシュティと呼んでくれてかまわない。妻も愛をこめてそう呼んでくれる。妻の友人のあなたも同じでかまわない」
「ちょっと、シュティ! 今先ほど粗相のないようにってご自身で言っておられましたよね?」
こちらの声が聞こえている!?
こちらの姿も見えているようだし、一体なんのマジックだ?
「レナ様! 直上!」
なにっ!
援軍たちに気を取られている隙に、エルブンコンドルがその鋭いくちばしをぎらつかせて俺達の真上から迫っていた。
――どうんっ
と思ったらなんか急に吹っ飛んでいった。
「これは、思ったより大事だな」
声が聞こえたかと思うと、ふわりと神輿の上に降り立ったのは一人の少年。
銀色の髪の毛と切れ長の目をした10歳くらいの美少年だ。
どちら様?
「ちょ、ちょっと、ヴォヴォー! 置いてかないでよー!」
後ろから声が聞こえる。
「相変わらずお前は。その姿は動きがのろくなるっていつも言ってるだろ」
そう言うとその少年は目をきらりと光らせる。
すると、後方の声の主は光に包まれてふわふわと浮き、そのままゆっくりと神輿の上に降り立った。
「リリアンさん!」
声の主。羽飾りのついた青色のハットを被り、目元だけを隠す青い仮面を着けている女性。
久方ぶりに見るその姿にレナはそう呼びかけた。
「そう、この姿は謎の美少女仮面リリアン! そしてそのちんちくりんな子はヴォヴォ!」
「私の存在は極秘だというに、こやつがどうしてもと言うから助けに来てやったぞ」
やれやれ、と肩をすくめる美少年。
ちんちくりんだと言われても気にもかけないところに齢何百年もの器量を感じる。
「リリアンさん、ヴォヴォ様、ありがとうございます」
頭を下げてしっかりと礼をするレナ。
リリアンの正体は第3王子のグラウ様だしな。
そしてルーナシア王国の秘匿グロリア、ナヴィガトリアのヴォヴォ様が助けに来てくれたのなら100人力だ!
招かれざる者を中心に、西にはミイちゃんトルネちゃんの率いる八大武家。北にはカミャムとイングヴァイト軍。南にはブライス家一行にサイリちゃんとイヴァルナス祭り好き、そしてナノちゃんと旦那さんのサウルカウル軍。
ここ、レナのそばにはジミー君もリリアンもいる。
みんなレナを助けに来てくれた。
一番大変な時に助けてくれるのが友達ってやつだ。ありがたいなレナ。
「うん、うんっ!」
弾むような声のレナ。
その声を聞くだけで俺も胸が満たされるような感じがする。胸と言うか心臓は俺には無いんだけれどな。
さて、これで戦況は五分以上に持ち直せる。
おや……?
唯一招かれざる者を包囲していない東側。
俺の視界が、そこで動く物体を捕えた。
おやおやぁ?
「ちっ、えらい事になってるじゃないか。せっかくこっそりと山脈の下にトンネルを掘ってようやく開通だ、って言う所にさ」
マントにボンデージスーツという相変わらずハレンチな格好をしている女性。彼女の口の動きを読んで言葉を拾う。
彼女はナフコッド・シベラ。東にそびえ立つダグラード山脈を挟んだ向かい側、軍事国家ガルガド帝国の軍師。
それと彼女の後ろ、穴の中から続々と現れるているのは……ガルガド帝国軍か。
「なんだい、イングヴァイトにサウルカウルの連中もいるじゃないか。この非常時にルーナシアに恩を売っておこうっていう魂胆かい。しゃくだねぇ。おい、お前ら! 我々ガルガド帝国も参戦するぞ。あとでたっぷりとルーナシアから見返りをいただくよ! イングヴァイトやサウルカウルの連中に後れを取るんじゃないよ!」
「へい、姉さん!」
と言う事が行われているようだぞレナ。
「いいじゃない。昨日の敵は今日の友よ!」
レナは大物だな。
まあめんどくさいことはこれが終わってから考えよう。
これで東西南北、すべてを包囲した。
ここからが俺達のターンだ!




