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122 浮遊大陸の秘密 その2

本日は2話分公開しています。こちらはその2話目となります。

1話目を読んでいない方はこの上の「前へ」から1話目にどうぞ!


 やはりはぐれグロリアか。

 俺の様に召喚されて誰かと契約しているグロリアではなく、瘴気に惹かれるようにこの世に顕現したグロリアだ。

 だけどこの集落の人がすべて瘴気で顕現したグロリアではないだろう。おそらくは瘴気に惹かれて顕現した第1世代のはぐれグロリアの子孫たち。それが彼女達の正体に違いない。


「この地、クシャーナについてですが。代々司祭継承者に引き継がれている言い伝えにはこうあります。

 はるか昔、遠い昔の我々の祖先は迫害され戦火に巻き込まれていました。戦火から逃れるために遠くへ遠くへと移動していた祖先たちは道中に一人また一人と倒れていったそうです。なんとかこの地に逃げ込んだ祖先たちでしたが、この地も制圧者に取り囲まれ、もはや死を待つばかりだったそうです。

 そんな時テラマギオ様が現れてこの地を空へと浮かせ、祖先たちはこの地に宿る輝力を用いて強大な障壁を創り出し難を逃れました。それ以来我々はテラマギオ様を(あが)め、この地を守って来ました」


「そのテラマギオ様とやらは何者なんだ? これほど大きなものを空に浮かせるなんて人間業じゃない。Sランクのグロリアか?」


 新種のグロリアかと期待したのか、リゼルが問いかける。


「テラマギオ様が何者なのかは分かりません。その後テラマギオ様を見た者は誰もいないのです。ですが我々をお救いくださったのは紛れもない事実……と伝わっています」


 神カンペでもテラマギオというグロリアの名前を見たことはない。だけど――


 『守護君(しゅごくん)テラマギオン:ダネスの地を守護する守護君。天上の世界から輝力を収集しそれを増幅して瘴気を払うことにより安定と平穏をもたらす』


 レナが王立学校に通っている時に守護君イヴァルナスをよみがえらせた事は忘れちゃいない。その際に閲覧権限を得た守護君ページ。その中にあったのだ。


 マフバマさんは長い年月と言っていた。長い長い伝承の途中でテラマギオンから一文字落ちてテラマギオになったのだろう。

 守護君であるならこれほどの物を浮かべる力をもっていても納得がいく。


「それで? 強大な障壁とやらがあるのにどうしてガルガド帝国のやつらに襲われているんだ? テラマギオ様とやらの力が無くなったのか?」


 せっかちだなウルガー。もう少しマフバマさんの話をだな……。

 まあ気持ちは分かる。俺だって喋れたら色々聞きたい。


「先ほどお話しましたとおり、このクシャーナは大昔から天空に浮遊しています。それでも皆様がクシャーナの存在に気が付かなかったのは我々が張っている秘匿結界によるものでした。ですが先日、その結界が維持できなくなりまして……その結果は皆様のご存じのとおりです」


「秘匿結界……」


「はい。このクシャーナは二重の結界に守られています。一つがこのクシャーナを外界から隔離するための防御結界。もう一つが防御結界のさらに外側でクシャーナ全体を包み秘匿する結界です。それらの維持はこの地に湧き出る輝力を集めてエネルギーとしているのですが、結界の維持に必要なエネルギーの供給が追い付かなくなったのです」


「必要なエネルギーが増えたのか?」


「いえ……。お恥ずかしながら、エネルギー供給を行う者の一人が役目を放棄して逃げ出したことで、これまで保たれていた供給量が足りなくなったのです。結界が消えるまでエネルギーの残量に気づかなかったのは私の落ち度です」


 そう言うとマフバマさんは目を伏せた。


「他の者が代わりにエネルギーを足せばいいのでは?」


「おっしゃるとおりです。現在、皆でエネルギーの供給を行っていますが……しかしながら他の者はそれには長けておりません。

 再度結界を張る際に必要なエネルギーは莫大なもの。私の見立てではエネルギーが貯まるまで2日か3日はかかるでしょう。それでも張れるのは防御結界のみ。このクシャーナを再び秘匿するにはさらに時間がかかるでしょう」


「二、三日か……」


「あの子が逃げ出して少なくとも2日が立っています。あの子さえいてくれれば……」


「見た所この島、いやクシャーナだったか、かなりの広さがあるようだ。捜索の成果は上がっていないってことか」


「いえ、あの子はクシャーナの中にはいません。地上にいるとみています」


「地上とは厄介じゃな。このクシャーナはルーナシア、イングヴァイト、ガルガドの上をぐるぐると回っておる。連れ戻そうにもいつ逃げたのか分からんことにはどの国にいるのかもわからん」


「……師匠はクシャーナについて詳しいようですが、もしかして以前からここの事を知っておられたのですか?」


「え、ええ。ナバラ様には時々必要な物資を融通してもらったりしていますので……」


「わしの事よりもエネルギーのことじゃ。貯まり切るまでにガルガド帝国はまた襲ってくるじゃろう。どうじゃ、三人とも力を貸してくれぬか?」


「手を貸すのはいいが、二、三日で本当に何とかなるのか?」


「問題ない。防御結界さえ張りなおすことが出来れば帝国なんぞでは手出しできなくなる。わしも間近で見たことがあるが、Sランクのカラミティドラゴンですら防ぐようなしろものじゃからな」


 カラミティドラゴンと言えば天災レベルのグロリアだぞ。咆哮だけで山を消し飛ばしたり、足踏み一発で巨大地震を引き起こすらしい。天空に生息するとされているが、実在したのか。


「私からもお願いします! 防御結界をはるまでで結構です。3日、いや2日だけでもお願いします」


 必死な様子で頭を下げるマフバマさん。


「もちろんお助けします! 騎士は困っている人を救うのが使命ですから! そうですよねウルガー様!」


「あ、ああ……」


 あのウルガーの目は若くて眩しいものを見ている目だな。


「ですがウルガー様、そんなに家を空けるとおいてきたリコッタちゃんが心配です」


「リコッタ? 今リコッタと言いましたか?」


「え? はい」


「先ほどお伝えしました役目を捨てて逃げ出した者こそ、そのリコッタなのです」


お読みいただきありがとうございます。

ようやくお話が繋がってきた感じです。リコッタの存在を忘れておられた読者様はぜひここで思い出してください。大事なキーパーソンなんです。

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