103 今のが全力と言う訳ではないでしょう!(お怒り
「スー!! 大丈夫!? 再生できる?」
……レナの声が遠くに聞こえる。
爆散して飛び散らなかったもののダメージは甚大だ。聴覚は不具合を起こし知覚も砂嵐のようになっていて周りの様子が掴めない。もちろんスライム細胞の大半がズタズタで体を動かすこともできない。
こんな状態から再生するには時間必要で……その状態をクリングリンさんが見逃すはずはない。
だけど回復しなくては動けもせず話にもならない。
たとえクリングリンさんがとどめを差しにこようとも最後の最後まであきらめてはいけない。
……そう思っていたが、何故か追撃は来なかった。
一体どういうことなんだって思ったけど、理由はともかくこの隙に回復しきらなくてはと思い、考えるのは止めて必死に再生した。
なんとか動けるくらいになったところでクリングリンさんが口を開いた。
「どういうことですの?」
なにがだ?
「どういうことですの、と言っているのです」
「どういう事って?」
俺はもちろんレナにもクリングリンさんがが何を言っているのかは分からない。
二人して疑問符を浮かべていると、クリングリンさんはドンッとその足で地面を思いっきり踏んだ。
何やらお怒りのようだ。
「今のが全力と言う訳ではないでしょう! 早く全力を出しなさい。それとも全力を出さずにお負けになるつもりなのかしら?」
全力って言ってもな。今の俺はかなり全力を出している。通常状態ではそれこそ100%の力を出しているのだが……。
レナもそれを分かっているので無言だ。
「わたくしが欲しいのは全力のあなたと戦って勝ちとる勝利ですわ。分かっているんですわよ、あなたが今力を抑えて戦っているのは。今だけじゃありませんわ。あなたはいつもそうでしたわ!」
クリングリンさんがこんなに感情をあらわにするのは珍しい。
いつもそれなりに感情の起伏は激しいけど、ここまでのは初めてだ。相当怒っていらっしゃる。
「他の方はまったく気づいていないようでしたが、あなたは同じようにクラスメイトと話していながら、どこか違う所から、まるで高みから見下ろしているような、そんな風に感じました。わたくしはそれが悔しかった。
いったいどんな視点で話をしているのだろうか、どんな想いを持っているのだろうか。わたくしには理解が及びませんでした。
ですが、なんらかの理由でわたくしや皆があなたにそうさせているのだろうと言う事は感じていて……自分がそうさせてしまっていると言う事に自分自身が許せませんでしたの。わたくしはこの子と対等ではない。対等に過ごして上げれてもいないのだと。本当に、自分の不甲斐なさに怒りを覚えましたわ。
わたくしは高みに登るために特訓を行いました。このパーフェクトなわたくしをさらに高みに上げるにはどうしたらいいのか。これまで以上に研鑽して、あなたがいる高みはどこにあるのか……と日々修行に励みました。
それでも残念ながらあなたのいる高みがどこかは分かりませんでしたの。
ですがグロリアバトルであればあなたのいる場所が分かるのではないかと、拳と拳を交えれば掴めるのではないかと……そういう思いで今この場所に立っていますの。
わたくしは今日までの特訓であなたのいる高み以上に登っていると自負していますわ。あなたと正面からぶつかっても打ち勝てる自信がありますのよ。
ですが、あなたは全力を出そうとはしない。
それはあまりにも無礼。全力をもって挑んでいる相手に無礼ですわ!」
「クリングリンさん……」
レナ、そうは言っても全力は出せない。SUN ROAD SLIMEとしての俺の力は強すぎる。相手のグロリアだってただでは済まないし、それが人間の女の子だとしたらなおさらだ。
それにおれが特別なスライムであることがばれてしまえばレナは大変なことになる。
『でもスー、クリングリンさんの言うとおりよ。レナはみんなに嘘をついてる。お友達に嘘をついていて、それでもお友達でいてもらおうなんてずるいと思う……』
レナの思っていることが100%俺に伝わるわけでなないのだが、概ねこんなことを考えているのだろうということは伝わってくる。
俺の考えていることも同様に100%がレナに伝わっているわけでは無い。それでも伝えずにはいられない。
レナ聞いてくれ。それは必要な事なんだ。
レナが不要な危険に巻き込まれないように、パパやママ、ブライス家の人たちが平和にくらすためには必要なんだよ。
『ナバラ師匠も、リゼルさんもスーと同じことを言ってたね。
でもねスー、本当はそうじゃなくてレナが原因じゃないのかって……そう思うの。
レナが弱いから、スーやみんなに守ってもらわないといけないから、そうなっているんじゃないかって』
それは……。
『レナ、もう13歳なの。あと二年で働くこともできるし結婚もできる。
法律上大人とみなされるにはまだ年が足りないけど、大人の仲間入りを出来る年齢にはもうすぐよ。
それにいつまでも守ってもらう側じゃなくて、レナがみんなを守るってそう決めたの。
だからレナはこの場所にいるの。
皆を守れる騎士になるってそう決めたのに、自分すら守れなくってなにが騎士なの?』
レナ……。
『いつかこの時が……スーの本当の姿を伝える日が来るのは想像してた。
それが今日だってことよスー。
もう守られるだけのブライス家のお嬢様じゃないってことをみんなに伝えるの!』
……分かったよレナ。
全力を出そう。
だけどレナ、リミッターはかけさせてもらうぞ。
誰にも悲しい思いはさせたくない。
『ありがとうスー。大好きよ!』
レナは決意し、俺はレナの決意を受け入れる。
それだけで今見えている景色がこれまでと全く違ったものに感じられる。
「考えはまとまりましたか?」
「ええ。お待たせしちゃったね」
「ふふふ、その目。ようやくわたくしの事を見てくれるんですのね」
レナとクリングリンさんが視線を交わらせる。
一息、二息、三息と、静寂の時間が続いて――
「スー、ギアを上げるよ!」
その静寂を破ったのはレナだった。
任せろレナ!
イグニスドライブ起動!
俺はSUN ROAD SLIMEとしての体温上昇能力をフルで開放し、自身の体温を上げていく。
XランクのグロリアであるSUN ROAD SLIMEはテスト用に作られたグロリアのため、通常のスライムに比べて沸点や発火点(空気中で熱した時に火種が無くても自然に燃え始める温度)がかなり高い。
俺の体温上昇に合わせて周囲の空気が熱せられ、緩やかにではあるが流れるようにフィールドを、レナをクリングリンさんを、審判席をと飲み込んでいく。
レナから流れ込む輝力の量も増え、熟練者であればその流れを見ることもできるだろう。
そうして、大気は地鳴りの様に音を立て始め、俺の体の色は赤色から真紅にと変貌していく。
そして全身が真紅に変わったところで周囲の温度や音が元の状態に戻る。
体温調節機能を完璧に使いこなして俺の体の外に熱が漏れないようにしているからだ。
「これがブライスさんの本気。赤いスライム、いえ、スーの本気。
いいですわよ、いいですわよ! わたくしこれを待っていましたの!」
とうとう正体を明かしたレナとスー。
戦いは終盤局面へ進みます!




