SEの採れる畑
人手不足のIT企業をなんとかする話です。
季節は6月。しかし、空には雲一つなくジリジリと日差しが照りつける。都内のit企業に勤務するシステムエンジニアの山田誠も汗をぬぐいながら出勤した。社内に入れすれば冷房が効いている。
「おはようございます」
「おはようございます」
先に出社していた後輩のシステムエンジニアの武田悟はあいさつをしながら、仕事場の隅に放置されていた植木鉢に水をやっていた。
「武田君、その植木鉢のパキラ枯れていなかったっけ?」
「ええ、職場に緑をと思いまして枯れた木を抜いて新しく種をまいたんです」
「何の種?」
「国立研究所の遺伝子操作で作られたシステムエンジニアの種です。今蒔いたのはコーダーとPHPの種です」
「システムエンジニアの種?」
「この木は大きくなるとシステムエンジニアが採れるのです」
「嘘くさいな」
「ウチ、年がら年中人手不足でしょ?まだ試作品なのを無理言って分けてもらったんですよ。失敗作で元々ですよ」
「まあいいや。さ、仕事仕事」
「はい」
朝礼が終わればひたすら終電までパソコンに向かい合って入力するだけで一日が終わる。そういうのが連日続くのがit企業だ。
1週間後。
「武田君。そろそろシステムエンジニアは収穫できそうか?」
「頃合いですね。実を取ってみましょう」
木に3つなっていた巨大なホオズキに似た実をハサミで切り取り、皮をむくと、中から人の両腕に強引に目と耳を移植したような奇っ怪なシステムエンジニアが出てきた。
「研究員は指示だけは人間がする必要があると言っていました。それもなるべく具体的な指示を出せと」
「早速、働いてもらおうか。この仕様書を読んでプログラムを書いてくれ」
採れた実に仕様書を渡すと、目で読み、すぐにキーボードを叩き始めた。
「早いな」
「そうでないと作った意味がありませんから」
その日の終電間際に山田が
「武田君。そろそろ上がろう」
「そうですね。さっき実の書いたプログラムを読みましたが、バグはないですよ」
「それゃ優秀だ。しかし、あの実は眠ったり帰ったりしないのか?」
「ここで生まれた実にどこへ帰れと言うつもりですか?それに植物に睡眠という概念はありませんよ」
「給料も休みも無しか」
「山田先輩。後は任せて帰りましょう」
翌日。
「武田君、すごいよあの実!休み無しで徹夜でプログラム書いているよ!」
「書き終わってしまうと新しい指示が出るまで待機してしまうのが難点ですがね」
「そんなこと気にならないくらい働いている。そうだ!僕の家の実家が農業やっているんだ。植木鉢なんかじゃなくて畑で育てればもっと大量に収穫できるだろ?」
「実験は大成功でしたし、早速種をもらってきます!」
2週間後。天気は変わらず快晴だった。
「おはよー武田君。今日も暑いなー。洗濯物が乾くのはいいけど、このままだと空梅雨になるぞ」
と言いながら出勤した山田と武田が職場を見て大慌てした。
「大変だ!武田君。実が枯れている!」
「うわー。聞いた話では寿命だと」
「どうするんだよ!人手!」
「慌てないで下さい。先輩の実家の畑ですくすくとシステムジニアの実が育っていますから。そのうち収穫できますよ」
「ならいいか」
翌日の朝礼時。課長が一言
「諸君、期待していたシステムエンジニアの実が畑泥棒と空梅雨の影響で全滅した。増員はない。しかし、納期は厳守。稼働を上げて乗り切ってほしい!」
「日照りはともかく畑泥棒って!」
「他所のit企業に植物に働かせているとバレたみたいですね」
「チクショウ!鬼!悪魔!最近のシステムエンジニアは上司の命令なら畑泥棒までやるのか!この社畜!」
「いやあ、同じ状況なら私でも泥棒しますよ」
おしまい。
現実にあれば、多分どこもやる。