初クエスト
暖かな日差しが窓から差し込み薄暗い部屋を照らす。
「……ん……」
その日差しによって俺は目を覚まし、壁に掛かっている時計に目を向ける。時計は一四時を指していた。
「……なんだまだ二時かよ」
何でこんな早い時間に目を覚ますんだ? カーテン閉め忘れたかなぁ。まぁ、やることないしまた寝……
「……あ……」
メルとの約束忘れてた……。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
初日から盛大に寝坊した俺はすぐに身支度を整えギルドに向かい辺りを見回す。冒険者たちが席に着いて話し合っている中、隅の席にメルが一人座っていた。
俺はメルに近づき、
「あのーメルさん」
「……ハルですか?」
メルが上目遣いでこちらを見てくる。
そうだよな。そりゃ怒るよな。だって初日から大遅刻したんだもんな。ちゃんと謝んないと。
「メル、その――」
「うっ、うっ、うぇっ、えぐっ……」
「え!!?」
「うわああぁぁぁぁああんっ! ハルぅぅぅううっ!!」
え!? え!!?
「ど、どどどどどうしたんだ!?」
「うぐっ、ハルがっ、えっ、なかなか来ないからっ、ひぐっ、嫌われちゃったのかなってっ、私っ、ふぐっ、心配でっ、えぐっ」
「そそそそんなことないよ! た、ただ俺が寝坊しただけであってメルは何も嫌われるようなことしてないしむしろ嫌われるべきは俺の方でだからつまりそのメルは何も気にしなくていいっていうかその―—」
「えっ、えぐっ」
「すみませんでしたああああああああ!!!」
俺がメルに土下座し慰め続けること数十分、ようやく落ち着き始めたメルに安堵しつつクエストボードに目を向ける。ボードには様々な依頼書が貼ってあった。街の外れの森に生息する猛毒鳥や荒地に出る巨大トカゲの討伐をはじめ、国の辺境にある山に生えるといわれる薬草の採集や魔王軍の情報提供、三丁目にある孤児院の手伝いや七丁目にあるパン屋のビラ配り……ん? なんか後半おかしくね? 百歩譲って孤児院の手伝いは良しとしよう慈善活動だし。でもパン屋のビラ配りって何? バイトやん。
「なーなーなー。孤児院の手伝いとかパン屋のビラ配りって冒険者の仕事なのか?」
「そうですよ。冒険者は討伐が仕事だと思われがちですが実際は何でも屋みたいなものですからね」
なるほど、冒険してないじゃん。
「とりまどれ行くか決めようぜ」
俺はそう言いながら再び依頼書を物色し始める。うーん……。
「「これ」」
おっと違うやつを選びましたね。
「……これにしようぜ」
「なんで初クエストでBランクのクエスト選ぶんですか? 死にますよ」
「え? 俺死ぬの? それはやだなぁ」
何ということだ。額の高いクエストを受けてしばらく引き籠もるという俺のパーフェクトなプランがダメになってしまった。
「それは?」
「これはコボルトの討伐ですよ。コボルトは数匹の群れで生活してるんですけど個々の強さはそれほど強くないので駆け出しの冒険者でもやりやすいクエストなんですよ」
ほぅ。それなら俺でもいけるかもしれないな。俺が選んだクエストの報酬より格段に落ちるが仕方がない。身の安全が第一!
「それじゃあ早速行きますか」
街の外れにある森に入り十数分、俺とメルは茂みに身を隠しながら奥の方へ視線を向ける。そこにはコボルトの群れがいた。コボルトたちはこちらに気づいた様子もなく食事をしている。俺はメルに視線を移し、
「で、どうするんだ?」
「では私が詠唱している間ハルはコボルトの気を引き付けていてください」
「いや、俺初めてだからいきなりそういう危ないのをするのはどうかと思うんだ」
どうしてもやりたくない俺はメルに抗議する……がしかしメルは俺を無視し詠唱し始める。
……俺に意見を言う権利はないのでしょうか?
無視されて切ない気持ちになるが今はとりあえずコボルトたちの気を引くのが最優先だろう。やだけど。
俺は茂みを飛び越え神剣を構える。コボルトたちは俺の登場に驚きつつも手元の武器を手繰り寄せて俺に対峙する。
さて、どうやって気を引けばいいのだろう? 突撃すればいいのかな?
俺がどうするか考えていると、
「『氷の槍』!!」
突如空中に魔法陣が浮かび上がり氷の槍が勢いよく放たれる。氷の槍はコボルトたちの心臓を貫き、その場に崩れ落ちる。
ふぉえっ! 何が起こったん?
「お疲れさまでした」
俺が困惑する中、メルが労いの言葉を掛けてくれる。
「何したん?」
「魔法ですよ」
あ、そういや詠唱とか言ってたわ。なるほど、あれが魔法か。初めてリアルで見たけどすごい。コボルトたちを一瞬で全滅させてしまったのだからな。そこで俺は思う。
あれ俺いらなくね? メルだけで充分じゃん。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
ギルドに戻り、クエストの報酬を受け取った後、
「では報酬は山分けでいいですか?」
メルがそんなことを言ってくる。
「うーん……それはありがたいんだけどさ……」
何というか申し訳ない。だって俺は今回何もしていないのだ。何もしていないのに報酬をもらうのは俺でもさすがに気が引ける。
「いや、やっぱりもらえない」
「何でですか?」
「何でってそりゃあ俺何もしてないし……」
「そんなの気にしなくていいですよ。私たちは同じパーティの仲間じゃないですか。どんなことがあれ二人でクリアしたことに変わりはないですよ」
そう言ってメルが笑顔を見せる。
……なんていい子なんだ! 今度なんか奢ってあげよ。
「これ今日の報酬です。あと明日もクエスト行きましょう。集合は今日と同じでお願いします」
メルは俺に報酬を渡して宿に戻っていく。
……確かに何もしてなくてもクリアしたことに変わりはない。俺は生き抜くために貪欲にならなければいけないのだ。今回だって例外じゃない。そう、これは生きるために必要なのだ。
そう自分に言い聞かす……が、俺の良心は納得できないようで。
「……やっぱムリィ」
この物語を読んで頂き、ありがとうございます。
あらすじ通り、この物語は異世界での戦闘もありますが、ギャグ要素もあります。(そのつもりです。)
ですので、気軽に楽しんで読んで頂き、少しでも「クスッ」と笑って頂けたら幸いです。
上手く書けずに至らないところもありますが、一生懸命書きますので、連載終了までお読みいただけたら嬉しいです。
最後にもう一度、読んでくれた皆様に深く感謝を。