冒険者ギルド
落ち込んでいる俺を励まそうとしてくれるメルに涙を禁じ得ないまま荒地を越え、森を歩き続けること数時間、段々と街が見えてくる。
「着きました。ここがイヴァンドの街です」
「おおぅ……」
街を囲む外壁の大きさに驚きを隠せない。
「結構大きいんだな」
「一応この街は王都の近くですからね。国の最東端にあるとはいえいろいろなものが伝わってくるんですよ」
メルが丁寧に教えてくれる中、俺たちは門をくぐり街に入る。
街には中世ヨーロッパのような煉瓦造りの建物が建ち並んでいる。道ではたくさんの人があちこちで談笑し、子供たちは騒がしく走り回っている。
……うん。中世風なのは定番だな。てかむしろ定番で安心する。
「ハル。これからギルドに行くので一緒に来てください」
「え!?」
「え!?」
な、なんで俺も行くんだ? てか何でメルも驚いてんだよ。
「えーと、俺がギルドに行く意味あるの?」
「い、いえ。街まで一緒に来たのでギルドにも一緒に行きたいなって……」
「よし、今すぐ行くぞ」
そんなこと言われたら行くしかないじゃん。
そんな感じで俺とメルはギルドに向かい歩き始めた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
歩き始めて数分、建物を見ながら歩いていると、
「おい、お前らぁ! 止まれぇ!」
突然見知らぬ男女三人組が大声で話しかけてくる。
「ここを通りたかったら金を払ってもらおうか」
「うちらは別に争おうとは思ってないんだ。ただ払うもん払ってもらえればそれでいいんだよ」
中心に立つ男が恐喝し、隣に立つ女が続く。
チンピラのテンプレのような言動に感心しつつもちょっとビビってしまう。
……関わりたくないなぁ。
「……」
そんな気持ちで視線を逸らしながらスルーしていると、
「おいてめぇ。さっきっから何無視してんだよ」
もう一人の男が我慢しきれなくなったのか、俺を睨みつけながら近寄ってくる。
ちょ、怖いんですけど。早く帰ってほしいんですけど。
俺はより一層ビビりながらメルに視線を向ける。
……あれ、なんで笑ってんの?
何故か知らんがメルが隣で笑いを堪えている。てかよく見れば街の人も肩を震わせている。
そのことに違和感を覚えるけど今はそれどころではなぁい!
「いやぁ、そういうのはちょっと……」
「あぁ!? てめ文句あんのか!?」
そう言ってチンピラの一人が殴り掛かってくる。
……交渉失敗。てかさっき争う気無いって言ったじゃん!
しかし俺の気持ちはお構いなしにチンピラの拳は俺の顔面に向けて振り下ろされる。
俺は反射的にガードする……ことはなくチンピラの顔を殴ってた。
俺に殴られたチンピラは鼻血を垂らしながらその場に崩れ落ちる。その光景を見ていた残りのチンピラは慌てながら倒れたチンピラを抱きかかえ、
「お、お前! お、憶えてろよ!!」
まさにチンピラの代名詞とも言えるであろう捨て台詞を吐きながら走り去っていく。
「忘れましたー」
俺はチンピラたちに返答しながらメルに視線を向ける。
……だから何で笑ってるの!?
「フフッ、う、うん! そ、それじゃあギルドに行きましょうか」
メルは誤魔化し気味に早くその場から動こうと誘導してくる。
俺は怪しがりながらも再びギルドに向かい歩き始めた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「ここがギルドです」
メルがそう言いながら目の前の建物を指差す。
ギルドは……うん。なんて表現したらいいか分からん。なんかギルドって感じ。……終わり。
俺が表現に悩んでいる中、メルはギルド内に入っていくのでついていく。
ギルド内ではたくさんの冒険者が食事をしたり、話し合ったりしている。どうやらギルド内には酒場みたいのがあるようだ。てか俺に気づいた数人の冒険者が物珍しそうにこちらを見ている。やめろ、こっち見んな。
「それでは私はクエストの報告があるので」
そう言ってメルは奥のカウンターに行ってしまった。……はっ! てか住む場所考えなくちゃ! えぇーでも普通の宿高いんでしょぉ。ギルドに登録するしか無いじゃん。
そんなことを考えながらカウンターへ近づく。
「登録するか……えぇー、やっぱやめよっかなぁ。でもなぁ」
カウンターの前を歩き回りながら悩んでいると、
「どうかしましたか?」
カウンターに立つ黒髪ロングの優しそうな美人女性職員に話しかけられる。俺はそれをきっかけ……かは分からんけどギルド登録を決心する。
「すみません。冒険者になりたいんですけど」
「それはギルドに冒険者として登録したいということですか?」
「はい」
俺は女性職員の質問に答え……やべ今手数料とかいう嫌なこと頭過ぎったわ。
「それでは登録手数料として三万ヴァイスお支払いください」
……はい、フラグ回収。てか三万ヴァイスて何? 俺は一ヴァイスが日本円でいくらか知らないがかなり高額な気がする。てか手数料ってそんなかかるもんなの? どうしよう俺金ないんだけど。
「いや俺今手持ちないんですけど……」
「そうですか。ではまたの機会にお越しください」
「いや、そこを何とか……」
俺の生活が懸かってるんだ。ここで引くわけにはいかない。俺が執念で女性職員に交渉していると、
「どうしたんですか?」
メルが声をかけてくれる。……救世主の降臨や。
「いや、登録手数料が払えなくて……」
「私が払いましょうか?」
「……いいのか?」
「はい! 助けてもらったお礼です!」
「いやでも三万ヴァイスってかなり高いんじゃ……?」
「? なに言ってるんですか? 登録手数料は千ヴァイスですよ?」
「!?」
それを聞いて俺が女性職員に視線を向けると同時に女性職員も俺から目を逸らす。
……おい、どういうことだ?
するとメルも女性職員に視線を向け、
「ああ、エレナさんですか。彼女はお金に対して執着心が強いといいますか……いつももともとの金額より高い額を請求したり逆に報酬を誤魔化して少ない額を出したりしているんですよ」
「え? 何でギルド職員やってられるの?」
そんなんでよくクビにならないな。逆に感心するんだけど。
「……いやぁ、ちょっと手違いがあったみたいですね。あっ、冒険者になりたいんでしたよね? ではこちらの書類の記入をお願いします。」
エレナが笑いながら一枚の紙を渡してくる。……こいつ誤魔化しやがったな?
俺は文句を言いたい気持ちを押し殺し、書類の記入を始める。
―—数分後、
「……はい、それでは書類の確認をしますね。ナルカミハルヤさん十五歳。銀髪の右眼が赤、左眼が翡翠のオッドアイで身長一七〇cmくらいの男性……男性!!?」
そう言いながらエレナがこちらを驚いた表情で見てくる。てかメルも驚いてるんですけど。
「……そんなに驚くことか?」
「いや、今までずっと女性だと思ってたので……」
メルにそう言われると悲しくなってきた。確かに俺は童顔だし髪も長い。でもさぁ、男ってことくらい気づいてよぉ!
「そうですか。男性ですか。……男性……」
「ごめん、よくわかんない」
何故か頬を赤らめながらこちらをチラチラ見てくるメルに突っ込みを入れ、エレナに向き直る。
「もう終わりですか?」
「え? あ、それではこれを左腕につけてください」
そう言ってエレナから渡された腕輪をつける。
「これは冒険者の証ですので常に身につけているように。それがあれば他の街や国に入るときのパスポート代わりになりますし、ステータスを確認することもできます」
なるほど、これがあれば手続きなしで他の場所に行けるのか。まぁ行かんけど。
「ではこれに腕輪をかざしてください」
そう言ってカウンターによくわからん装置が置かれる。俺は言われたとおりに腕輪をかざすと光の文字が浮かび上がる。
「えーと……大体のステータスは平均くらい……え!? 筋力と魔力が異常に高いですよ!?」
「え!? マジで!? やったぁ俺すごいでしょ!!?」
「ええ、レベル一でこの高さはすごいを通り越して気持ち悪いです」
「そーなんだよ俺すごいん……あんた今気持ち悪いって言った?」
「ではあなたのクラス、冒険者としての役職を決めましょうか」
俺の質問を聞き流してエレナが話を進める。
「何があるんすか?」
「そうですね……。ステータス的には騎士か魔術師でしょうけどそれを選ぶと片方のステータスがほぼ無駄になってしまいますので……」
「クラスとステータスってそんなに関係あるんすか?」
「はい、選んだクラスでステータスの伸びやすさが変ってくるんですよ」
なるほど。で、結局何がいいんだろう。
「うーん……あ、そういえば魔導騎士というクラスがありますよ」
……なにそれカッコいい!
「そんなクラスがあるんすか?」
「はい。ただ滅多に適正者がいないのでかなり珍しいクラスですけど。……それよりさっきから話し方が雑になってないですか?」
「気のせいじゃないっすか?」
「……」
「それよりもクラスなんすけど魔導騎士でお願いします」
「……分かりました」
エレナが不機嫌そうに登録してくれる。
「では最後にクエストと宿について説明しますね。クエストはボードに貼ってある依頼書をカウンターに持ってきて頂ければ受けられます。報酬はクエスト終了後ここで渡されます。宿はカウンターで言って頂ければ利用できますので」
そして、
「それではナルカミハルヤさん。これから冒険者の一員としてよろしくお願いします。そして今後のご活躍を期待しています!」
そう言いながらエレナが笑顔を見せる。
こうして、俺の冒険者生活が始まったのだ。
この物語を読んで頂き、ありがとうございます。
あらすじ通り、この物語は異世界での戦闘もありますが、ギャグ要素もあります。(そのつもりです。)
ですので、気軽に楽しんで読んで頂き、少しでも「クスッ」と笑って頂けたら幸いです。
上手く書けずに至らないところもありますが、一生懸命書きますので、連載終了までお読みいただけたら嬉しいです。
最後にもう一度、読んでくれた皆様に深く感謝を。