不本意な旅立ち
どれほど時間がたっただろうか。
覚醒すると、目の前には何もない真っ白な空間が広がっていた。
自分はまだあの世界にいるのだろうか。
そんな考えが頭をよぎったことで、右脚の痛みを思い出す……が、貫通していたはずの右脚は完治しており、傷痕も痛みも無かった。
そのことに困惑……したけど怪我治ったからまぁいいや。
「違う違う。今はそれじゃない」
あの女性がどうなったか調べるんだった。
とは言ったものの具体的な方法が思いつかない。
……どうしよう……。
と、俺が結構真面目に悩んでいると、突如虚空に魔法陣が浮かび上がる。そして魔法陣から翼の生えた女性が姿を現す。
その女性が現れると同時に一言、
「鳴神晴也さん。あなたは世界を救う勇者に選らばれました」
そんなことを微笑みながら言ってきた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
……何言ってるんだこいつ。
俺は目の前で微笑んでいる女性に対し憐みの目を向ける。視線の意味を感じとったのか、女性が頬を膨らませる。
「……今私のこと可哀そうな人だと思ったでしょ?」
「うん」
俺が即答したことでさらに頬を膨らませる。それよりも、
「あんた誰?」
「私!? えーと……私は……神様、だよ?」
「ふーん」
濁した返答をする自称神様に疑惑の目を向ける。
「あー! 絶対信じてないでしょ!? 本当だからね! 本当に神様だから!!」
「わかったよ! わかったから静かにして!」
騒がしい自称神様を注意し、改めて目の前の女性を見る。
腰までの長さの真っ白な髪に翡翠色の瞳で可愛らしい顔立ちをしている。 背丈は俺より少し低いくらいで背中には純白の翼が生えている。
……うん、美人だな。
そんなことを考えていると、
「どうかした?」
と、自称神様が心配した表情で顔を覗き込んでくる。
ちょ、近い……!
「な、何でもないよ!」
「そう? ならいいけど」
いくらあほそうな人でも美人が顔を近づけてくるとさすがに恥ずかしくなる。
俺は恥ずかしさを紛らわせるために話題を出す。
「そういえばさ、俺が勇者に選ばれたってどういうことだ?」
「? あぁ、そんなこと言ったね!」
……おい。
「それじゃあ説明するね!今とある世界では魔王によって危機に瀕しているんだ。そこで世界を救うために救済者、つまりは勇者を送ろうってことになったのね。そして厳正な審査の結果、あなたがその勇者に選ばれたんだ。それでね……」
あ、そういえばあの女性がどうなったか考えてるんだった。どうやったら分かるんだ?うーん……。
「……ねぇ、ねぇ、ねえってば!!」
なんか騒いでんな。静かにしてほしい。
「だーかーらー! 聞いてるの!?」
自称神様がさらに騒ぎながら肩を揺すってくる。ちょ、マジで迷惑なんだが。
さっきから邪魔ばかりしてくるので思考が定まらない。さすがに我慢しきれなくなった俺は、
「「あああああああああああ!!!」」
……なんであんたも叫ぶんだよ。
「なんだよさっきっからうるさいなぁ!! 迷惑だぞ!!」
「そっちこそ!! 私の話聞いてないでしょ!!」
何でこいつはキレてんだ?
「なんでお前がキレてんだよ?」
「君が勇者に選ばれた理由を聞いてきたんでしょ!?」
そー言えばそうだったな。
「いい? 君は勇者に選ばれた。だから魔王を倒しに異世界に行く。分かったね?」
えぇー!? やだなぁ。
確かに昔は異世界に憧れていた。でもあんなグロイ光景を見たらさすがに行く気になれない。てか戦うのもやりたくないし。
「行きたくないんだけど……」
「だーめ! 君の意見は何一つ受け付けません!」
……おい。
「異世界に行くにあたって何か質問はある? 何でも聞いてね」
どうやら俺に選択権は無いらしい。
「そうだな……。言葉とかってどうなるんだ?」
「その辺は君の脳にデータとして直接送り込むから安心していいよ。他には?」
「住む場所とか戦い方は?」
「それは自分で考えて」
「え!? さっき何でも聞けっていったじゃん! ちゃんと答えろよ!!」
抗議する俺をとぼけた顔でスルーしてくる。こいつ……!!
「もう質問は無いみたいだね。じゃあこれ」
そう言って自称神様が何かを渡してくる。……剣?
「それは神剣ジェネシス。君の神器だよ!」
「え? あ、うん。どうも……」
「それじゃあ頑張ってね! 応援してるよ!」
そういうと同時に俺の足元に魔法陣が浮かび上がる。
「あ! ちょっと待って!!」
「? どうかした?」
おっと、なんで俺は呼び止めたりしたんだ?どうしよう。
「えーと……。あ、そうだ。あんたの名前まだ聞いてなかったなって思って」
「私の名前? シャルロットだよ」
自称神様。もとい、シャルロットが名乗り、
「それじゃあ改めて。勇者鳴神晴也さん、願わくばあなたが魔王を打ち倒すことを祈っています」
その言葉により、魔法陣の光がより一層強さを増す。
そしていよいよ異世界に飛ばされるというときに俺は、
「あ、そうだ。ひとつ言い忘れてた」
「?」
頭に疑問符を浮かべるシャルロットに一言、
「俺魔王と戦う気も世界を救う気もないからーー!!!」
「え? えぇー!!? ちょ、まっ――」
そう言うと、慌てるシャルロットを残し、魔法陣に身体が呑まれていく感覚に身を委ねた……。
この物語を読んで頂き、ありがとうございます。
あらすじ通り、この物語は異世界での戦闘もありますが、ギャグ要素もあります。(そのつもりです。)
ですので、気軽に楽しんで読んで頂き、少しでも「クスッ」と笑って頂けたら幸いです。
上手く書けずに至らないところもありますが、一生懸命書きますので、連載終了までお読みいただけたら嬉しいです。
最後にもう一度、読んでくれた皆様に深く感謝を。