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花束の彼にお返しを

作者: 森 飛鳥

花束を君に、の続編と言う形になります。前作で恋人関係になった彼女と彼のその後を少し描きました。

私、藤堂沙織には、つい最近恋人が出来た。

毎週水曜日に花屋にやってくる三島要さんである。彼と付き合い始めて少し経つがまだまだ知らないことはたくさんで、ふとした瞬間に知らない彼が覗くことに私はどきどきと嬉しさで胸がいっぱいになる。これは初めてのデートの日のことだ。


日曜日の朝。いつもの目覚ましが鳴る、10分前に目が覚めた。そう、今日は待ちに待った三島さんとの初デートである。付き合うことになったものの、互いに忙しくなかなか時間が作れなかった。だから、やっと重なった休みのデートという訳だ。デートに誘ってくれた時の三島さんの顔が忘れられない。つい、先週の水曜日のことだった。


「今度の日曜日、藤堂さんは空いていますか?良ければデートに行きませんか?」

そう言いながら恥ずかしそうに三島さんが私に微笑んだ。

「空いています!ぜひ、行きたいです!!」

三島さんのことをもっと知りたいと思っていた私はすぐにその案に二つ返事で返した、

「藤堂さんさえ良ければ、俺にいい考えがあるんです。」

「ぜひ!!どんな考えでしょう…?」

「ありがとうございます。ではそれは、当日のお楽しみということで。」

そう言って少しいたずらな笑みを浮かべ、三島さんは私の手を取った。いつもは恥ずかしそうに微笑む彼とはまた違った、少年らしい笑みに私の心臓は大きくはねたのだった。


「いけない、準備しなくちゃ…!」

水曜日を思い出してるうちに時間が過ぎてしまう。そう思い、起きて顔を洗い、朝食を済ませた。

三島さんとの、初めてのデートだ。彼にはもっと私を知って欲しいし、素直に可愛いと思われたい。普段からも何かあれば率直に可愛いと言ってくれる彼だが、それはそれ、これはこれである。そう思いながらクローゼットを開き、先日買った服を取り出す。今日着るのは白くふわっとした袖の半袖に、細かな花柄の膝より少し長めのスカート。そしてお気に入りの少し編み上げたサンダルである。メイクはいつもよりも少し明るめにしてみた。肩より少し長い髪は編み込み、だんごでまとめてみる。これでいつもより雰囲気は大人っぽくなっただろうか…そう思いながら鏡にうつる、自身の少し緩んだ顔を見つめた。約束の時間までまだ時間があるが、少し早めに家を出ようか。そう思い、私は鏡の前を後にした。


約束の15分前。待ち合わせだった駅の時計台前にはもう三島さんの姿があった。驚きながらも近づくと、三島さんは私に気づいて軽く手を挙げた。

「おはようございます、だいぶ待たれたのでは…?」

そう言って私はそっと彼を見た。

「おはようございます、そんなことないですよ。楽しみすぎて早くついてしまいました。」

照れながらそういう三島さんはいつものスーツとは違った雰囲気だった。薄いブルーの半袖シャツに、白の爽やかなジーンズ。そして茶色の革で編まれたようなデザインのサンダルという出で立ちだ。見慣れない彼の私服は新鮮であり、そのかっこよさに胸が高鳴った。

「私服、初めてですね。三島さん、とても素敵です。」

そう照れながら私が言うと彼も目を泳がせながらこう言った。

「えっと…ありがとうございます。でも、藤堂さんの方が素敵で綺麗で…正直、直視できません。」

聞いた瞬間、自分の顔が赤くなったことが鏡を見なくてもわかった。駄目だ。これでは彼が見れない。嬉しさと恥ずかしさから、言葉が出ずにいると、察した彼は

「では、とにかく行きましょうか。」

そう言ってさりげなく私の手を取り、歩き出すのだった。


向かったのは隣駅のプラネタリウムだった。最近できたというプラネタリウムはカップル客が多く、自身も周りと同じように見えるのかと思うと恥ずかしつつも嬉しかった。さりげなくもずっと繋がれた手を意識しながら、三島さんのあとに続いて席につく。少しするとだんだんと辺りが暗くなり、プラネタリウムが始まった。

「実は、星が好きなんです。そして、ぜひこの光景をあなたと楽しみたいと思ってここにしました。」

すぐ耳元でボリュームを抑えた三島さんの声が聞こえた。

「ここ、新しくて人気だって聞いていたのですが、藤堂さんと来れてよかったです。」

そう言って彼が笑う気配がした。

「私も来れてよかったです。また新しい三島さんの一面を知っちゃいましたね。」

そう言って彼の耳元でささやき返した。

2人で互いの耳元で小さく囁く会話は、内緒の話をしているようで少しドキドキして楽しかった。見上げると頭上には満天の星空が広がり、時間を忘れてしまうくらい圧倒的な景色だった。


そして気づけばプラネタリウムも終盤に差し掛かった。

「それでは、最後に満天の星空のもと、皆様の自由な時間をお過ごしください。」

そうアナウンスが流れ、辺りは静寂に包まれた。そろりと周りを見回すとみな、それぞれ恋人同士で星を眺めたり、手を繋いだりと思い思いの時間を過ごしていた。

横にいる三島さんを見ると彼も私を見ていた。

「三島さん…?」

「えっと…つい、見とれてしまいました。」

そう言いながら彼はそっと私の頭を撫でた。少しくすぐったくて首を竦めると彼はふっと笑って

「要と…呼んでください。」

そう言って私の目をのぞき込む。

「いきなり呼び捨てですか?」

「あと、敬語もやめましょうか。俺も、やめます。…やめるから。」

そう言いながら、ね?と私の頬をつついた。

「なんだかいつもと雰囲気が違いませんか?」

「…敬語。」

「えっと…いつもとなんだか違う…よね?」

「うん、それがいい。」

そう言って少し満足そうに笑う。もともと歳上だとは思っていたが、彼は27歳で私が24歳の3歳差があることは先日知ったことだった。歳下の私がいきなり敬語というのも少し気が引けたが、彼自身もなかなか頑固でやんわりと押し進める面があることも記憶に新しい。だからここは素直に従うことにした。

「あとは名前。要って呼んで?…沙織。」

急に名前で呼ばれどきりとする。そして、なんだか敬語でなくなっただけなのに彼の雰囲気が変わった気もする。

「要…さん。」

名前で呼ぶだけでも顔が赤くなっているのがわかる。それを見た三島さんは少しいたずらそうに続ける。

「…要。」

「…か…要…さん。だめ、です。やっぱりさすがに名前は呼び捨てできない!」

「んー…まぁ敬語じゃないとこだけでも及第点ということで。呼び捨てはいずれ、ね?」

強引なスイッチが入ったのか、面白そうに彼はそう言って、そっと私に顔を寄せてきた。

「…要さん。なんだか距離が詰まってない…?」

「詰めてみたからね。ダメだった?」

そう言って少し意地悪に笑う。

「…要さん。なんだか性格が意地悪くなってない…?気のせいだよね?」

「…今頃気づいたの?君の反応が可愛くて、ついつい意地悪したくなっちゃうんだよ。ごめんね。」

そうやって謝りながらも距離を詰めてくる。

「…要さん。要さんは恥ずかしがり屋ではなかったんですか…?」

「んー…?やっぱり、敬語で話すと気が張っちゃうけど、素で話すと気が抜けちゃってね。君が可愛くていじりたくなっちゃうんだよ。」

そう言ってまた、少しずつ距離を詰めてくる。おかしい。私の知っている彼はどんなことにも少し恥ずかしそうに笑う彼だ。

「ごめんね、実は俺って好きな子ほどいじめたくなるタイプみたいだ。」

そう言っていつもの困ったような笑みを浮かべた。

「…なんだか騙されたような気分がしなくもない…。」

「沙織は、こんな俺は嫌い?」

そう言って至近距離に覗き込んでくる。

嫌いなんて思うわけ、ない。むしろ、そんな彼のことも知ることが出来て嬉しいくらいだ。

「嫌いなわけ、ない、です。」

照れてどうしても敬語になってしまう。

すると彼は笑い、耳元でこう囁いた。

「可愛い君を見ているだけというのももう限界なんだけど…キス、してもいい?」

いきなりの発言にわたしは目を瞬いた。

「えっと…ここはプラネタリウムだよ?」

「暗くて誰も見てないよ、大丈夫。」

そう言ってにこりと微笑む。

焦ってあたりを見回すが確かに影しか見えない。大丈夫といえば大丈夫だが…。

「…沙織?」

もちろん、そう言われて、キスしたいと言われて嬉しくないはずがない。恥ずかしくておそらく真っ赤になりながらも、私はそっと彼の手を握った。

ふっと笑う彼が近づく気配に目を閉じる。

すると、温かく柔らかな感触が唇を包んだ。触れたのは一瞬だった。しかし、目を開けるともう一度その感触が降りてきて私はあわてて目を閉じた。

くすりと笑う彼に目を開けると、彼は微笑んでこちらを見た。

「…沙織、好きだよ。」

「…要さん、私も好きです。」

恥ずかしくも幸せな時間はあっという間に過ぎていくのだった。


プラネタリウムも終わり、ランチを済ませ、午後からはショッピングをして丸一日デートを満喫し、家まで送ってもらうことになった。

「今日は楽しかった。ありがとう、要さん。」

「こちらこそ、いろんな沙織に出会えて楽しかったよ。」

そう言って要さんは少し意地悪に笑った。

ゆっくり歩いても、あっという間に家は近づいてくる。玄関まで来ると、要さんはふわりと私を抱きしめた。あたりに人がいるかもしれないと焦った私はとにかくあたりを見回す。

「大丈夫、誰もいない。確認したから。」

そう言ってふわりと微笑み、さらにきつく抱きしめられた。

「今日は1日楽しかった。沙織の可愛いところも見れたし、ほんとにあっという間だったよ。」

「私も楽しかった。」

私はそう答え、さらに続けた。

「いつもの大人な要さんも、たまに出てくる少し意地悪な要さんも…好き、だよ。」

その瞬間、またきつく抱きしめられた。抱きしめられる寸前に見えた要さんの顔は、赤くなっていて、やられっぱなしだと思っていた私は少し笑ってしまう。歳上の彼にもこんな瞬間があるのかと、また新たな彼の一面を好きになる。

「可愛いことを言いすぎると、離れがたいんだけど…」

少し拗ねたような声で甘えるような雰囲気の彼に、大胆になる自分がいる。私はそっと彼の腕を緩めて、つま先だって彼の頬にキスをした。

そして、

「もう帰らないと。ここまでありがとう。…っ、おやすみなさいっ!」

羞恥心が自分を襲う前に一気にまくしたてるようにそう言って、家に飛び込んだ。



そんな彼女・沙織のいきなりの行動に驚く要の姿がそこに残された。

「それはさすがに…反則だろ。」

そう言って少し赤くなってキスされた頬に触れる彼の姿を彼女は想像もしないだろう。そんな言葉を残し、少し照れながらも軽く扉を睨む彼の姿がそこにあった。


初めてのデートにして、互いの新たな一面を知った沙織と要。

内気で素直に見える彼女は彼の前では時々大胆になりつつも、彼を翻弄する。

優しくて恥ずかしそうに笑う彼も、実は好きな女性の前では少し意地悪に、強引になる一面を見せる。

そんなふたりがこれからはどのような面を見せるのかはまた、別の話である。

前作を読んでくださった方、この作品から入ってくださった方、ありがとうございました。

その後のふたりを書いてみたいと思い、書き綴りました。愛着が湧いてきた沙織と要をまだまだ書いてみたいと思いつつ…また見かけましたら、よろしくお願い致します。

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