沈んだ気持ちをサルベージ 中
本当にいい幼馴染みをもった。
ありがとう。
「今から1時間後にあんたの家に行くわ」
涙が溢れてきた。それは己の情けなさや不合格の悔しさではない。幼馴染みへの感謝、誇張して言えばその賛美の涙だった。
その言葉は海の底の底に沈んだ重く、冷たい気持ちをほんの少し引き揚げてくれた。
ほんの少しと言っても悪い意味ではない。
温かい気持ちが0から1になった。
外に出てみようと思った。
涙を抑えようと思った。
あいつに会うのだから情けない姿は見せられない。わからないところを質問しない僕はこんなところでも見栄っ張りだった。
布団から出て深呼吸をする。
嗚咽も止まってきた。それからしばらく経ち、涙も止まった。
鏡を見る。
そこには目は赤いが、泣き止んだ僕が映っていた。
よし、この調子で笑おう。笑顔であいつに会おう。そう思って笑ってみる。
・・・・・・あれ?鏡の中の僕は笑っていない。右手で右頬をつねってみる。鏡の中の僕は左手で左頬をつねっている。
何でだろう?僕は笑っていない。笑えていない。
携帯がなる。
「着いたよ」
あいつからだ。
まあ、いいか。涙もひいたことだし。そう思って家を出る。
あいつがいた。
当然のことなのに涙が出てきた。様々な色が混ざりあっていた。
本当に来てくれた安心感、幼馴染みへの感謝、いい幼馴染みをもった誇らしさ。
暖かな色があった。
しかし、やはり冷たい色もまたあった。
土壇場でポカミスをしてしまった己の情けなさ、不合格がほぼ確定した辛さ、誰かに支えてもらわないと立ち直れない自分の弱さへの嫌悪感。
たくさんの色があって、自分でも何色だかわからなくなって。
身体の力が抜けていく。
足取りが弱々しくなる。
僕は力なくよろめいた。
とっさに手を伸ばした。
あいつに凭れかかった。
抱き付いたまま哭いた。
凭れかかり抱きついた。
あいつはやさしかった。
僕を受け止めてくれた。
僕は身体を預け哭いた。
そうして時間が過ぎた。
次回で1度目の落ち込みから立ち直ります。