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探偵の俺.10

 「悪かったな、昨日は会う事が出来なくて。魔王軍と戦っていたのだ」

女王、ペイントレスが俺に謝罪する。

 「いえいえ、どうってことないです」

 「あいつじゃ役不足だったろ?」 

 あいつとは愚王の事だろう。

 「え、ええまあ」

 「馬鹿だからな。あいつは」

 コメントしづらい事を……。

 しかも愚王の野郎、嫁にも見下されてんのかよ!

 ペイントレスは豪快に笑った。

 「まあ、とにかくすまなかったな。お詫びと言っては何だが、朝食を食っていけ」


 今、俺たちは城の中の一室にいた。

 愚王はついてこなかった。どうやら嫁のことが苦手らしい。なんで結婚したんだ。

 部屋の中は、赤色の絨毯が床に敷き詰められていて、真ん中に長テーブルがあり、壁には絵がたくさん飾られている。俺の正面にある窓からはマージニウムの素晴らしい町並みが良く見えた。


 俺たちはテーブルをはさんで向き合って座っていた。

 「あの、ドラゴンは……?」

 「ん?」

 「ドラゴンのことはいいんですか?」

 「ああ、暴れないだろ?」

 ペイントレスは窓から城門前を見た。

 「おとなしくしているし、大丈夫だろう。お前が離れる時もク~ンって鳴いただけだったしな」

 ペイントレスは俺を引き連れて城にはいるときにドラゴンがさみしそうに「グオオ……」と鳴いたことを言っているのだろう。この人はまるでチワワが鳴いたみたいに言っているが、ドラゴンが鳴いたときに兵士の大半が武器を構えたのは見えていなかったんだろうか。


 ペイントレスは俺が異世界からやってきたという話を信じているようだ。話していて分かった。あちらの世界の事を何回か訊いてきたりしたからだ。警戒心がもともと薄いのか、飲み込みが早いのかはともかく、俺が異世界からやってきたという事を信じてもらえているのはとても助かることだった。

 俺は、やっと頼りになりそうな人と出会えたことで、安心感を覚えていた。

 この国の女王は愚王みたいなやつだと思っていたのだが、まるで違う。なんていうか、頭が良く尊大なのだ。

 この人は信頼できそうだ。


 朝食が運ばれてきた。

 コーンスープにパン、サラダと果物。そして水。あっちの世界と余り変わらないメニューだった。しかし、今までの生きてきた中で食べた朝食で一番おいしかった気がする。それは国を治めている人物と同じものを食べているからだろうか。

 お互いに食べ終わると、ペイントレスが口火を切った。

 「何か聞きたいことがあるらしいな?」

 「あっ、はい」

 俺はナプキンで口元を拭き、ペイントレスの正面を向く。

 「勇者の力の事です」

 俺は早速本題に出た。

 「俺は昨日、この世界に来てからずっと、なんともいえぬ、妙な感じでした。何かがいつもと違うような」

 「なにかが体に加わったような?」

 「それもあるのですが、それと同時に何かが無くなっているような気がして」

 「ふむ」

 女王はうなずくと考え込むようにして黙っていたが、しばらくすると俺に訊いた。

 「自分が抱いているその違和感の正体が、勇者の力だと、そういいたいんだな?」

 「はい」

 「で、その正体が知りたいと」

 「はい」

 「では、とりあえず言っておくが」

 ペイントレスは俺を見つめ、言った。


 「お前の持っている勇者の力はお前にしか分からない」

 「……は?」

 俺は拍子ぬけた。


 「残念なことなのだが、勇者の持っている力は勇者によって違うのだ。よって、私たちにそれを聞かれても、何も分からない」

 「え、え、つまり」

 「ああ。お前が自分の力をしかと確認するまで何の力が宿っているのか分からないのだ」

 ペイントレスはため息をついた。

 「すまんな、頼りにならなくて」


 俺は、俺の心情は、梯子を使っている途中に梯子が壊れてしまったような、なんだか裏切られたような、そんな気持だった。

 実は感じていた違和感のほかに、これが判明すれば何かが進むだろうと、俺がここにいる理由が分かるかもしれない、そういう気持ちが「勇者の力とは何か?」という質問に詰まっていたのだが、それが無くなった今、まさになんとも言えない気分で……。


 「じゃあ、昨日、王から名前を聞かれなかったのは……」

 「何、名前? 多分それは、以前、名前だけで簡単に人を呪うことが出来る勇者がいてな、魔王軍の者なんだが、それで大勢が呪いにかかって死に至ったという事件があったんだ」

 「そんなことが……」

 「うむ。だから、クレナスも名前を教えなかったのだろう」

 「あの人、クレナスって言うんですね」

 「それも今知ったのか。本当にすまない」

 ペイントレスは頭を下げた。

 俺はあわててそれを止めた。

 「止めてください。女王様にそんなことをされたら困るじゃないですか」

 「ああ、そうだな」


 ペイントレスは頭を上げ、

 「勇者というのがどういう存在なのかはよく分かっていない。この国にも生まれてくるし、魔王軍の方にも生まれてくる。あの紋章がなんなのかも分からない。ただ、分かっているのは、勇者は何かの力が優れている、という事だ」

 「つまり」

 「うむ、お前も何かを持っているかもしれない」

 そんなことを言われても……。

自分は何かを持っているらしいが、それがなんなのか――――


 「あっ」

 俺は一つの可能性を見出した。

 「どうした?」

 「俺の持っている力、分かったかもしれません」

 「なんだ?」

ペイントレスが興味を持ったようだ。

 「魔物に好かれることのできる力を持っているのかも」

 これは当たりかもしれない。そうじゃなければ、普通、初対面のドラゴンに懐かれることなんてないはずだ。


 しかし、ペイントレスは難色を示した。

 「それはなぁ。普通に魔物をペットとして飼っているやつもいるし。お前は異世界からやってきたんだ。ドラゴンはそんなお前の、この世界の者にはない匂いやオーラなんかに惹かれたのかもしれない」

 「そうですよねえ……」

 それは少し頭の中にあった。ドラゴンが異世界の空気感を気に入っているという可能性はすでに考えついていたのだ。ドラゴンが俺の臭いをかいだ時、その時にドラゴンが俺に懐いた、というのはあるかもしれない。いや、異世界からやってきた俺の気配を感じていつもと違う場所に出現した……というのは考え過ぎか。


 ガックリとした俺の様子を見かねたようにペイントレスが口を開く。

 「役に立たないな。私は」

 「いえいえ」

 「その代わりと言っては何だが」

 ペイントレスはにやりと笑い、言った。

 「異世界からやってきたお前に、この国の事、この世界の事を教えようと思う」


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