探偵の俺.1
俺は、路地裏を走っていた。
店の並ぶような路地裏ではない。飲み会帰りの親父が立ちションしているような路地裏だ。
その路地裏は、建物の壁にゲロがこびりついていたり、ビール瓶やら段ボールなどのゴミが置かれて、非常に通りにくくなっていた。
常人だったらここは通らない。いや、通るかもしれないが、それは非常時だけで、普通は通らないだろう。
とにかく、閉口するような臭いが立ち込めたりするような汚いところをそれに構うことなく俺は走っていた。
足はすでにおもりのようになり、息は切れ、腕は振っているというよりはダラーンと垂れているそれを振りまわしている感じである。
バテバテなのは誰の目で見ても明らかなことだろう。
しかし、後ろを振り向くことなく、ただひたすらにビール瓶や段ボールをよけながら走る。
俺は、後ろからはさっきまでドシャだのガシャーンだのいろいろ割れる音とかしていたのに今ではもうしていないことに今更ながら気付いた。
(振り切ったんだ)
俺は後ろを向く。
思った通りだ。やはりあいつらを振りきる事は出来ていた。
ホッとして深いため息をついた。
安堵から思わず立ち止まる。
(……寒い)
冬の冷たい雨粒が激しく俺の体を打つ。
俺の体は温まっているはずだった。運動していたのだから当たり前だろう。だが、今俺の着ているジャージはびしょぬれに濡れて氷水につけた雑巾みたいになっていた。
水分が俺の体から温度を奪い、同時に体力が失っていくのが感じられた。
俺は体の震えが止まらなかった。
(……成宮のおっさんに上着貸してもらった方がよかったかな)
成宮のおっさんはこの数カ月で仲良くなった、主に上野公園に住むホームレスである。
今日俺がやつらに見つかる直前に上着を貸してくれようとしてたのだが、やつらに見つかってしまったため、上着を借りることは出来なかった。
俺はとにかく休みたかった。
建物の屋根の影になって雨に当たらない場所を見つけ、そこで体育座りになった。
非常にみじめ気分になった。
(どうしてこんなことに……)
俺は灰色の空を見上げた。
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