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魔王軍とは存在するだけで場を乱す

「お主らマジで薄情じゃないか⁉︎」


 ぽたぽたと水滴を垂らした状態のポリアがいつの間にか姿を再び現しバーベキューを続けているソロティス達に向かい叫んだ。


「ちっ、精霊がまだいたんですか」

「シュコーシュコー」


 ソロティスに肉を食べさすという至福の時間を邪魔されたマリアベルジュが仇を見るように殺意のこもった瞳をポリアへと向ける。


「儂、精霊じゃからな⁉︎ 一応神々に愛されておる精霊じゃからな!」

「もう、神々に愛されてるとか言ってる時点であなた勇者側の方でしょう。というか完全に敵です」

「も、もうちょっと甘やかしてもバチは当たらんと思うのじゃが」


 ポリアの抗議はマリアベルジュの言葉の刃に容易く切り刻まれさらには正論の刃で追撃を受けていた。


「というかなんで精霊が魔王軍の前に姿を現したのさ? 普通はこんな魔界じゃなくて人間界のほうにいるものでしょ?」


 ソロティスは疑問を投げかける。その質問に対しポリアはとても嫌そうな表情を浮かべていた。


「別にどこにいようが儂の勝手じゃろ」

「魔王様、そんなことを言ってはいけません。そんなの言わなくてもわかるじゃありませんか」

「どういうこと?」


 慌てたように割り込んできたマリアベルジュにソロティスはキョトンとしたような表情を浮かべ尋ね返す。


「簡単ですね。言わばこの精霊はハブられてる。人間の世界で言うところの窓際族と言われるやつなんでしょう」

「そうなの?」


 魔族の中ではほぼ存在しないと言われる純真無垢な瞳をソロティスはポリアへと向ける。一方のポリアはというとわなわなと体を震わしていた。


「誰がハブられておるか! というか意味はわからんがマドギワゾクとやらも明らかに悪口じゃろ!」

「あなた、友達います?」


 怒りに怒っているポリアに対し、再びマリアベルジュが問いを投げかけるとポリアの瞳がひどく揺れる。


「お、おるわい!」


 返ってきた言葉はやたらと震えておりそれだけで答えを言っているようなものである。


「マリア、精霊さん友達がいるってさ」

「おかしいですね。いないと思ったんですが。それに精霊は群れて生きるものなんですが」

「わ、儂は一人が好きなんじゃ!」

「ふーん」


 明らかな強がりであったがソロティスは追求しなかった。


「それで一人が好きな精霊さまが一体なんのようです?」


 ソロティスにあーんとしている所を邪魔されたマリアベルジュは憎々しげに睨みつける。しかし、今度はポリアも引かず、いや、それどころか額に青筋を浮かべながら一歩前に出てきた。


「何の用じゃと? 儂の住処である湖を荒らしまくっとるからじゃろうが!」


 ポリアの怒りに呼応するかのように湖が荒れ始める。腐っても精霊と言われるほどの魔力である。


「私たちは特に何もしていませんが?」

「なにをたわけたことを! あの空飛ぶメイドも貴様らの仲間であろうが!」

空飛ぶメイド(シュコーシュコー)?』


 ポリアの言葉にソロティス、マリアベルジュ、コルデリアの三名は首を傾げた。三人とも誰だかわからなかったようだ。


「な、なんじゃ? お主らの仲間じゃなかったのか?」


 まるで反応を示さないソロティス達に不安になったのかポリアが再度尋ねた。


「ちなみにそのメイドはなにをしていたの?」


 確認の意味も込めてソロティスが問いかけるとポリアはパッと表情を明るくさせる。


「うむ、そいつは湖の上を初めは飛んでいるだけじゃったんだがな。途中からわけのわからない魔導兵器のようなものを使いはじめてのぅ。湖の水を蒸発さしたり山を消し飛ばしたりし始めたのじゃ」

『……』


 ポリアの説明を聞いた三人は沈黙。しかし、それに気づかない話を聞いてもらい上機嫌なポリアはまだ話を続けていたが三人の心境は一致していた。


(((キルルだ!)))


 当然バージョンアップしたパーツを試していたキルルである。やはりというか当然というか規格外の六死天グリモワールならではの行動であった。


「まぁ、あのメイドがお主らの仲間じゃないのならばなんの問題はないんじゃが」


 黙り込んだ三人を見て都合良く解釈したポリア。それを見て三人はホッと息をつくが彼女の肩が震えているのを見て、未だにポリアの怒りが収まっていないことに気づいた。


「じゃが! あれはお主らの仲間であろう⁉︎ お主らの仲間がやたらと色々やるから儂も落ち着いて湖の底に帰れんのじゃ!」

「はぁ? そんなわけ……」

「おりゃぁ!」

「HAHAHAHAHA! 負けはせんよ!」


 声の方に向き直ると桜とファンファンニールが釣り? のようなものをしていた。なぜ疑問系かというと彼らの足元には釣られたであろう魚が転がっているにも関わらず二人が手にしている物が釣り竿でないことが原因である。

 桜の手にしているのは紐。しかしそれは紐というより漁などで使う網だった。それを桜は力尽くで湖へと放り投げ本来なら船などで遠方に向かわなければいけないような地引網とし後ろに一人で引っ張ることで大量の魚を収得していた。断じて釣りではない。

 もう片方のファンファンニールはというと指の間に幾つもの鋭く尖った骨を挟んでおり、その骨からは明らかに魔力が滾っていた。その魔力の塊とも言える骨を湖へと放ち魔力を湖へと侵食さしていく。しばらくするとファンファンニールの魔力に耐え切れなかった魚達がプカプカと水面に浮かび上がってき、それをファンファンニールの配下達が回収して行っていた。こちらもやはり釣りではない。

 どちらも大量の魚を収得しているのだが桜は力尽くで網を引っ張っているため湖の中の資源を根こそぎ叩きこわし無価値に返す。ファンファンニールは骨に込めた魔力を湖へと放っていることで湖は重度の魔力汚染が広がっているのである。

 言わばこの二人だけで湖の環境を徹底的に遊び半分で破壊しまくっているわけだ。


「「……」」


 その光景を見たマリアベルジュとソロティスは揃って無言。非難の瞳を向けてくるポリアから目を逸らす。


「なにかいうことはあるかのぅ?」

「……少しお待ちください」


 マリアベルジュが一言告げ一礼した瞬間、姿が搔き消える。そして少し遅れゴォォォンという音が鳴り響くと共に大地が揺れる。


「いたぁぁぁぁぁぁい!」

「ooooo⁉︎ 僕の黄金の肩がぁぁぁぁぁ!」


 頭を押さえる桜、砕け落ちた肩を見るファンファンニール。そのどちらも口から痛みに対する悲鳴が溢れていた。


「頭! 頭ゴンていった!」

「肩が! 肩が外れてるっていうか落ちてるんですけど⁉︎」


 桜は頭を押さえなが涙目で、ファンファンニールは砕かれた腕を拾い上げ憎しみの炎が宿った眼窩を攻撃を加えてきたマリアベルジュへと向ける。

 が、

 マリアベルジュは無言でただ威圧するかのように魔力を体から放つ。


「あなた達のタイミングの悪さには頭痛を覚えますよ」

「なんの話なんだい⁉︎ 全く話の流れが読めないんだが⁉︎」

「頭! 頭ゴンていった! 凹んでる! 凹んでるよぉ!」


 会話を聞いていないものからしたら確かにマリアベルジュの発言は流れが読めないものであろうがマリアベルジュは気にしない。


「いつも言ってるでしょう! やるならバレないように! バレたら消すようにって!」

「おい! お主なんて物騒なこと抜かしとるんじゃ!」


 自分が消されるかと思ったのかポリアが後ずさりながらも声を上げる。


「うぅぅ…… う?」


 頭を押さえながら唸りながらソロティスの方へと歩いていた桜であったがソロティスの横に立つポリアが視界に入るとしばらくフリーズしたかのように立ち止まる。


「な、なんじゃ?」


 硬直した桜を見て嫌な予感がしたのかポリアが尋ねる。そしてその予感は絶対的に正しい。なぜなら先ほどまでポリアの横にいたソロティスが少しずつ距離を取り始めていたからだ。


「ああああああああ! さっき私が捕まえた奴だ!」

「今まで忘れていたのか⁉︎ あれだけの仕打ちをしておいて!」


 声を上げるや否や桜は跳躍。一瞬にしてポリアを押し倒すと尻尾を使い完全に身動きが取れないようにしていた。


「ぐぇ⁉︎」

「これでわたしが一番の大物を捕まえたことになるね!」


 先ほどまでの泣き顔が嘘のように晴れやかな笑顔をよだれを垂らしながら浮かべる桜。


「桜、その人? 精霊らしいよ」

「え、精霊じゃ食べれないね」

「……やっぱり食べる気だったんだね」


 ガッカリする桜。それが伝わるかのようにポリアを拘束していた尻尾達も項垂れ拘束する力が緩む。その隙にポリアはバタバタと暴れ尻尾の拘束を振り切るとソロティスの後ろへと隠れた。姿だけならば大人の女性が子供の後ろに隠れるというのはかなり滑稽な姿であった。


「お、お主があのイカれた奴らのリーダーじゃろ⁉︎ というか呼び名からして魔王なんじゃろ⁉︎ なんとかせよ! このままではおちおち昼寝もできんわ!」

「そう言われてもね。僕めちゃくちゃ弱いから。あと気持ち悪くなるから体を揺するのやめて!」


 ポリアがソロティスの両肩を掴み勢いよく揺らすが当のソロティスは相変わらず魔王らしいところを一切見せることなく青白い顔色になりながらも笑う。


「あ! ソーちゃん! そんな女とペタペタくっついちゃだめ!」

「そうです! 魔王様! 私というものがありながら!」


 そんな二人を桜が目ざとく発見、それに続きファンファンニールを肉体言語で説得したマリアベルジュもソロティス達の方へと歩み寄る。


「……」


 コルデリアに至ってはすでに呼吸音すら聞こえず地面に座り込み、身動きひとつとっていなかった。


「違う! それは左腕だ! 右足につけるんじゃない!」


 大声を上げるファンファンニールはというとマリアベルジュの肉体言語により四肢を砕かれた部下のスケルトン達が接着剤で繋ぎ合わせているところだった。


「離れて! ソーちゃんから離れて!」

「わかった! 離すからそんな力を込めて無理やりぃぃぃぃ右腕がもげルゥゥゥゥゥ!」


 ソロティスにくっついていたポリアが尻尾など持てる力を駆使し引き剥がそうとしポリアの悲痛な悲鳴が湖周辺にBGMとして鳴り響き、魔王軍のバーベキューは続いていく。


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