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しかし、挟み込まれた

「いやぁぁぁぁぁぁ!」


 おおよそ魔王が上げるとは思えない悲鳴をあげながらソロティスは廊下を駆け抜ける。すでに魔力は切れかかっているが人間というか魔族というか死が迫るとリミッターのようなものが振り切れるのか限界以上の力を出せるようだ。

 しかし、その限界以上の力を酷使して駆けるソロティスを嘲笑うかのように、更なる速度を持って駆り立てる殺戮人形キルルがMKMの護衛(撮影)隊をこともなさ気に切り刻み、壁を天井を蹴りながら迫る。


「まぉぉぉさぁぁぁぁまぁぁぁぁぁ! 目玉ちょぉぉぉだぁぁぁい!」

「なんで僕のなんだよ!」


 振り返りソロティスが叫び見たのは人間では明らかにできないであろう立体機動をとるキルの姿だった。


「それはぁぁぁ! 前まおーさまとの契約だからだよぉ!」

「父様は死んだじゃん!」

「だから息子のまおーさまに移行したんじゃん!」

「ひどい話だ⁉︎」


 キルルと前魔王との契約。

 それは前魔王との戦いに敗れたキルルが「魔王の配下になる代わりにいつ、いかなる時でも命を狙ってもいい」という魔法契約ギアスである。

 前魔王であるサントリードは暴力の化身とも言えるほどの力をもってキルルを仕えさしていたがソロティスは違う。キルルにとってソロティスは二代目でしかないのだ。


「だったらキルルは自由でいいじゃないか!」

「それはそれ! これはこれ!」

「最悪だ!」


 しかし、キルルは別に現魔王たるソロティスに特に不満はない。どちらかといえば好きな部類に入るであろう。

 ただし、殺したいほど愛してるという部類に入るわけだが。


「身動きを止めて一気にちかづくよぉ!」

「あの⁉︎ 仮にも僕魔王だよね!」


 後ろからの声に対してソロティスは抗議の声を上げるがキルルは笑う。


「System! 空間パッケージ004展開を開始。広域殺戮兵器を展開さします」

「身動きを止めるのに殺戮兵器⁉︎」


 走るキルルの背後の空間が徐々に歪み、幾つもの漆黒の巨大な兵器が姿を現してくる。そのどれもが素人目の前にも凶悪極まりない物ばかりだ。


「System!魔道機関銃(ガトリング)十四門、魔道ランチャー八門、有線式空間斬剣(ソードハーケン)四本展開。ネーム広域殺戮兵器タイプ1『まおーさまと楽しく遊ぼう!』と登録し、展開完了」

「ネームと展開された兵器のギャップさがひどすぎる!」

「いわゆるキラキラネームってやつだよぉ!」


 違う気がするがそんなことを止める人間は誰もいない。

 展開された魔導兵器の数々を自分の手足のごとく動かすためにキルルは調整を行いながら、手始めとばかりに砲身を動かしソロティスを狙う。


「ドォォン」


 ふざけた口調と共に魔導ランチャーの砲身が火を吹き、全速力で逃げているソロティスを狙い撃つ。


「なぁぁぁぁぁぁぁ!」


 これ以上速度を上げようとしてもこれ以上速度が上がらないソロティスは絶叫を上げながら走る。するとソロティスが羽織っていた紅いマントがゆらりと揺れる。

 放たれた砲弾がソロティスに当たる直前、紅いマントが拳の形へと変わり砲弾を掴み取り、逆に砲弾を放ったキルルへと投げ返した。


「っ! 有線空間斬剣ソードハーケン!」


 まさかマントが反撃してくるとは思っていなかったキルルは息を飲み,驚愕に目を見開きながらも背後に展開された武装の一つ、キルルの思い通りに動く剣、有線空間斬剣ソードハーケンが即座に展開する。即座にキルルの想像通りに飛翔した有線空間斬剣ソードハーケンは投げ返された砲弾を紙を切るごとく容易く切り裂いた。当然、切り裂かれた砲弾は爆発するが背部のユニットが即座にキルルを守るべく盾を全面に展開。全ての爆風を遮る。


「あの、マント……」


 盾が再び背部のユニットに収納され、露わになったキルルの顔は忌々しいとばかりに歪んでいた。


「あのマント、マリアの手作りのやつかぁ」


 マリアベルジュが勝ち誇ったような笑みを浮かべているのがキルルの脳裏に浮かぶ。

 あの忌々しくも魔王を守るマントは明らかにマリアベルジュの魔力が込められた手作りのものだ。


「そうなると、手加減しなくてもいいよね!」


 狂気の笑みを浮かべたキルルは微調整が完了した全ての武装を完全展開。全ての砲門がソロティスを狙う。


全弾発射フルバースト!」


 全ての兵器が火を吹き、ランチャーから放たれた魔力弾が壁を貫通させ、機関銃ガトリングが廊下を粉砕、有線空間斬剣ソードハーケンが首を跳ねるべく唸りを上げる。

 ソロティスは走るのに必死で気づかないがそれらを真紅のマントが迎撃を開始する。

 壁すらも貫通さした魔力弾を拳上になることで裏拳で弾き、機関銃ガトリングの弾幕をマントに戻ることで防ぐ。


「ならば!」


 全てを弾かれたのを確認したキルルは有線空間斬剣ソードハーケンを四方全てから放つ。

 これならば全てをマントで防ぐのは不可能だろうという判断だった。

 想像通りマントは一つを迎撃に成功するが残り三つは迎撃不可能だった。


「あ、やりすぎたかも」


 マリアベルジュが関わったからつい本気を出してしまったが有線空間斬剣ソードハーケンはソロティスを細切れにしてもなお釣りが来るほどの破壊力である。


「うるさいです!」


 イラついた声と共に扉が音を立て、開け放たれ中からに旋風が飛び出し宙を飛ぶ。

 旋風はソロティスを切り裂こうとする途中の有線空間斬剣ソードハーケン三つ全てを蹴りつけ弾き飛ばすと優雅に着地する。

 背中に迫る殺気が消えたことでソロティスは肩で息をしながら床に座り込み振り返り、キルルは自分の攻撃を止めた人物をめんどそうに見ながらも警戒する。

 そして、その両者の視線を一身に受け止める者が優雅に金の髪をかき上げながら立ち上がる。


「こんな時間に私様わたくしさまの部屋の前で暴れる不埒物はどこのどいつ?」

「こ、コルデリア」

「なんだ吸血鬼ですか」

「あら、殺戮人形と魔王さまではありませんか」


 キルルにはこいつうざいなーと言わんばかりの顔をソロティスには蒼いドレスの裾を摘み優雅な礼を行い微笑を浮かべる。


「お二方、ここは私様の領域。そんな場所でこんな時間に暴れまわるとはいい度胸ですわね」


 コルデリアにそう言われ、周囲を改めて見ると先ほどまで走っていた廊下とは違い全てが黒に統一されていることに気づく。

 ガラスにも薄く黒い色がつけられており、日差しが入ってこないように細工を施されていた。


「もう、お昼ですよ? 引きこもり吸血鬼。キルルはまおーさまと遊ぶのに忙しい。さっさと部屋に戻って寝たら?」


 下手をしたら殺していたかもしれない攻撃であったがそんなことを全く顔に出さずにキルルは言い放つ。その言葉を受けたコルデリアの額に青筋が音を立て浮かぶ。


「私様はヴァンパイア、昼は寝るのが基本、でふぉるとです。あなたのようにひたすら動いていればいいといったオンボロ人形とは違いますわ」

「言うじゃん」


 声音が若干下がりながらもニヤニヤと笑みを浮かべたキルルと青筋を浮かべながらも瞳は笑っていないが顔だけに微笑を浮かべるコルデリアがソロティスをそっちのけで対峙する。

 ソロティスは逃げ出したかったが何故か腰が上がらず動けない。真紅のマントがまるで動きを遮るかのように床に張り付いているからだ。


 まさに一触即発。

 どちらもきっかけを待つかのようにジリジリと間合いを詰めていた。殺しの間合い(キルゾーン)と言うのがあるのであればそれは今まさに両者の真ん中の領域がそう呼ばれる物であろう。


「System! 近接パッケージ!ネーム「こいつムカつきから殺しとこ♥︎」展開」


 背部にある武装がゆっくりと異空間に戻り、先程までとは違う、あらかじめ登録しておいた武装を異空間から呼び出し、即座に武装をキルルは展開。

 背中に幾つもの近接武器を背負い、完全なる近接特化型への武装へと変わる。


「顕現なさい、タナトス」


 対してコルデリアは一振りの剣、細剣レイピアを取り出すと構え、キルルに突き付ける。


六死天グリメモワールの一人、コルデリアの名の下に、今なら裸で土下座で心優しい私様は許してあげますけど?」

「心優しい人は裸で土下座なんか言わない。それにごめんね?」


 突然謝るキルルにコルデリアは怪訝な表情を浮かべる。


「なんで急に謝られるんですの?」

「いや、女の裸で興奮する女だなんて思わなかったから…… それにコルデリアはキルルの好きなタイプじゃないから、むしろ吐き気がするくらい嫌いだから……」

「そこになおれ! この異常人形がぁぁぁぁ!」


 なおれといいながらもコルデリアが顔を真っ赤にさしながら一足跳びで間合いを詰めるという矛盾した動きを行い閃光のごとく突きをキルルにはなつ。

 が、キルルはそれを背中に背負う武器を一振り手に取り振るうことで弾く。刃が合わされることで薄暗い廊下に小さく火花がちらつく。


「私様は同性愛者ではありません!」

「だよねぇー 例え真実でも否定するよねー わかるわかるよー」

「この、欠陥人形が!」


 喋りながらも両者は攻撃の手を休めずにひたすら斬撃の音のみが廊下に響く。


「い、今のうちに逃げないと」


 すでにソロティスの見える次元を超えた戦いから逃れるべく必死にマントを引き剥がそうとするソロティスだったがマントは以前床から離れない。

 ならば、いっそマントを脱いで逃げればいい話なのだが以前マリアベルジュの作った服を誤って捨ててしまった時、彼は全治十年の負傷を負ったため、捨てて逃げるという選択肢が頭に浮かばなかったのである。

 これぞマリアベルジュのトラウマ教育と言える物だろう。


「しぃぃぃねぅぇぅ! 吸血鬼!」

「スクラップになりなさい! ポンコツが!」


 コルデリアの突きを幾度も受けたキルルの武器は刀身にヒビが入るがキルルはそのたびにその武器を放棄し、背中から新たな武器を取り出し、果敢に攻撃の手を緩めないが、細剣レイピアでの守り、攻撃を崩せないでいた。

 そしてコルデリアはというとキルルの武器を破壊寸前まで行ってもすぐに換装されるため、その都度武器の間合いを調整するという行為を繰り返していたためこちらも攻めきれずにいるのだ。

 当然、魔王軍の最強の六死天グリメモワールの二人が暴れれば周辺はすでに廊下と呼べる形を形成していなかった。それでも『通路』として存在しているのは魔王城の中が異界化されており、その魔力で形成されているからとしか言えない。


「やだぁ! もう、部屋帰ってがだいずる! まだ、そっちのぼうがマヂ」


 飛んでくる家具の破片、キルルの武器の破片がソロティスの周囲に飛んで来るたびにソロティスの嗚咽の混じった悲鳴が鳴りあがる。


『ええ、その通りです。初めからズルなどせずにきちんと課題をこなしていればよかったのです』


 どこからともなく声が聞こえる。

 その声が聞こえたのかキルルとコルデリアも攻撃する手を止め、周囲を警戒しているようだった。


『ですが安心しました。ちゃんと理解をしていただけまして』


 言葉が発せられるたびに魔力が空間に満ちる。

 それだけで息苦しさを感じるほどに。


「ねぇ、コルデリア……」

「言われなくても私様も理解しています……」


 二人が凝視するのは影。

 特殊な魔法で暗闇にはならない程度の薄暗さを保った領域にある影だ。

 コルデリア、キルルにもある薄っすらとある影だが、二人が凝視しているのはソロティスの影だ。


『ですから、私が力を貸すとしましょう』


 声とともにソロティスの影が膨張。

 瞬く間に膨れ上がるとソロティスよりも大きくなり、


 バァァァァァン


 爆音とともに弾くけた。

書いててこの魔王、事故で死ぬんじゃないかと不安になりました

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