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魔王軍の旅行先

「魔王軍の旅行地か」

「ええ、予約などまでしないといけませんのでね」


 ファンファンニールの言葉にマリアベルジュは頷く。

 魔王軍というとブラックなイメージがあるものであるがソロティスの率いる(実質仕切っているとマリアベルジュ)の魔王軍はというて意外としっかりと福利厚生がしっかりしているのである。


 セツブンの時にもあったように有給はもちろんのこと、産休といった手当のほか、魔王城が攻め込まれた際に怪我などをした場合には労災もしっかりと下りるというものである。

 そのようなモンスター社会にしてはブラックな軍勢が多い中、破格? の好待遇であるソロティス魔王軍。そのため魔界では就職したい所No. 1な所以である。

 そんな魔王軍の中でも一番の人気イベント。それが魔王軍旅行である。

 自由参加でありにもか変わらず参加率はほぼ百パーセントを叩き出すほどである。


「候補地は決まっているのかな?」

「去年はドブレビ山に行きましたから今年は逆の海に行こうかと思ってます」

「ドブレビ山……」

「あれは楽しかったねぇ〜」


 片やげんなりとしたコルデリア、片や楽しそうに思い出し笑いをする桜。とても同じ場所に行ったとは思えないほどのリアクションの差である。


「まさか活火山で噴火するなんてね〜」

「笑い事ではありませんでしたわ⁉︎ 私様は生きた心地がしませんでした!」


 ドブレビ山の旅館に泊まりに行った魔王軍であったが実はその山が火山であり噴火するとは誰も予想していなかったのである。ただの噴火ならば問題ないほどの魔王軍のモンスターたちであるが、ここは魔界。吹き出るものは最上級魔法を軽々と凌駕するほどの魔力密度を持った溶岩や岩であり当たればただではすまないようなものばかりであった。


「みんな楽しんでたよ?」

「普通のモンスターや魔族は! ですわ!」


 火山噴火は他の魔王軍所属のモンスター達には非常に受けた。というかみんな観光気分で見ていたほどだ。だが、コルデリアが率いる不死者の軍勢(ノーライフパーティ)は大きく影響を受けたのだ。


「あれで強くなったと聞いたが?」

「そういうもんだいではありません!」


 疑問を投げかけたファンファンニールにコルデリアはすぐさま噛み付いた。

 不死者の軍勢(ノーライフパーティ)は死霊のモンスターや魔族でこうせいされておりすでに死んでいるもの達である。そんな彼らは物理攻撃などはあまり通じにくく魔法を使うことを得意としている軍勢でもある。


「あんな…… あんな姿になって!」


 手で顔を覆いコルデリアはしくしくと泣いているようなそぶりを見せる。そんな姿を桜は頬杖を付きながら半目で眺めていた。


「ちょっとゴッツくなっただけじゃない」

「可愛さ! 可愛さがありませんのよ!」


 テーブルを砕くが勢いでコルデリアは拳を叩きつける。というか実際にテーブルは砕けていた。


 火山噴火の際に溢れた高密度の魔力は命を持たない彼らの魔力に直接干渉し、大きな変化をもたらした。

 単純に言えばかなりつよくなったのである。ただし、見た目がかなり怖いものになってしまったためソロティスは見ただけで失神した。


「私様が時間をかけ可愛いものだけを集めた軍団でしたのに……」


 コルデリアは可愛いものが大好きである人形であったり服であったり可愛いものだけを集めるのが趣味なのだ。それは彼女が率いている不死者の軍勢(ノーライフパーティ)もコルデリア激選の可愛らしいもの達である。

 しかし、高密度の魔力を吸い込んだ不死者の軍勢(ノーライフパーティ)はすでに異形の軍勢として同じ魔王軍のモンスター達も目に入るとギョッとするほどである。


「まぁ、戦闘面では問題ないほど強化されたので問題ありません」

「私様には大問題です!」

「今は旅行地です」


 コルデリアの怒鳴り声を聞き流しマリアベルジュは話を進める。


「私なりに安直で山という案を出しましたがどなたか案はありませんか?」


 マリアベルジュが集まっている六死天グリモワールの面子を見渡しながら尋ねる。


「はいはーい! 海ならゲヘナ海がいいです!」


 桜が大きな声を上げながら手を振り回す。


「ゲヘナ海ですか。あそこは確かリヴァイアサンが大量発生していませんでしたか」


 リヴァイアサンは海に生息する悪魔である。一般モンスターからしたら襲われたらひとたまりもない強さを誇っており海の天災とまで言われるものである。


「リヴァイアサンのお刺身が食べたい!」


 しかし、海の天災も魔王軍の、ひいては桜の前ではただの食材と化す。しかも大量発生。桜なら嬉々としてリヴァイアサンを逆に絶滅危惧種に追い込むまで狩りとるだろう。

 欲望が胃袋に直結していた。

 特にいい案も浮かばないためマリアベルジュは無下にはせずに一応候補地として書き込む。


「ふむ、なら僕はガーバー温泉かな? あそこは骨に染みるいい温泉だからね」

「絶えず煮えたぎっているような温泉じゃないですか…… あそこは確か二百度近いはずでしょう?」


 呆れたような顔をしながらマリアベルジュはウキウキとした様子で語るファンファンニールを見た。

 ファンファンニールはスケルトンであるから特に問題はないが普通のモンスターならショック死するほどの温度である。


「HAHAHAHA、みんな気合が足りないんだよ」


 かなり適当なことを言っていた。

 ため息をひとつ付きマリアベルジュはコルデリアへと目を向ける。


「コルデリア、あなたはどこか行きたいところはありませをんか?」

「そうですわね。他の魔王城に攻め込むというのは……」

『却下却下!』


 想像以上に過激な発言だった。思わず全員が否定した。

 しかし、コルデリアは不満げである。


「最近は大した戦いもないんですわよ? ストレスが溜まりますわ」

「そこの骨でも殴って発散してください」

「おい、僕は関係ないだろ⁉︎」


 全く関係のないところから自分に被害者役が回ってきたファンファンニールが怯えたような声を出す。


「ならマリアさんは? 海以外に希望ないの?」


 怯えるファンファンニールなど目に入らない桜がマリアベルジュに尋ねた。マリアベルジュは改めて聞かれると「そうですね」と腕を組み思案し始める。


「あ、世界の拷問器具展覧場とかはどうでしょう?」

『いやだよ!』


 名案とばかりに顔を上げ輝かしたマリアベルジュであったがすぐさま意義の声が上がる。


「なぜです? 拷問器具の歴史、運用法などを学べるまたとないチャンスなんですよ?」

「どこに魅力を感じる要素があるんだい⁉︎」

「拷問じゃお腹は膨れないんだよ⁉︎」

「すでに拷問スキルはカンストしてますわ!」


 さりげなくコルデリアがカミングアウトしていたが総スカンである。マリアベルジュは理解できないと言わんばかりの、少し意義がありそうな表情を浮かべながら自分の案を取り下げた。

 それを見て、桜、ファンファンニール、コルデリアの三名は安堵の息を漏らした。


「こう見ると僕の案と桜の案がまともに見えてくるから怖いね」


 ゲヘナ海とガーバー温泉。

 どちらも一般的には危険地域、魔境であるが、魔王軍の前では旅行先に上げられるほどの危険レベルである。


「そうですね。ではやはり私のオススメの世界の拷問器具……」

『却下だといった(ですわ)ろ⁉︎』


 なぜか異様に拷問器具展にこだわるマリアベルジュ。

 そんな落ち込み気味のマリアベルジュを見かねた桜が気楽に声をかけた。


「拷問器具展にはソーちゃんとデートに行けばいいんだよ。きっとソーちゃんなら断れないよ(物理的な意味で)」

「な、なるほど!」


 マリアベルジュほ目から鱗と言わんばかりに目を見開いた。おそらくは尻尾があれば振りちぎらんとばかりに降っていることだろう。


「じゃ、どうしますの? ゲヘナ海? それともガーバー温泉? どちらでも構いませんけど」


 コルデリアはすでに興味がなくなかったのかどこからか取り出したヤスリで自分の爪を研ぎ始めていた。


「桜、ここは年長者である僕を立てて君は譲るべきじゃないかい?」

「死んでから年を取ってものーかんだよのーかん!」


 桜とファンファンニールが身長差があるにも関わらずに顔を突き合わせ一触即発の雰囲気を醸し出していた。


「遅くなりましたぁ!」


 そんな空気の中、キルルがテンション高くにこやかにメイド服を揺らしながら扉を開け放った。後ろのワインも鎧の音を立てながらも小さく頭を下げ会議室の中に入る。


「で、これはどういう状況?」

『説明を求む』


 桜とファンファンニールが言い合いを始めたため会議として収集がつかなくなった会議室内を見ながらワインとキルルは首をかしげる。


「今年の旅行先で揉めまして。ゲヘナ海とガーバー温泉、そして拷問器具展のどれかと」


 しれっと却下された拷問器具展を足してマリアベルジュは素知らぬ顔で告げる。


「うわ、拷問器具展とか誰よ、趣味悪。絶対デート先とか選ぶセンスなさそう」

「趣味悪……」


 今までの会話内容を全く知らないキルルが言葉の刃で不敗を誇るマリアベルジュの心を切りつけた。マリアベルジュは顔色が悪くなった。


「だいたい拷問器具ですよ? 何を見るんですか? 殺された人の血液型でも想像して言い合うんですか? キルル、理解できませんね」

「うう……」


 知らないというのは恐れも知らないということである。キルルはひたすらに言葉のナイフを無自覚に、無邪気に振り回しマリアベルジュを切りつけ続けていた。


『ま、まぁ、話し合いの結果はどうするのでござるか?((((;゜Д゜)))))))』

「ええ、もうどこでもいいんじゃないですかね?」


 机に項垂れ、涙を流しながらマリアベルジュは適当に答えた。いつもならうざいというワインの顔文字にも一切触れずにだ。ある意味異常事態である。


「うーん、でもまおーさまはナシャル湖に行きたいとか言ってたよ」


『ナシャル湖に?』


 キルルが思い出したように言った言葉に全員が聞き返した。


「なんでもこの前異界モニターで特集されてたって言ってたよ」

「特集……」


 魔王さまは意外と流行りものが好きだった。


「では、今回の旅行先はナシャル湖へと決定します」


 争っていた桜とファンファンニールもいがみ合うのを止め、しぶしぶ椅子に座り同意する。


「ええ、悪趣味じゃないプランで作って見せますよ、ええ、悪趣味じゃないんです……」


 マリアベルジュが暗い顔しながら呟いているのが呪いをばら撒いているように見え、他の六死天グリモワールの面々は嫌な顔をするのであった。

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