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魔王軍のセツブン EP1

時事ネタです。

前回の話とは繋がりはありません

 魔王城、大広間。

 そこはいつもならこの城の主たるソロティス同様のゆるい空気が流れているのだが今日だけは緊迫した空気が張り詰めていた。

 または場内を警戒して回るモンスター達も同様であり皆慌てたように動き回っていた。


「いたか⁉︎」

「いや、こちらにはおらないようだ」


 ただの探し物をしているにしては切羽詰まった様子を見せている。


「く、急ぎ探せ! そうでないと、そうでないと我らの……」


 隊長らしきモンスターが命じると集まっていたモンスター達も一つ頷き再び散らばると探し物を再開する。

 そんな彼らを壁際から顔だけを出し、覗き見ている者の姿があった。六死天グリモワールの一人、コルデリアである。


「つ、捕まるわけにはいきませんわ」


 モンスター達の探し人。それはコルデリアである。

 その姿はいつもの蒼いドレスであったが所々に穴が開きいつもの優雅さが感じられないような服装である。


「マリアベルジュめ…… 忌々しい物を準備しやがってくるましたわね!」


 憎々しげと言わんばかりにコルデリアは顔を歪める。よくよく見れば彼女自慢の金の髪も所々焦げたような跡が見て取れた。


「とりあえず、今日は逃げ切らなければまずいですわ」

「いられました!」

「よし、今度こそ捕まえさしていただくのだ!」

「見つかりましたわ⁉︎」


 逃げる算段をつけている間にモンスターが隠れているコルデリアに気づく。コルデリアはすぐさまモンスターが来た通路とは反対方向に向かい駆け出した。


「よし、あれ(・ ・)を投げろ!」

「了解!」


 モンスター達が一斉に何かを掴みコルデリアに向かい放り投げ始める。いつもなら城の警備の魔物の攻撃など物ともしないコルデリアであったが今日は違った。

 全身全霊の力を使い回避(・ ・)に努める。


「うなぁぁぁ!」


 自身を鼓舞する叫びを上げ、人型という形の可動域を超える。腕や脚はあらぬ方向に曲げながらも飛んでくる物を躱す躱す。普通のモンスターなら躱すことのできないような弾幕であっても最強の称号たる六死天グリモワールの名は伊達ではないと言わんばかりにコルデリアは躱し続ける。

 しかし、いかにコルデリアと言えども全てを躱し続けるのは無理があるのか幾つかが肌をかすめた。

 投げつけられた物が肌に触れた瞬間、


「いたぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」


 コルデリアは悲鳴をあげる。かすった場所からは煙が上がっていた。


「っ! 影よ!」


 煙をあげる腕を抑えながら吸血鬼の能力である影を操る力を使い瞬時に影の壁を作り上げ通路を塞ぐ。


「許すまじ…… 許すまじ……」


 怨嗟の呟きを漏らしながらコルデリアは廊下を駆ける。吸血鬼の血と同じような赤さを持った瞳が今はいつも増して憎悪という色を混ぜ紅く紅く燃えていた。


「許しませんわよ、マリアベルジュゥゥゥゥゥゥ!」


 獣の如き怨嗟の声が魔王城に響き渡った。



 二日前



「人間の世界ではセツブンという習慣があるんだねぇ」


 今日の授業、課題が終わったため広間にて異界モニターで他の世界を見ていたソロティスが感想を述べる。彼が丁度見ているのはもうじき節分のために店から節分用の豆が売り切れているというニュースだった。


「セツブン?」

『何かを割るのでござろうかな?』


 ソロティスと同様に広間にいた六死天グリモワールの二人、桜とワインが反応する。ただし、二人は以前人間の里を襲った時に手に入れたオセロに夢中であった。


「なんか豆をまいて食べるらしいよ」


 ソロティスもきちんと理解しているわけではないので見ていた部分を自分なりに解釈して言葉にする。

 するとワインがいたく感心したかのように頭を上下に振っていた。


『いべんとに使ったものを再び食料として使うとは人間もなかなかやるでござるな』


 感心する点が違う気がするがこの場にだれもそれを指摘するものがいない。桜にいたってば自分がオセロで負けているのでワインが余所見をしているうちにワインの黒の駒を自分の白の駒にひっくり返すという反則を行っていた。


「でもなんで豆なんだろうね。豆なんかじゃ悪いのは倒せないと思うんだけど」


 ソロティスの脳裏には魔王城で働いているモンスター達が浮かんでいた。それらはどう考えても豆投げつけるだけでは死なないだろう。


「投げるなら聖水位にしないとモンスターってしなないと思うんだけどね」

「HAHAHAHA、それは少し違いますね魔王様」


 ソロティスの横に黒い魔方陣が現れるとそこから次々と金の骨が姿を見せはじめた。


「ファンファンニール」


 金の骨は完全に姿を見せるとマントを羽織り、小さな王冠を頭上に乗せ空虚な眼窩をソロティスへと向ける。


「ええ、先ほど魔王様が仰った通り豆などここのモンスターには全く効きませんよ。あ、聖水もほぼ効きませんね。特定のモンスターくらいです」

「そうなんだ?」


 きょてんとした顔をしたソロティスをカタカタと骨を揺らしながらファンファンニールは笑う。


「特定のモンスターといっても下位のモンスターくらいですがね。例外は吸血鬼くらいです。無論、豆では死にませんが吸血鬼には聖水は効果的ですからね」

「そうなんだ?」

「ええ、下手したら即死です一般的な聖水。つまりインチキ商品では意味がないものでしょうが本物。つまり『聖女の涙』が混ざった聖女ならばですがね」


 世間一般で売られているものは信仰心の高い僧侶が祈りを込めた水として売られているが本当の意味での聖水ではない。本物の聖水は神の指定を受けた聖女が流した涙を精錬された水に混ぜることでできるのだ。そのため非常に高価なものなのだ。


「なんの話をされているのです?」


 仕事を終えたマリアベルジュが広間に姿を見せる。そしてそのまま中に入るとソロティス、ファンファンニールの対面のソファーに腰掛けた。


「セツブンについてだよ」

「ああ、人間界の行事ですね」

「さすがはマリアベルジュ、よく知っているね」

「確かに魔界では二の月の三の日でしたね」


 マリアベルジュが答え、ファンファンニールが頷いた。


「ふむ、やったことのない行事だし、やってみないかね?」

「え、本当?」


 ソロティスが期待したような瞳をマリアベルジュへと向ける。対してマリアベルジュは思案するようなそぶりを見せる。


「ま、魔王様も順調に課題をおわらしているわけですし良いでしょう」

「やった!」


 ソロティスが喜色満面で声を上げると同時に重苦しい音が響いた。

 今にいる者全てがそちらに視線を向けると先ほどまでのオセロをしていた桜がオセロ版に尻尾を叩きつけワインの右腕ごと粉砕しているところだった。


『…………!』


 ワインが首から下げているマジックボードに文字を書こうとするが恐らくは利き腕である右腕を潰され文字を書ける状態ではなかった。


「どうしたの桜?」


 下を向き表情が見えない桜を心配しソロティスが声をかける。


「……た」

「ん? なんて言ったの」


 小さな声で桜が答えるがソロティスには聞こえず、近づきながらソロティスは尋ねた。


「ズルしたのに負けたぁ!」


 ポロポロと大粒の涙を流しながら耳と尻尾をうな垂れさしていた。


((((ズルして負けるとか弱!))))


 誰もが心の内でそう思うが誰も口には出さない。なにより桜の尻尾の標的になるのが怖いのだ。ファンファンニールに至っては転移魔方陣の準備までしているところを見ると余程の恐怖を感じているのだろう。

 なんとも言えない重圧が桜から発せられている。負けたのが余程悔し勝ったようだ。


「遊びはそこまでです」


 マリアベルジュが手を叩きながら無言の空間を壊す。さすがに桜も八つ当たりで尻尾をマリアベルジュに叩きつけるような真似はしなかった。


「ではセツブンの役割分担を決めたいと思います。まずは桜、あなたには豆を入れる(ます)を準備しておきなさい」

「はーい」


 ワインの腕から尻尾を退け椅子から飛び降りた桜は手を挙げ返事をすると扉にスキップをしながら向かっていった。なんだかんだでイベントごとが大好きなのである。


「次にファンファンニール、あなたは豆を買ってきなさい。とびきり高いやつです。魔王軍でのイベントに相応しい物を買ってくるのです」

「豆くらいカネパネェ商会を使えばいいんじゃないのかね?」


 疑問符を浮かべながらも腕を振るい桜から逃げるように貼っていた転移魔方陣を起動さし、姿を消す。


「ワインは…… とりあえず腕を治してください」


 ガシャガシャと鎧を鳴らしながらワインは大きく頷くとひしゃげた右腕を持ち広間から退室する。

 用事を頼まれた三人(一人は補修)が広間から消えたことでソロティスとマリアベルジュの二人だけとなった。


「思いつきのイベントなのにそこまでお金かけるの?あとコルデリアに仕事は?」

「あまり気にはしませんが、世間一般では貴族階層にはそれなりの形というものが必要らしいです。そしてコルデリアにもきちんとした仕事が、大役があります。なによりも」


 そこでマリアベルジュはくすりと笑う。


「楽しいことは皆で分かち合うべきでしょう」


 ただし、悪魔的な笑みで。

EP2は3日にあげます

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