魔王城七不思議3 静寂の間から聞こえる怪奇音
魔王城には幾つもの広間が存在する。それはもう数え切れないほどのものであるが必要な広間というのはまた少ない。
『静寂の間』と呼ばれる広間もまたその不必要に分類される広間の一つ
である。
なぜ不必要かと言われるとこの広間の能力が『静寂』、音が響きにくいだけなのである。
「で、この『静寂の間』になにが出るの?」
今日はパジャマではなくいつも着ているような簡素ではあるが高そうな服とマントを羽織ったソロティスが隣に立つ桜を見た。
横に立つ桜は先日と変わらず赤と白の映える巫女服を着てはいたが、なぜが顔をしかめながらしきりにお尻をさすっていた。そんな桜を佐藤が心配そうに見上げていた。
「どうしたの? 桜」
「マリアさんに昨日暴れたことがばれた」
「あー」
ソロティスは特になにも言わずに察した。
マリアベルジュが桜にしたおしおきというのは実にシンプルなものであった。
それはお尻叩き。
だがただのお尻叩きではない。六死天筆頭が六死天最強に行うおしおきのお尻叩きである。生半可のものではない。
ソロティスが課題をしている間に魔王城が揺れるほどの力で叩かれたのである。
常人ならばマリアベルジュのお尻叩きを喰らえば一瞬でチリと化すような威力である。
それが立て続けに何発も叩き込まれ続けたにも関わらずお尻が微妙に痛いというレベルで済んでいる桜が異常なのである。
「まぁ、それはいいの。今日調べるのはここ『静寂の間』の不思議」
「どんな不思議なの?」
「内容としてはありきたりなものだよ。『静寂の間から聞こえる音』ってやつ」
「ふーん」
適当な返事をしながらソロティスは『静寂の間』の扉へと視線を向ける。細かく装飾された扉からは桜のいうような音は一切聞こえてこない。
「ま、入ろっか」
桜は特に警戒することもなく扉を開き、『静寂の間』へと足を踏み入れていく。そのすぐ後ろに佐藤が付いて行き、さらに慌てたようにソロティスが続く。
ソロティスが部屋の中に入ると扉は自然と閉まり、その思いの外に大きく響いた音にソロティスはピクリと体を震わせる。
入った広間は特に何か目立ったものがあるわけでもなくがらんとした広い空間があるだけだった。
「なにもないよ?」
ソロティスは特に危険がないことを感じ取ったのか広間の真ん中に向かい歩き始める。桜と佐藤も真ん中に向かい歩いていく。
「デマだったんじゃないの?」
「んー確か時間の制限があったと思うから待つしかないよ」
明らかに服装とは全く合わない金の懐中時計を取り出し時間を確認した桜はポケットをゴソゴソと弄ると白い布を取り出し、ソロティスの方へと手渡す。
「これは?」
受け取った白い布をまじまじと見ながらソロティスは桜に尋ねる。
「魔法道具、『神隠しの布』っていうの。被ると姿が見えなくなるの」
桜はそう言い、軽く布、『神隠しの布』をはためかせると頭から被る。すると周りの景色に同化していくかのように桜の姿が消えていく。
「おお」
感嘆の声を上げながらもソロティスも桜同様に『神隠しの布』を被る。
「これで姿見えないのかな?」
被っている本人は消えてるかどうかは全くわからないためソロティスは不安に思う。
しかし、不安に思っているソロティスの腕を何かが掴む。
「ひぃ⁉︎」
「ソーちゃん、魔王なんだから情けない声出さないでよ」
掴まれた腕の方を恐る恐るといった様子でソロティスが振り返るとジト目を浮かべ姿を消したはずの桜が立っていた。
「『神隠しの布』は触ったら見えるようになるんだよ」
「先に言ってよ!」
ソロティスは怒鳴ったが桜は無言で手を離して姿を消す。
「ごめん! 離さないで! 怖いから!」
途端慌てだし泣き始めたソロティス。しばらく泣いていたソロティスを堪能した桜は再びソロティスの腕を掴むとソロティスの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「調子に乗らない」
「ばぁい」
魔王の威厳は微塵もなかった。
◇
透明化して静寂の間に入り早一時間。
ソロティスは意外と平気である。本来、横暴な者が多い魔王の中、ソロティスは魔王の癖に待つのが全く苦にならないのだ。
さて桜はというと先ほどから座って待つということを止め、『神隠しの布』をかぶった状態のまま拳を突き出したり尻尾を振るったりとしてそれを追いかけている佐藤で遊んでいた。
しかし、佐藤が耳をピクピクと動かし、動きを止めさらに桜も同じように動かしていた。
「なにかきた?」
ソロティスがそれに気付き尋ねると二人は耳を動かしながら頷いた。
「きた」
「バウ」
二人は返事をひ、野生の獣のごとく気配を消し、部屋の隅のほうへと移動し息をひそめた。
ソロティスも同じように部屋の隅に移動すると真剣な眼差しを向ける桜の横に腰を下ろし二人同様に扉へと視線を向ける。
ちなみにだが普通は『静寂の間』の中は外の、外は中の様子を感知することができない。単純に桜と佐藤の感知能力が桁外れに高いのである。
やがて『静寂の間』の扉が静かに開かれ一人の人わ型の影が見えた。
(誰かきたよ)
(しっ! 騒いだらバレるよ)
桜とソロティスがひそひそと話す中、渦中の人影はゆっくりと扉を閉めると何かを握りしめながらフロアの真ん中に向かい歩き始めた。
「ふぅ、誰にもばれずに来れたみたいですね」
(ばれてるけどね)
(静かに)
余計なツッコミを入れるソロティスを桜が制する。幸いにも人影は気付いたことはなかった。
ー(ねぇ、あれってローレライじゃない?)
(ほんとだ)
『静寂の間』に入ってきた人影の正体。それは人間界の海に多数就職するのが一番多い種族のローレライである。
人間界の海で海に出る男達をその美声で魅了し船を沈めるという美女兼あくまである。
(なんでローレライがここにくるの?)
(さぁ?)
ソロティスと桜が頭を捻っている間にローレライは男を魅了するためなのかやたらとヒラヒラとした衣装のポケットから何かを取り出し構えた。
(なにかの武器の練習かな?)
(ローレライが? 武器を使う練習をしてるなんて聞いたことがないけど)
ますます疑問を深める二人には全く気付くことなくローレライは緊張した面持ちで手に持ち、構える何かに向かい大きく息を吸い込み、
「あ、あれ魔法拡声器だ」
呆然とソロティスが見たことを告げる。瞬間、
「〜! 〜! 〜! 〜!」
大きく声を張り上げた。
瞬間、空気が軋む。それどころか静寂を作り出すはずの『静寂の間』が悲鳴をあげるかのように振動する。
そしてソロティスと桜はというと。
『ギャァァァァァァぃぁぁぁぁ!』
耳を押さえて絶叫していた。
ローレライの歌声は確かに美声であった。だがその麗しい容姿からは考えられないほど音程が外れているのだ。
「なにこれ! ローレライって美声じゃないの⁉︎」
「痛い!痛い! 耳! 耳痛い!」
ソロティスの疑問の叫びに対して普通よりかなり耳がいい桜は耳を押さえて悲鳴を上げ転がり回ることで返事をする。佐藤はというと悲鳴を上げるどころか泡を吹き痙攣して倒れていた。
「〜♪ 〜♪ 〜♪ 〜♪」
そんなソロティス達が悲惨な目にあっている中、すでに自分の世界に入り込んだローレライはというと額に汗すら浮かばせながら美声でありながら破滅的な歌を披露し続けていた。
ローレライが熱を込め、トーンが上がるたびに『静寂の間』が悲鳴を上げ、壁にヒビが入ったりガラスが砕け始めていた。
本来、ローレライとは歌で魅了した後に船を潰すものなのだがこのローレライが放つ歌声には魅了の魅の字も見られずただただ破壊の歌声が響き渡っていたのだ。
「これだよ! 絶対! 『静寂の間』から響く怪奇音ってこれ以外考えられないよ」
「うぅ、痛い、痛いよぉ」
いつもの頼もしい桜ではなく耳を押さえて泣きじゃくっていた。尻尾もいつものように活気ある姿ではなくうな垂れたかのようにぐったりとしていて身動き一つ取らなかった。
「さ、桜がダメージを受けてる」
いつもやたらと元気な桜なだけにソロティスには衝撃的な展開だった。
とりあえず壊滅的な音が響き渡る中、ソロティスは頭を抱えて泣きじゃくる桜の尻尾と佐藤の尻尾を掴み引き摺りながら『静寂の間』の扉へと向かっていく。
すでに扉もひび割れていつ崩壊してもおかしくないようないで立ちに変わっていた。
ソロティスにしては自分の命の危機であるがゆえに必死である。すでに天井はひび割れが無い所を探すほうが難しく、いつ崩落が起きてもおかしく無いレベルだった。
ソロティスが桜と佐藤を引き摺り扉に手をかける。
「あら、やだ! 今日は調子がいいみたいだわ。もしかしたら音痴が治ったのかしら?」
その言葉にソロティスは伸ばしていた手を止め、さらには機械的な動きを見せながらローレライのほうへと振り返った。
「あれで治った⁉︎」
驚愕の新事実である。
「なら次は本気で歌ってみようかしら」
機嫌よく再び魔法拡声器を口元に近づけていったローレライを見たソロティスは止めていた扉を開ける動作を再開する。
「〜♪ 〜♪ 〜」
再び破壊美声が『静寂の間』に響き始め部屋の崩壊が再開される。
落ちてくる瓦礫のことなど気にせず音痴のローレライは歌い続ける。
「ゼィゼィゼィ!」
ソロティスはというと『静寂の間』の外のひび割れた扉に寄りかかっていた。
桜と佐藤を引き摺って辛うじて破壊音声から逃れたることにせいこうしていたのだ。
「はやく、早くここから離れないと……」
ひび割れた扉から離れるべく立ち上がった瞬間、ソロティスの背後の扉が崩れ始めた。
「あ……」
それを振り返り間抜けな声を上げた瞬間、崩れた扉の隙間から聞こえてきた破壊美声が耳に入り、
ソロティスは昏倒したのであった。
『『静寂の間』から聞こえる怪奇音』
ローレライの美声音痴と判明。
全員昏倒




