魔王城七不思議2 恐怖! 夜中に動き回る装飾用甲冑!
深夜な魔王城の廊下に二つの灯りが揺れる。
桜とソロティスはランタンを手に廊下を歩いていた。
桜はいつも通りの巫女服にやたらと膨れ上がったリュックサックを背負い、ソロティスはパジャマに真紅のマントていうなんとも言えない格好であった。単純に興奮した桜がソロティスの着替えを待たずに連れ出したためソロティスはマントしか取れなかったというのもあるのだが。
「それで桜、調べる七不思議に目星は付けてるの?」
興奮状態の桜を止めるのは自分では無理だということをよくわかっているソロティスは止めるのではなく早めに終わらすという方向に切り替えるべく前向きに考える。
「んーとね、とりあえず今日はこれ」
桜が手にしていた雑誌の一部を指差しソロティスに見えるようにしてきたのでソロティスは覗き込んだ。
『恐怖! 夜中に動き回る装飾用甲冑! 見たら死ぬ危険あり』
「いきなり死の危険が⁉︎」
「おもしろそうでしょ?」
戦慄するソロティスとウキウキとしている桜。
ソロティスとしては死の危険がある時点で行きたくないのであるが桜は無意識のうちにかソロティスの手を掴んでいるので逃げられない。
「じゃ、いくよー」
「神様!死にませんように! 死にませんように!」
ソロティスは魔王のくせに神様に祈りを捧げ、桜に引きずられていったのであった。
◇
魔王城には幾つもの装飾用の甲冑が存在する。廊下、会議室や部屋のいたるところにも存在するのだが、城の中で一番甲冑が多く存在するところはどこかと尋ねられると皆が口を揃えて言うだろう。「中央回廊」と。
中央回廊は魔王城から他の場所に行くためには必ず通らないといけない場所。言わば魔王城の顔とも言える場所である。
そんな場所であるがゆえに甲冑がやたらと配備されているのだ。
几帳面なマリアベルジュが管理しているためきっちりと左右対称に設置されている甲冑の数は百を超えるのだ。
「昼間も不気味だけど夜もまた不気味だね」
「ソーちゃん、尻尾離して」
天井はガラス張りになっており魔界の赤い月の光が降り注ぎそれを浴び紅く染まる甲冑のそびえるフロアを桜のとソロティスは歩いていた。
完全にビクついているソロティスは桜の尻尾の一本を力強く握りしめており、桜が自由に動けないので抗議の声をあげていた。
「ばか! 桜ばか!」
「なんでわたし怒られてるの?」
「死の危険があるんだよ⁉︎ そんなところに僕一人で置いてきぼりにしてみなよ! どうなると思ってるの!」
必死の形相で振り返った桜に詰め寄るソロティスに攻撃力では圧倒しているはずの桜があまりの剣幕に後ろに下がった。
「ど、どうなるの?」
「まず、殺害されるね!」
「……魔王なんだからそんな自信満々に言わないで。せめて一矢報いてよ」
「僕にできる最後の抵抗はダイイングメッセージを書くことくらいかな」
「未だかつて死んだ時にダイイングメッセージを書く魔王なんて聞いたことがないよ」
尻尾を離す気がないソロティスに呆れながらも仕方なしに桜は歩みを進める。佐藤はというと欠伸をしながら緊張感なくソロティスの後ろをついてきていた。
「これ、どうやって捕まえる気なのさ?」
ソロティスは怯えながらも尋ねる。
甲冑の数は百を超えるのだ。一つずつ調べていてはかなりの時間がかかることはすぐにわかったからだ。
「え、当たりがでるまで薙ぎはらうだけだよ?」
「え……」カタカタ
「「ん?」」
桜の言葉を疑うように返したソロティスの言葉に呼応するように幾つかの甲冑が揺れる。
しかし、桜とソロティスが視線を向けるとピタリと揺れが止まった。
だが、六死天たる桜はきちんと感知しておりキツネ耳をピコピコと揺らしながら手近な一体の甲冑にスキップを踏みながらソロティスの離した尻尾を機嫌よさそうに左右に振りながら歩み寄っていった。佐藤もその左右に揺れる尻尾に引き寄せられるかのように桜の後ろをついて行っていた。
「ジー」
あえて声をだし甲冑を凝視する。それも動きを見落とさないように魔力を放ちながらである。ただ、無造作に意味もなく放たれた魔力は甲冑を覆いこむとわずかな動きをした瞬間、桜にバレるのだ。
「その甲冑動いた?」
危機感知は高いが他はそうでもないソロティスが疑問の色を乗せた声でたずねた。ソロティスには動いたかも? というレベルでしかわかっていないのだ。
「……動かないね」
しばらく甲冑を睨んでいた桜であったが微動だにしない甲冑から視線を外し、踵を返しソロティスに向き直った。そう、桜だけは。
響くのは破砕音。
確かに桜は振り返った。しかし、尻尾は別だったのだ。桜が振り返った瞬間、安堵したかのように僅かに揺れた甲冑を桜の尻尾が問答無用で薙ぎはらったのだ。
そして佐藤も宙を飛んだ。薙ぎ払われた尻尾が美味しそうな食べ物に見えたのだ。
薙ぎ払われた甲冑は軽々と宙を舞い恐ろしい速度で飛翔すると壁に叩きつけられバラバラと小さな部品となり床に瓦礫の山と化した。
「やっぱり動いてた!」
桜が喜びの声を上げ飛び跳ねる。しかし、喜んでいるのは桜だけである。吹き飛ばされた甲冑と同じように動くことのできる甲冑たちは口がないが心の中で悲鳴をあげる。
『このままではヤバイ!』
しかし、現状はどう見ても詰みである。動けば凶刃と化した桜の尻尾が迫り、動かなかった場合も時間の問題で桜の凶刃の餌食となるだろう。
誰もがその場を動けずにいる中、佐藤が尻尾にかぶりつきぶらぶらと揺らした状態でその場の最強が動いた。
「何体いるのかな?」
楽しげな口調と共に桜の尻尾が頭上で唸りをあげる。佐藤も唸りを上げて振り回されるが全く離そうとしていなかった。
「桜、あんまり散らかすとマリアに怒られるよ? あと佐藤は大丈夫なの?」
何が起こっているかわからないソロティスはキョトンとしつつも桜が暴れようとしていることがわかったのか釘を刺した。あと、異様に桜の尻尾が気に入っている佐藤を心配した。
マリアベルジュに怒られる。
そう聞いた瞬間、ぴくりと頭上に掲げられていた尻尾達が一斉に動きを止める。
そして桜も顔が若干青くなっていた。
「マリアさんに怒られる…… それはマズイ」
魔王城において恐怖の代名詞は六死天であるが六死天内での恐怖の代名詞はマリアベルジュである。
「つまり、証拠を残さずに」
桜は尻尾を伸ばさずに拳を握りしめる。そして背負っていたリュックサックを床に下ろした。
「撃ち抜く?」
握った拳を軽く振るう。ただしそれは桜にとっての軽くでありその他には違う。
桜が拳を打つ。その度に空気が揺れる。ただ本人は納得がいかないのか拳を振るいさらには蹴り技も試すかのように繰り出している。
「ん……」
しばらく試行錯誤した上でなんとなく納得したかのように桜は微笑む。
「これで散らばらない!」
宣言と共に桜の拳が消える。ただ、周囲に風が吹き荒れた。そしてその風ら離れているはずのソロティスにも届いていた。
「ん、風?」
ソロティスが周辺をキョロキョロと見たがなにも風が出るような物はなかった。というかソロティスの想像では拳とは風を放つものではないのだ。
桜の拳が空気を叩き一瞬にして空気が衝撃波へと変わり甲冑の真ん中に穴を開ける。しかも周囲には一切の破片すら落ちていなかった。
「てい! たぁ! とりゃぁ!」
なんとも気合の入らないような掛け声と共に拳が消えるというありえない現象が発生し、次々と轟音を上げながら甲冑の腹に穴が次々と開けられていく。
「桜! すごいよ! それどうやるの!」
桜が拳を振るたびに甲冑に穴が開いていくことに気づいたソロティスが興奮したような声を上げる。
近づいてきたソロティスに褒められた桜は満面の笑みを浮かべたまま固まる。どうやら教えようとして自分でもどうやっているのかいまいち理解していないことに気付いたようだった。
「……ノリ?」
しばらく考えた結果素直に答えた桜であったがソロティスは明らかにがっかりしていた。
そしてそんなソロティスを見て桜はわたわたとしていた。
「もう少し! もう少し練習したらわかるかも!」
「いいよ、桜の説明感覚的すぎるんだもん。僕理解できないし」
桜の教え方は擬音ばかりで全くというほど中身がないのだ。本人もなぜ出来ているのか理解できていないから当然といえば当然なのだが。
「それより桜、甲冑は?」
「あ!」
ソロティスに説明しようと頭を捻っていた桜であったが本来の目的である不思議現象である甲冑のことを思い出し慌てて振り返った。
すると何体かの甲冑が音を響かせながら逃げ出している姿が見て取れた。
「捕獲しなくちゃ!」
リュックサックから桜が取り出したのは巨大な虫取り網。しかし、網というには語弊があった。なぜなら普通の虫取り網なら網の部分は虫を傷つけないように意図になっているが桜が構えた虫取り網は網の部分が伝説の武器などに使われている『鋼すら切れる!』が売り文句の最硬素材オリハルコンで出来ているのだ。
そんな伝説の素材の無駄遣いをした虫取り網を手にした桜が全力で跳躍。両手で構えた虫取り網を逃げる甲冑へと唸りを上げさしながら振り下ろした。
普通の網ならばこれで捕獲したことだろう。だがオリハルコン製の網は頭から甲冑に覆いかぶされると網の部分が触れた甲冑を熱したナイフでバターを切り裂くがごとく網目状に切り裂いた。
「ああ⁉︎」
このような結果を想定していなかった桜は一瞬にして自分が作り上げた甲冑の細切れを虫取り網を振り下ろした姿勢で呆然と見つめていた。
「虫取り網で甲冑を斬った⁉︎」
虫取り網は斬るものではないが常識が覆った瞬間であった。
桜は気を取り直すかのように顔を振ると再びオリハルコン製の虫取り網を構え、今度こそはと言わんばかりに床を翔ける。
加速し、逃げる甲冑の前面にブレーキをかけつつ巫女服をはためかせながら回りこむと周囲には桜の履いている靴が焦げた臭いが充満する。
「てい!」
可愛らしい掛け声と共に振るわれた虫取り網が先ほど同様に甲冑の頭から被せられる。
だが、無情にも虫取り網は全く抵抗することなく甲冑をスライスしていく。
「…………」
桜もなんとなくこうなることがわかっていたのだろう。微妙にがっかりしたような顔をしていた。
「パウ」
桜の尻尾を噛むのを止めた佐藤がトコトコと桜に近づいていくと器用に前足で慰めるかのように桜の肩を叩いた。
「佐藤器用だなぁ」
ほのぼのとした様子で感想を告げるソロティス。
翌日、またしても夜更かしがバレた桜はマリアベルジュに説教をくらい反省文を二千枚書かされたのはべつの話である。
『恐怖! 夜中に動き回る装飾用甲冑! 見たら死ぬ危険あり』未解決!
考えたら不思議現象そんなにシラナカッタ




