婚約者来たる! だがしかし……
「時間ですね」
偽有乳によって大きくなった胸元から懐中時計を取り出し時間を確認したマリアベルジュ。
「うー! 裏切り者」
そんなマリアベルジュを同じ貧乳仲間だと思っていた桜が尻尾をバタつかせ、唸り声を上げて裏切り者呼ばわりしていた。ソロティスが両肩に手を置いていなければさっきのようにマリアベルジュの胸へとキツネパンチを繰り出し続けたことだろう。
しかし、今のマリアベルジュにとっては桜の嫉妬など敗者の言い分にしか聞こえないのドヤ顔で笑うだけだった。それがまた桜の神経を逆撫でるをわかっていてしているのだからたちが悪い。
『来たようでござる』
ハラハラとしながら二人を見ていたワイン出会ったが、いち早く魔力の乱れを感じ取り頭上へと視線を向けていた。
自然、他の三人も視線は上に向く。キルルは変わらず鎖で縛られたまま気絶していた。
そんな魔王軍の面々が魔界の空を眺めているとキルルの武装展開時のように空間が歪む。歪んだ空間からは幾つもの雷が発生。そしてその雷を従え、漆黒の馬が大きな馬車を引きながら姿を表した。
「RAAAAAAAAAAA!」
嘶きと共に宙を掛ける漆黒の馬と馬車。それを御しているの馬に座る小さな影だった。
しばらく蛇行するように宙を走っていた馬車であったがやがてゆっくりと速度を落とし下降。
ソロティスたちの目の前に足を止めたのである。
「よっこらせと」
おっさんくさい声を上げながら黒馬からおりた小さな影はペタペタと足音を立てながらソロティスの前に歩み寄ると深々と礼をする。
「魔王ソロティス様、そして六死天の皆様、この度は我が主、イザベラさまの無理な訪問を許していただき、誠に感謝いたします」
「頭を上げてください。ペルギン殿。イザベラ様はソロティス様の許嫁。多少のむりにはおおじますわ」
マリアベルジュがニコニコとした笑顔を浮かべながらペルギンに告げる。
「感謝いたします」
マリアベルジュの言葉にペルギンがゆっくりと頭を上げる。その姿を人間がみたらこう言うであろう。
『ペンギンが喋ってる!』
と。
イザベラの配下であるペルギンはペンギン型のモンスターである。見た目は完全にペンギンなペンギンなだが魔王の娘の側近を務めるだけのことはありモンスターとしてのランクはS。かなりの上位なのである。
そのかなりの上位であるペルギン、なぜかタキシードに蝶ネクタイという執事ぽい服装をしているのだ。
「ソロティス様もお元気そうで」
「そう見えるなはペルギンの目玉は腐ってるか、寿命だよ。相変わらずこの城から逃げたしたいんだけどね」
ソロティスがげんなりとしながら答える。心の底からの本心であった。
そんなソロティスを見ながらペルギンはホッホッホと好々爺のように笑う。
「マリアベルジュ、桜、キルル、この場にはいらっしゃいませんがコルデリアという美女を侍らせて置いて逃げ出したいとは贅沢な悩みですぞ」
「僕は魔王なんてやりたくないんだよ」
疲れたようにいうソロティスに対して美女と言われて上機嫌の桜が機嫌良く尻尾を振りながらペルギンに近づきバシバシと背中を叩く。
叩かれるたびにペルギンは揺れるが彼の足元の地面には蜘蛛の巣状にヒビが入っており、さらには周囲には衝撃波とも言える物が飛び散り、その威力、そしてペルギンの強さがうかがえる光景であった。
「マリアベルジュ殿はどこか変わりましたか?」
「⁉︎ わかりますか!」
マリアベルジュの顔が一瞬にして花が咲いたように輝く。そして、褒めて欲しいと言わんばかりに胸を強調するようなポーズを取り始める。
「ええ、身長が伸びてウエストが太くなりましたな」
「違う! そこじゃない!」
輝いたような笑みが一瞬にて曇る。後ろで顔を背けてワインが震えていた。
「なんと! 私、見る目には自信があったのですが」
ペンギルが驚愕の声を上げながらも再びマリアベルジュを注視する。マリアベルジュもこれでもかというほどに胸を強調する。
やがて全身を眺め終わったペンギルはふっと軽く笑う。
「わかりましたよ。マリアベルジュ! あなた!」
ゴクっと、マリアベルジュの喉の音が鳴り上がる。ソロティスとワインも緊張したような表情を浮かべながら二人を見入り、桜はっ言うとあからさまに不機嫌そうな顔をしながら鎖に縛られ気絶したままのキルルの上に音を立て座りこんだ。
一瞬の静寂を桜が立てた音が破った瞬間、ペンギルは腕か羽かわらかないのを上げ、マリアベルジュを指すと大きく息を吸い込み、
「足のサイズが一センチ大きくなりましたね!」
ドヤ顏で言い放った。
「だまらっしゃい! この盲目ペンギンが!」
そして立て続けに胸を強調したのにも関わらず、華麗に無視されたマリアベルジュはキレた。
瞬時にマリアベルジュの拳が消え、次いでペルギンが吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたペルギンは蹴りとばされたボールのように飛び、数回地面をバウンドしても減速せず城門の下に広がる街へと吹き飛ばされ続ける。
しばらくすると街の一部から破壊音、そして土煙が上がり始め軽い悲鳴が城門まで聞こえ始めた。
容赦無く全力の蹴りを仮にも魔王の婚約者の配下に叩き込んだマリアベルジュは怒り心頭といった様子で足を床に振り下ろし綺麗に整えられていた床は見るも無残な姿に成り果てていた。
「ペルギンさん吹っ飛んじゃったよ?」
桜が土煙が上がる街の方を指差しながら告げるとマリアベルジュがギロっと音がなるような目つきで睨んできたのでソロティスの後ろに隠れた。
「あんなペンギンは絶滅してもいいでしょう?」
『……一応は同格であろう?』
今だ怒りが収まらないマリアベルジュにワインがマジックボードが書いた文字を見せるとマリアベルジュは小さく舌打ちをした後に再度、今まで以上の力を込めて床を蹴り上げる。
爆音、土煙が上がり、桜が嫌そうな顔をしながらソロティスに土埃がかからないように尻尾を動かし、土煙を逸らす。ワインは特になにもせずマジックボードを持ったまま立っていた。
「そうですね。私が、胸の大きな私が大人気なかったことは認めましょう。ワイン」
『なんだでごさる?』
鎧が音を鳴らしながらもワインが首を傾げる。
「あのペンギン拾ってきてください。死んでたら放置でいいですよ」
多分死んでないですが、とマリアベルジュはため息交じりに告げる。仕方ないと言わんばかりにワインは肩をすくめると鎧を鳴らしながら街の方へと歩き始めたようとする。
「いや、驚きました。まさか私の体があそこまで飛ばされるとは」
さも当然というように聞こえる声にソロティスは驚いて振り返り、桜は耳を動かしながら驚いたような顔を見せ、マリアベルジュは憎々しげに、ワインは歩みを止めた姿勢を直立不動の姿勢に戻しただけだった。
全員の視線の先にはタキシードに一切汚れのついていないペンギルの姿があった。
「ど、どうやって?」
「禁則事項です」
ソロティスの問いを一言でばっさりと切り捨てたペンギルは何事もなかったかのようにペタペタと足音を立てながら歩き始めると馬車の方へと向かっていった。
そしてどこからか赤い布を取り出し広げる。すると明らかに持っている布の量では足りない距離である馬車の出口から魔王城入り口の間を赤い布が道のように敷かれた。
「それでは我が主であるイザベラ様のご登場でございます」
馬車のドアに手を掛け、魔王軍の面々に視線を送りながらペルギンはドアを開き、膝をついた。
魔王軍一同も心なしか緊張した面持ちを浮かべながら馬車からイザベラがおりてくるの待つ。
「イザベラ様?」
頭に疑問符を浮かべたペルギンが地面についていた膝をあげ、馬車の中を覗き込んだ。
そして少しすると慌てたようにパタパタと羽を動かしながら魔王軍のまえをウロウロとし始めた。
さすがに不審に思った一同。ただ一人ソロティスだけがかわいいね。と空気を読まない感想を述べ、桜がそれに頷いていた。
「どうかしましたか? ペルギンさん」
さすがに放っておくことができずにマリアベルジュは声をかける。すると振り返ったペルギンの瞳とあった。その瞳には焦りが見え、さらには顔面が蒼白になっているのだ。
「い、イザベラ様がいらっしゃらないのです!」
『え、』
ペンギルの声に魔王軍全員が声を合わせる。
続き、マリアベルジュがため息を付きながら前に出ると震えるペンギルを押しのけ馬車の中を覗き込む。
「……確かにいらっしゃいませんね」
「イーちゃんが馬車から消えたってこと⁉︎」
マリアベルジュの確認した現状にソロティスもペンギル同様に顔を蒼くしていた。怖いものが苦手なソロティスは同様に得体の知れない超常現象なども苦手なのだ。魔王のくせに。
「いえ、これは消えたというよりは……」
馬車から顔を戻したマリアベルジュが言葉をきり、頭上へと視線を向ける。同時に桜の耳がピコピコと動き、尻尾が警戒しているような動きをし始めた。
「なんかすごいのがくるよ」
ワインがそれとなくソロティスを後ろへとやり、さらには自分が前に出ることで壁になろうとする。桜は鎖で縛られたままのキルルを立ち上がらせると盾にするように構えた。そしてマリアベルジュは静かにペンギルから距離をとった。
誰もが防御の姿勢を取った瞬間、先ほど馬車が出てきたときのように空間が歪む。
いや、歪むというよりはねじ開けられたというべきであろう。ぽっかりと空いた穴から濃密な魔力が流れ出す。そしてその魔力を突き破るように赤い輝きが姿を現した。
「綺麗なやつが出てきたね」
ソロティスにも見えたその輝きに六死天はソロティスほど呑気な感想を持たなかった。一瞬にして防御のレベルを上げるために全員が防御を上げる魔法を使用する。そうしている間にも赤い輝きは確実にソロティス達の方に近づいてきていた。
「全員、耐衝撃に備えなさい」
マリアベルジュの言葉に六死天が頷く中、ソロティス、ペンギルだけが赤い輝きを見上げていた。
「あ、あの輝きは……」
ペンギルが呆然としながら呟いていると赤い輝きの全容が徐々にわかるほどの距離になってきた。
「ペンギィィィィィィィィィルゥゥゥゥ!」
赤い雷を見に纏い、赤い髪を風でバタつかせ、端整であろう顔を悪鬼の如く歪ませながら憎い敵を見るように瞳を憤怒に染めた準魔王、イザベラの姿があった。
「イザベラ様! ご無事で!」
イザベラの無事を歓喜の涙で表現するペンギル。しかし、その歓喜の表情は一瞬にして苦悶へと変わる。
「どの口が言うのかなぁぁぁぁ!」
イザベラの赤い雷を纏った蹴りがペンギルの無防備な腹に突き刺さり、さらには衝撃を逃さないように地面に叩きつけた。
周囲に魔力、そして衝撃波が放たれるがマリアベルジュ、ワインは平然と受け止めソロティスを守り、桜は悲鳴を上げるキルルを盾に凌いでいた。
「グブルバァ⁉︎」
地面がクレーターを作るような衝撃を受け、無様に口から血と悲鳴を吐き出したペンギルにさらに追い打ちをかけるべくイザベラは自身の魔力を解放、赤い雷がクレーターをさらに広げるべく破壊の魔力をペンギルの体に叩き込まれた。
「げはなたりまさゃらかなぴゅ?」
すでに言語を離さずに体から煙を上げるペンギルを眺めようやくイザベラは満足げな笑みを浮かべ、クレーターより跳躍。
警戒というより呆れた顔をした魔王軍の前に姿をあらわすとドレスの裾を摘み何事もなかったかのように優雅に一礼する。
「この旅は失礼いたしました。魔王ラパールが娘、イザベラ。婚約者たるソロティス様と愛を深めに参りに来ましたわ」
ニッコリと笑顔を浮かべたイザベラは返り血を浴びた顔をソロティスに向けるのだった。
だかしかしのあとは置き忘れられたかな




