婚約者来たる! ツーカップの魔力
「キュー」
四肢を砕かれ体を鎖でぐるぐる巻にされ身動きが取れない状態にされたでワインに担がれたキルルがうめき声を上げる。
キルルの暴走を止めたワインはキルルを担いだまま城門前にいるマリアベルジュ達に合流する
そこで見たのは頭を抱えるマリアベルジュだった。
「なんなんですかこれは……」
魔王城城門前までやって来、掃除の出来栄えに満足していたマリアベルジュだったが振り返り魔王城を見上げてから頭を抱え呟いた。
やたらと磨き上げられた魔王城の至る所に電飾が飾られており何処ぞの観光地のような存在感を放っているのだ。
その光景はどう見ても魔族の王が住む城には見えないほど輝いていた。
「きれいだねぇ」
呑気な声が主たる魔王の口から零れるというのも妙なものだがそこはマリアベルジュもグッと堪えた。
(電飾はまだいい。百歩譲って許そう。何より魔王様が喜んでいらっしゃるんだから!)
鋼の精神を発揮させたマリアベルジュは辛うじて耐えた。
マリアベルジュが耐えたもの、それは電飾と同じように城の至る所から下げられている垂れ幕であった。
『祝! イザベラ様ご来店!』
『ハッピーバースデー』
『あけましておめでとうございます! 今年もさようなら』
などとわけのわからないものがモンスターには読めない人間の文字で描かれ、他にも多数飾られていた。
「あれ、なんてかいてあるの?」
ヒラヒラと揺れる垂れ幕に興味を持った桜がワインに尋ねる。
『うむ、おそらくは人間界の文字なんだろうが某では読めん( ;´Д`)』
「だから顔文字はやめなさいと……」
頭を抱えながらもツッコミを入れるマリアベルジュだったが何時ものような張りのないものだった。
「あ、マリアベルジュ様!」
城門前で飾り付けを担当していたモンスターの数体がソロティス達を見つけ膝をついた。
ソロティス、桜はヒラヒラと手を振るだけで友好的であったが、マリアベルジュは絶対零度の瞳を担当モンスター達に向ける。
『ひぃ⁉︎』
睨みつけられた担当達は全員身動きが取れぬほどねは威圧感を与えられ、ガタガタと震え始めた。
そんな彼らにマリアベルジュは音をあえて上げるようような歩き方をしながら恐怖を煽る。
「お前達電飾は許しますが、あの」
と指を風に揺れる垂れ幕にむける。
「垂れ幕はなんです」
「あ、あれは……」
「にゃはは! 自分が用意したっすよぉぉぉ!」
「きゃああああああああ!」
マリアベルジュの口から何時もの彼女からは想像できない可愛らしい悲鳴が上がる。
見るとマリアベルジュささやかな両方の胸の膨らみに細い手が添えられ残像が残る速度で揉みしだいでいた。
「これはA! いやAマイナス!抉れてる⁉︎」
「誰がマイナスですか! 抉れてません!」
殺意を隠すことなく背後にいる人物に対し、マリアベルジュは一切の躊躇もなく魔力を込めた裏拳を叩き込むべく振るう。
「にゃははは、危ない危ない! ってカスったぁ!」
殺気が振りまかれていた場に場違いな軽快な笑い声を上げながら黒ずくめの服を着、頭に大きな三角帽子を被った人物がマリアベルジュの拳を躱し、ソロティス達の前に着地する。
マリアベルジュは胸元を抑え、ダメージを受けたかのように座り込んだ。
「あ、業突く張りだ」
桜が唐突に現れた人物を指差し告げる。
「業突く張りとは失礼っすね。こう見えて義理と人情、あとお金には正直にいきているんっすよ」
「「業突く張りの人だ!」」
ソロティスと桜が再び指を指す。
それに対して黒ずくめは心外と言わんばかりの声を上げた。
「全く失礼な人たちっす。こんなに優しい魔女はいないっすよ?」
「えー、だってツクバリって男じゃなかった?」
ツクバリと呼ばれた人物はチッチッチと指を振る。
片方の目を覆う片眼鏡が怪しく光っていた。
「いいですか? 確かに自分は男っすけど心は乙女っすよ?」
そう言うツクバリは確かに男というより女顔だった。しかも、体も小柄ではないがかなり細い。初対面なら女だと言ってもバレないような体格、顔なのだ。
「ええ、男ですよね。なにを言おうとツクバリ、あなたは男なんですよ」
先ほど可愛らしい悲鳴を上げていたとは思えない底冷えするような声を上げながらマリアベルジュがゆっくりと立ち上がる。その時、ソロティス、桜、ワインは見た。
マリアベルジュの後ろに鬼のような形をした殺意が揺らめくのを。
『お、俺たちはこれで……』
同様に危機を感じた飾り付け担当のモンスター達は理由をつけて去って行った。
目的地がここのソロティス、桜、ワインは逃げることができない。しかし、ソロティスと桜は大きな鎧であるワインの後ろに隠れた。
『な、なぜ、某の後ろに隠れるでござるか⁉︎((((;゜Д゜)))))))』
動揺したように後ろを振り返るワインだが、ソロティスと桜は器用に動き回りワインの後ろに隠れ続ける。
「ワイン、君は僕を守る六死天の騎士だろう? だったら僕を守って⁉︎」
「今のマリアさん怖い、わたしまだ死にたくない」
『そ、某はどうなるでごさるか!』
「「……」」
『沈黙が怖いでござるよ!』
そんな三人を他所に殺気だったマリアベルジュがツクバリへ歩み寄る。
ツクバリはというとツーと冷や汗を流し一歩下がる。
「やだなぁ、マリアさん。軽い冗談じゃないっすか」
肩を竦めるツクバリを見たマリアベルジュの額に青筋が浮かぶ。
「軽い冗談で私の、魔王様に捧げる予定だった胸を揉んだと?」
「マリアさん! あなたにいいものがあるっす!」
身の危険を感じたツクバリはマリアベルジュを手で制止しながら一つのアイテムを取り出す。
「こ、これっす」
「……それはなんですか」
ツクバリが取り出したのは一本の瓶だ。
それをツクバリは両手を上げながらマリアベルジュへと近づいて行き、彼女の手をとるとその瓶を手にとらした。
「これはカネパネェ商会が新勢力として売り出す予定の新商品、その名も偽有乳」
「ぎ、偽有乳?」
「そうっす! こいつを飲めばあなたの抉れて……んんー! 貧し…… 慎ましい胸もあら不思議! ツーカップアップ間違いなしという代物っす!」
「ツーカップ……」
マリアベルジュがツーカップという言葉の魔力に引き込まれた!
「今ならお試し品としてこれを差し上げるっす」
「い、いいんですか⁉︎」
先ほどまでの殺気が一瞬にして霧散。ツクバリはホッとした表情を浮かべる。
「え、ええ、ソーちゃんのところはお得意様ですからね。これくらいサービスするっす」
「ありがとう! ツクバリ! これで胸を揉んだことは半分チャラにしてあげるます」
マリアベルジュの呟きに「全部じゃないんですね」てな顔を引きつらせるツクバリ。
殺気が霧散したことでようやくソロティスと桜がワインの背後から姿を覗かしていた。
「あ、あとそれはまだ試薬だから副作用が……」
グビィ
ツクバリがなにか紙切れをだし説明をしようとした時にはすでにマリアベルジュは瓶の蓋を開け、偽有乳の中身を全て飲み干していた。
「あ……」
間抜けな声をツクバリが上げ、誰も喋っていなかった空間にやたらと響いた。
しかし、そんな声が気にならないほどの現象がマリアベルジュの肉体に起こっていた。
服の上からではあるのかないのかわからなかった胸が、徐々に膨らみを増して行き、やがては服の上からわかるほどの膨らみへと変わっていったのだ。
「坊ちゃん! 見てください! マリアの! マリアの胸が揺れてます!」
喜色満面と言わんばかりのマリアベルジュが見せつけるようにソロティスの眼前に胸を突き出す。
「本当だ、 マリアの胸が揺れてる! たゆんと揺れてる」
「うー」
抗議の声を上げるかのように桜はマリアベルジュの膨らんだ胸をベシベシと叩いていた。
「痛いですよ! 桜。でもこれが胸のある痛み!」
しかし、胸のあるマリアベルジュは気にも止めなかった。
それにイラついた桜は自分の胸をチラっと見た後に先ほどよりも強くキツネパンチをマリアベルジュの胸へと繰り出し続けていた。
「は、ははは、じゃ、自分はこれで失礼するっす!」
慌てたようにその場に転移魔法陣を描いたツクバリが姿を消す。しかし、なにやら小さな紙切れが宙を舞っているのにワインが気づき、今だ宙に漂う紙切れをつまんだ。
ワインは摘み上げたに目を落とし、ガシャガシャと鎧が揺れるほどに動揺する。そしてマリアベルジュが自分を見ていないことを確認するとすぐさま自分の空の鎧の中に拾った紙を放り込んだ。
『これはまずい! まずいでござるよ!』
ワインが拾い自身の体のウチに隠した紙。
それは偽有乳の取り扱い説明書というか効果の内容が書かれているものだった。
『偽有乳試薬品
効果、胸がツーカップ大きくなる。検証済み
効果時間は三十分 #個人差あり』
ここまではいい。ワインが隠したのは最後の項目を見たためだ。
『三十分経つと胸は元に戻る。副作用として人によっては元の状態よりも縮むことあり。原因、治療方法不明』
割とやばい内容であった。
仮にこの副作用がマリアベルジュの体に起こったとたら……
『血の雨が降るかもしれないでござるか((((;゜Д゜)))))))』
今だ胸が大きくなったことに満面の笑みを浮かべているマリアベルジュを見たワインはブルリと鎧を震わせるのであった。
ツーカップはかなり違うらしい……




