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魔王さまの婚約者

「今日の授業はここまでです」

「終わった……」


 マリアベルジュの授業終了の言葉を聞いた瞬間、ソロティスは机の上に崩れ落ちた。

 マリアベルジュの授業はソロティスが理解するまで続けられるという恐ろしいまでのスパルタだ。現にソロティスは十三時間という長い時間を授業にとられていたのだ。


「でも、これで僕あした休みだよね」


 ソロティスが晴れやかな笑顔で告げる。

 マリアベルジュも悪魔であるが鬼ではない。休息の重要性はきちんと理解している。

 喜ぶソロティスをほほえましそうに眺めていた。


「まおーさま、授業終った?」


 キルルが扉にもたれかかるよにたっており、申し訳程度に小さく扉をたたきノックをしていた。

 そんなキルルの態度にマリアベルジュは眉をひそめる。


「キルル、行儀が悪いですよ」


 マリアベルジュの注意を手をヒラヒラとさしながら無視し、ソロティスのほうへと歩み寄る。

 ソロティスが怪訝な顔を浮かべるがキルルが手にしている物に気づく。


「キルル、その手に持っているものはなに?」

「んー手紙?」


 ヒラヒラとさすのを手から持っている手紙へと切り替えながら蜜蝋で閉じられた手紙をソロティスへと手渡す。


「待ちなさい、危険物科の確認をしたのですか?」

「したよ? 爆発物、魔法的な罠は一切なし」


 心配するマリアベルジュの質問を予期していたようにキルルは答える。そして背後の空間を小さく歪めるとそこからペーパーナイフを取り出すとソロティスに手渡した。

 ペーパーナイフを受け取ったソロティスは手紙の封を切ると中に入っていた折りたたまれていた紙を広げる。手紙には紅い刻印が記されており、ソロティスが開くと同時に薄く魔力が走りぼんやりと輝き始めた。


「映像魔法?」


 マリアベルジュの呟きと同時に手紙の刻印の上に小さな人形サイズの人物が映し出された。


『ご機嫌はいかがでしょうか? ソロティス様』

「あ、イザベラちゃんじゃん」


 映し出された人形サイズの人物は異界の魔王の娘、イザベラである。

 薔薇のように赤く染まった長い髪、そして同色に染め上げられたドレスの裾をつまみ優雅に一礼してきた。


『この度は我が界の魔王ラパールに変わり、わたくしイザベラがそちらに友好の証として明日、参らしていただこうと思いお手紙を出させていただきました』


 魔王ラパール

 他の世界に君臨する魔王の一人である。

 かつてはサントリードと肩を並べるほどの暴君と呼ばれ、雷帝という二つ名を持つ魔王である。しかし、妻を娶り、イザベラが生まれてから娘を溺愛し、妻に尻をしかれるという普通の父親ポジションに落ち着いている魔王だ。


『つきましては明日の昼にそちらに着くように調整したいと思います。殿方にもいろいろと準備があると思いますので』


 にやりと音がなるような笑みを浮かべるイザベラ。それを見たソロティスがビクリと震える。


『最後になりましたが……』


 頬を赤く染め、イザベラがこほんと小さく咳払いをする。


『ソーちゃんに会うの久しぶりだからイザベラおねぇちゃんは楽しみで仕方ないよぉ! いっぱい服持ってくからたのしみにしててねぇ!』


 今までの礼儀正しさをかなぐり捨てキャラ崩壊を起こしそうな笑みを浮かべながら手を振るイザベラ。やがて魔力によって映し出されていた映像は消え、ただの紙へと戻った。


「えらく急な話ですね」

「イザベラちゃんはいつもこんな感じだったと思うよ?」


 唐突に告げられた来訪の予告にマリアベルジュは少し困ったようにするがキルルはいつも通りと言わんばかりの態度だ。

 そんな中、ソロティスだけがカタカタと震えていた。


「い、イーちゃんがくる」

「魔王様?」


 顔を青くしながら震えているソロティスに気づいたマリアベルジュが心配して声をかける。が、ソロティスには聞こえていないのか震えは全く止まっていなかった。


「相変わらずまおーさまはイザベラちゃんが苦手みたいだねぇ」


 震えるソロティスを見ながら楽しそうに笑うキルル。


「まぁ、イザベラ様はなんというか愛が重いですからね」


 どの口が言うのかマリアベルジュがため息をつく。

 ソロティスのトラウマは多岐に渡るがその中でも一二を争うのはマリアベルジュかイザベラだろう。


 イザベラはソロティスの婚約者だ。それは前魔王であるサントリードとイザベラの父であるラパールとが決めた婚約であるため、サントリードがなくなった今では無効になってもおかしくないものであるが当人であるイザベラが歓迎しているため婚約破棄されていないのだ。トラウマを量産されているソロティスとしてはたまったものではないのだが。


「どどどど、どうしよう⁉︎ また僕死にかけるをじゃないかな⁉︎」

「死にはしないところがさすがです魔王様」

「マリア、冗談行ってる場合じゃないよ⁉︎」


 ソロティスにとっては死活問題である。

 しかし、いつもならソロティスに近づく者がいたら顔をしかめるマリアベルジュもなんとも言えない複雑な表情を浮かべている。


「と言いましてもね。魔王様、一応は婚約者な訳ですし……」

「そんなの父さまが勝手にきめたことじゃないか!」

「でもイザベラちゃんはすごく頭がいいからきっと結婚したら楽できるよ?」

「そう言う問題じゃない!」

「魔王様はイザベラ様の何が嫌なんです?」


 マリアベルジュは疑問を口にする。

 マリアベルジュの記憶では小さい頃の二人はそんなに仲が悪かったようには見えなかったからだ。むしろ姉弟のように仲が良かったように見えたのだ。


「あれじゃないの? スキンシップが激しすぎるんじゃないの?」

「それは…… ありえなくはないですね」


 ソロティスは虐められていると感じているかもしれないが第三者的な視点から見ているマリアベルジュ達から見ればイザベラの行動は彼女なりのスキンシップに見えているのだ。多少やり過ぎな面は見れるがイザベラがソロティスの事が大好きだということがわかるマリアベルジュとしては位として上であるイザベラに強くも言えないというのもあるのだが。


「イーちゃんは絶対僕のことが嫌いなんだ。じゃないと、あんなの笑顔で食べろなんて言わない」


 体育座りをしながらぶつぶつとつぶやきはじめた魔王ソロティス。どう見てモンスターを束ねる魔の王には見えなかった。


「まおーさまがイザベラちゃんより強くなれば解決だよ?」

「何言ってるのキルル! 相手は準魔王クラスなんだよ!」

「魔王様、魔王が言ってて悲しくありませんか?」


 仮にも魔王が準魔王に怯える現状である。

 しかし、マリアベルジュとしてはソロティスが怯えるのも仕方ないものだと考える。

 準魔王、それは魔王よりも下ではあるが将来的には魔王になる資格を持つ者に与えられるものである。

 しかし、資格を得るにはそれに値する偉業を成し遂げなければならないのだが。


「神獣を絞め殺した女の子にどうやって勝つのさ⁉︎」


 イザベラ嬢が成し遂げた偉業。

 それは神の作り出したと言われる神獣ユニーコーンの首を締め付け、さらには骨をへし折ったことだ。

 神獣は本来、魔の者に対して恐ろしいまでに有利な能力を保有する。触れただけでモンスターを吹き飛ばしたりすることも可能だ。

 いわば、魔界に唐突に現れる天災ならぬ神災なのだが。

 その神災にたまたま遭遇したイザベラがユニコーンに一目惚れし、魔王城に連れて帰ろうとしたのだが当然、神獣たるユニコーンは拒否。イザベラの護衛をしていた者達を蹴散らしイザベラにも手をかけようとしたらしい。

 しかし、イザベラは襲いかかってきたユニコーンの首にしがみつくと父親譲りの剛力で首をあっさりとへし折りユニコーンの命を奪うと死体を引きずり魔王城に帰宅。

 父親に頼みユニコーンをゾンビ化さし自分用の乗馬にしたと言う話である。


「あんな女の子にどうすれば勝てるのさ」

「あー 気合い?」

「そこに頼らないと勝てないレベルなんじゃないか! ウワァァァァァァン!」


 泣き始めたソロティスをキルルとマリアベルジュはどうしたらいいかわからないまま立ち尽くしていた。


「ソーちゃんの鳴き声が」


 ひょっこりとドアから顔を出したのはワインの肩に座っていた桜だ。彼女はメソメソと、泣いているソロティスを発見すると軽々とワインの肩から飛び降り座り込んでいるソロティスの方へと小走りに向かっていく。


「ソーちゃんどうしたの?」


 なでなでとソロティスの頭を撫でながら心配そうな表情を浮かべる桜。桜の感情に流されるかのように背後の九本の尻尾も心なしか心配そうにしているように見える。

 ワインも鎧をガシャガシャと言わしながら入ってきたがソロティスを見た後に視線をキルル、マリアベルジュに向けると二人は肩を竦めるだけに留めた。


「イザベラが……イーちゃんが来るんだ」

「イザベラちゃんが? またお菓子くれるね!」


 頭を撫でながらも桜は満面の笑みを浮かべる。それに呼応し、尻尾が揺れ、当たった床が叩き割られて行くが本人は全く気にしていない。

 桜の中ではソロティスは大事だがお菓子も大事なのだ、


「イーちゃん、また無理難題を僕にいってくるんだ。マリアよりもきついのを言ってくるんだ……」

「大丈夫?」


 どんどん沈み込んで行くソロティスを見て流石にわるいとかんじたのか桜はオロオロとする。


「ぶ、ぶっとばしちゃえばいいんだよ!」


『うわぁ、短絡的』


 キルル、ワイン、マリアベルジュが一斉にそう思った。

 暴力者代表である六死天グリメモワール全員が同じように突っ込んだのであった。

デレデレイザベラおねぇちゃん

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